45.炎耐性
時間切れを待って魔巌洞の外に出てみると、新たちの服は乾いていた。どうやら入ったときの状態を覚えている訳でもない模様。
四人はそのまま購買に向かって水タンクを買い足すと、もう一度制服の上から水浴びをして魔巌洞の中へと向かった。
再開後、一回目の突入。都久詩の斬撃がゴブリン魔女をかすめ、音羽のキックがその脇腹を軽く抉った。惜しかったけれど水切れで終了。
満タンの水タンクに持ち替えて二回目の突入。水タンクを担ぐのに慣れてきたのか、先ほどの突入時と比べてこちら側の攻撃は鋭くなっている。しかし慣れてきたのは相手も同じ。ギリギリで躱されて当たらない。
やはりどうにも詰め切れない。
次こそ倒す、その覚悟を持って魔巌洞に再突入した。
まったくいい所がないまま、一つ目の水タンクが空になる。
二つ目の水タンクを抱えての突入、これは何回目の挑戦になるのだろうか。
「このぉっ!」
新は棍棒に持ち替えるのではなく、担いだ水タンクをそのままゴブリン魔女に叩きつけた。
驚いて逃げるのを忘れた魔女の頭に、水タンクが何度も叩きつけられる。べこっべこっと鈍い音が響いた。
「うおりゃぁっ!」
さらに魔女の襟首を掴み、拳を顔面に叩きこむ。そのたびに緑の血が飛び散り、霧になって辺りに散っていく。
さらにもう一発殴ろうとしたところで、ゴブリン魔女は瞬間移動で逃げ出していた。くそ、せっかく捕まえたのに。
新の手の中には、ちぎれた魔女の衣服の一部が残っていた。
やはり倒しきれずに水切れになり、空になったタンクを持って部屋の入り口まで引き返す。
「ごめんね、急いだんだけど間に合わなかったわ」
いや、多分そうじゃない。ゴブリン魔女はまだ余裕があった。余裕をもって瞬間移動で逃げた、そんな感じがする。
もう少しで時間切れだ。もう一回、同じ手で行くか、それとも違う手を考えるか。
「倒せそうな感じなんだけどね。あともう一歩足りない」
「続けましょう、倒すまで!」
「だよね!」
「ちょっと待ってください、そんなことより……」
木綿花が何かを言い出そうとした時、ちょうど時間切れになり、新たち四人は魔巌洞の外へと排出された。
「それじゃ、もう一回準備して行ってみようか」
「だから、ちょっと待ってください!」
空になって折りたたまれた水タンクを抱えて門から移動しようとしていると、木綿花が何度も声をかけてくる。そういえば魔巌洞の中でも何か言いたそうにしていた模様。
「どうしたの? 何かあった?」
「その、新の手の中の、それ……」
「え? 何?」
新が手にしていたのは、ゴブリン魔女の襟元、千切れて残った衣服の一部だ。
「砂になって消えてません。ということはドロップアイテムでは?」
「あ、そうか!」
砂になって消えたりせず、こうして形が残っているということは、この小汚い布切れだって何かのアイテムのはずだ。
――ゴブリンのドレスの襟 炎耐性(中)
「ああっ!」
炎耐性、それも中。
全身を包み込む形じゃないからダメかも分からないけれど、もしかしたらこのボロ布、持っているだけで炎から耐えられる可能性が!
「試してみる価値がありそうですね」
「やるとして、誰が持つ?」
都久詩か。それとも音羽か。
厳正なるジャンケンの結果、最初は都久詩、次に音羽、その次は新に決まった。
もう一度準備しなおして魔巌洞に戻ると、今までとは違い、ゴブリン魔女はこちらのことをかなり警戒している様子だ。
「二人に順番は回らないよ? ボクが決めるから!」
都久詩が『布切れ』を胸の内ポケットにしまう。
魔法耐性や炎耐性があることはわかったけれど、まだこの布切れが実際どれくらいの能力を発揮してくれるのかは未知数だ。だから都久詩の制服もみんなと同じでびしょ濡れスタイル。最初は水タンクも抱えていくことになる。
「都久詩、そんなに気負わなくて大丈夫よ。ちゃんと次で処理するからね」
それって煽ってません?
ゴブリン魔女のいる大部屋へと突入すると、火の玉の魔法が大挙して飛んでくる。水を浴びながら突き進み、敵を追い詰めていく。ここまではもう手慣れたものだ。
ごとりっ。
新の視界の端に都久詩が水タンクを置くのが映った。今の都久詩の位置はゴブリン魔女の背中側、完全に死角のはず。
炎耐性に物を言わせ、火の玉を無理やり突っ切って都久詩が飛び込んだ。
早いっ!
斬撃が走る。
ザシュッ! 音が遅れて聞こえ、ゴブリン魔女の左手が宙に飛んだ。
このままフィニッシュ……そう思った。
「うわぁ、熱い熱い熱い熱い~~~っ! 水~っ、水ぅぅっ!」
制服から炎を上げながら、都久詩が水タンクへ向かって駆け戻っていた。
なんだよ、あのボロ布っ!
何が炎耐性だ、ぜんぜん効いてないじゃないかっ!
でも、これは都久詩が作ってくれた最大のチャンスだ。ここで一気に行く以外に道はない。
新は水タンクを抱え直すと、左手を失ったゴブリン魔女に迫る。
その時、ゴブリン魔女の瞳が妖しく光った。




