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44.新戦術

 時間になり、購買のシャッターが開いた。


「預けてた鎧のサイズ調整、できてますか!」

「ああ、あれね。ちゃんと入ってきてるわよ。ちょっと待ってね」


 開くと同時に飛び込んで確認する。しっかり仕上がっているようだ。


 おお、これが新しい鎧っ!


――全身鎧 全身を包み込むように守る金属製の防具。防御力は非常に高い。ただし魔法防御力はかなり控えめ。


 え?


 もう一度確認する。


――魔法防御力はかなり控えめ。


 なん……だと?


 さらに詳しく鑑定してみると、金属製なだけあって耐火性が高くて燃え上がりにくいけれど、熱は遮断できない模様。炎の中でこんなの着てたら、焼肉になってしまうんじゃなかろうか。


「……駄目だった。魔法耐性はほとんど無い感じ」


 がっかりだけど、無いものは無いんだからしょうがない。


 全身鎧のオマケに魔法の鎧袋というのがついていた。見たところ小袋にしか見えないのに、鎧を入れて持ち運べるらしい。


 早速入れてみると、全身鎧が軽く入っただけじゃなく、その上武器まで入ってしまった。どうみても袋の大きさよりも大きかったんだけど。全部入っただけじゃなくて重さもほとんど感じない。


 便利な袋だと思うけど、そんなものよりも魔法耐性とか炎耐性とかが欲しかった。


「魔法耐性の指輪……売ってるけど、やっぱりちょっと手が出ないわね」


 予想通りとはいえ、そっちも無理か。


 となると、どうやってあのゴブリン魔女を倒せばいいのか、まったく見当がつかない。魔法の鎧袋……多分これじゃ倒せないよね。



「ああ、やっぱりちゃんと売ってました。みんなでこれを買いませんか?」


 どうしようか悩んでいたら木綿花(ゆうか)の声が聞こえてくる。行ってみたら大きなポリタンクを抱えていた。二十リットル入りの水タンクだ。ボスは諦めてキャンプにでも行こうっていうのかな?


(あらた)、あんた馬鹿なの? そんなわけないでしょ?」

「これに水を一杯入れて、頭から水をかぶりながら行けば炎にも耐えられるんじゃないでしょうか?」


 おお! なんという名案か! そんなこと、まったく思いつかなかった。


 考えてみれば、あのゴブリン魔女の炎魔法、魔法でダメージを受けているわけじゃなくて、燃え上がる炎でヤケドしていたわけだ。それなら水びたし状態になっていればそれほどダメージは受けなくて済むはず。


 思わず木綿花(ゆうか)を抱き寄せて頭を撫でてしまった。


 もちろん、音羽(おとは)都久詩(つくし)も、撫でろとばかりに頭を差し出してくる。


「今のは、ほら、ナイスアイデアだったから!」


 どうやらそんな理由では許してもらえそうにない。


「そうだ、ダンジョン! 二人はダンジョンに戻ってから!」


「私はそれでもいいんだけど、そうなると今度は木綿花(ゆうか)が黙ってないわよ? ここで終わらせておくのが身のためだと思う」

「そうだよ! ほら、早くっ!」


 良く分からない理由で押し切られた。



 二人の頭を撫でた後、人数分のポリタンクを買い込む。購買のお姉さんに笑われながら清算を済ませると、魔巌洞(ダンジョン)に再挑戦だ。


 ポリタンクに詰めた水だけじゃたぶん足りない。シャワー室に飛び込んで、服を着たまま頭から水をかぶる。


「ううう、寒いよぅ、冷たいよぅ……」

「ちょっとの間なんだから、我慢しなさいよ」


 まだ四月の真ん中だからね。水だって冷たいし、風だってかなり冷たい。


「風がない分、中の方が暖かいんじゃないでしょうか」


 四人はびしょ濡れの体で、急いで魔巌洞(ダンジョン)(ゲート)をくぐった。


 三人の美少女の白いブラウスが透けて、そのおかげでかなり人目を引いてしまったけれど、すべては命をかけた戦いのためだ。見えているのはビキニアーマーだしセーフだよね。


 中である程度は乾くだろうけど、外に出たら水浸しに戻って、また寒い思いをすることになるかも。まあ、その時はその時だ。


 魔巌洞(ダンジョン)に戻って大部屋を覗くと、あいかわらずゴブリン魔女がそっぽを向いて突っ立っていた。良く見るとニヤニヤ笑っているけれど、いつまでそんな顔をしていられるかな?


「それじゃ、行くわよ!」


 (あらた)を先頭にして、それぞれが大きな水タンクを抱えながら部屋の中に突入していく。


 二十リットルの水タンクはとんでもなく重たいはずだけど、レベルが上がった今となっては女の子にだって軽々と担ぎ上げることができるのだ。


 頭の上に大きな水タンクを抱え上げ、敵に向かって駆け寄る四人組。


 ゴブリン魔女は一瞬ギョッとした様子だったけれど、すぐに落ち着いて火の玉を連射し始めた。


 火の玉が当たると熱いには熱い。でも頭から水をかぶり続けていれば耐えられる。これならいける!


 火の玉の数が増える。でも(あらた)たちはそれをモノともしない。水タンクに水が入っている限り、(あらた)たちを倒すことなど、できはしないのだ。


「うおおおっ!」


 ゴブリン魔女に水タンク軍団が迫る。ゴブリン魔女の顔に焦りの表情が浮かぶ。


 そんなゴブリン魔女に肉薄する。


 そして攻撃……えっと、棍棒に持ち替えて……。


 少し手間取っているうちに逃げられてしまった。どうやら都久詩(つくし)も刀を抜くのが間に合わず、うまく攻撃できないでいる模様。


「任せなさいっ!」


 音羽(おとは)が水タンクを頭の上に抱えたまま、大きく踏み込んで飛び蹴りを放った。


「え? 嘘っ?」


 ゴブリン魔女を吹き飛ばすかと思った強烈な蹴りは命中しなかった。というか、そこにはゴブリン魔女がいなかった。


 もう一度、音羽(おとは)が駆け寄って蹴りを叩きこもうとしたけれど、それも空振りになった。いや、違う、当たっていたはず。それなのに命中する直前に相手が消えた。


「瞬間移動の魔法です!」


 水タンクを抱えているせいで、どうしてもこちらの動きは鈍くなる。武器の持ち替えがいらない音羽(おとは)であっても、攻撃のキレは悪くなる。


 だからどうしても敵が(とら)えきれない。


 あと一歩というところなのに決められない。


「あ、ダメっ! 水が切れたっ!」

「て、撤収ぅっ!」



 とても惜しかった。


 これを何度か繰り返せば倒すことができるだろうか。


 それとも、あと一手、何かが必要なんだろうか。



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