43.ゴブリンの魔女
ゴブリン魔女はまた元通り、大きな部屋の中央に戻って入り口からそっぽを向くように立っている。
もしかしたらその角度が可愛く見えるとか、そんなことを考えているんじゃなかろうか。まったくそんなことは無いんだけど。
「僕が正面、左が都久詩、右が音羽で。木綿花はちょっとだけ待機、上手くいきそうなら入って来て」
「ええ、分かったわ」
「頑張ろうねっ!」
「任せてください」
もう一度簡単に打ち合わせをしてゴブリン魔女の部屋に突入する。
最初と同じで、やっぱり部屋に入っただけでは火の玉を撃ってこない。新は一歩だけ前に進み、その左右に都久詩と音羽が並ぶ。それでもまだゴブリン魔女は横を向いたままだ。
さらに一歩、ゆっくり前に出る。
ピクッ
ゴブリン魔女がこちらの様子をうかがっている。
さらにもう一歩。今度は大きく踏み込むと、ゴブリン魔女の杖から大きな火の玉が飛んでくる。
ゆっくり飛んでくる火の玉を、新は大きく左に避けた。目を向ける余裕はないけれど、都久詩、それに音羽も大きく踏み込んでいるだろう。
新に向けてさらに一つ、もう一つと、火の玉が向かってくる。数が減るなら余裕で踏み込め……
え?
目の前には五つ、六つ、そしてその後ろから数えきれないくらいの火の玉。ちょっと待って! これ、さっきより多くない?
それでも何とか避けようと頑張った。あまりの数に避けきれず、いくつかの火の玉が新をかすめて飛んでいき、いくつかの火の玉が命中した。
「うわっ、熱っ!」
とてもじゃないけど避けきれない。でもこちらに攻撃が集中しているなら、左右の二人がゴブリン魔女にたどりつけるはず! ここが勝負どころだ!
その時、そんなことを思っていたのは新だけだった。
「こんなの無理だよっ!」
「熱いっ、熱いっ!」
しっかり確認する余裕はなかったけれど、新だけじゃなく、都久詩と音羽にも大量の火の玉がばらまかれていたのだ。
「撤退っ! こんなの無理です、撤退してくださいっ!」
木綿花の言葉でやっと事態を理解し入り口に駆け戻る。二人も同時に戻ってきたので、入り口は少し混乱状態だ。
「熱いってば!」
それでも火の玉は容赦なく飛んでくる。
混乱する中、なんとか音羽と都久詩を先に通して入り口から逃げ出した時には、新は背中に大ヤケドを負っていた。
「こんなの、無理だよ……」
都久詩が泣きそうな顔をしている。
うん、これはちょっと無理な気がする。
「みんな、どんな感じだった?」
背中に万能包帯を巻きながら、今の戦いの印象を聞いてみる。
「後ろから見ていたら、視界が全面火の玉みたいになってました。おそらくですけど、まだまだ余裕がある感じですね」
「ビキニアーマーでも炎は防げないみたい。何カ所かヤケドしちゃったわ。あ、まだ包帯はいらないわよ?」
まだ限界じゃないとしたら、朝霞姉妹に助けを求めたとしても、火の玉の数は減らない可能性が高い。
それだけじゃない。ここまで完璧に女子たちの肌を守ってきたビキニアーマーが貫通されている事実。少しはダメージが軽減されているかもしれないけれど、完全には防ぎきれていない。
となると力押しは避けた方が無難か?
ゴブリン魔女の方に視線を移すと、何だか薄笑いを浮かべている様子。ムカつくけれど、このまま突っ込んでも勝ち目がない。作戦を練らなければ。
「作戦、って言っても、いいアイデアが思い浮かばないんだよね」
あの魔法をなんとかしないことには、ちょっと勝ち筋が思い当たらない。
「そう? 私は思いついたわよ?」
「実は私も一つ思いつきました」
「ええ! 二人ともすごい、ボクにも教えて!」
いったいどんな手があるんだろう?
「もう少し時間がたてば、購買が開くわよ」
「あ、私のアイデアもそれです」
「購買が開くのはわかったけど、魔法を防ぐようなアイテムって買えるの?」
たしかにそう言うアイテムは存在するし、購買で売っているのを見たことがある。でもかなり高価なものだし、買えるだけの貯金があるんだろうか。
「そうじゃなくてね、新の鎧が完成してるんじゃない?」
「あっ!」
完全に忘れていた。二年生の戦士との決闘で手に入れた全身鎧。サイズ調整をお願いしていたものが、今日の朝に受け取れることになっていたんだ。
なんといっても元は二年生の装備だ。魔法耐性の一つや二つ、ついてるに違いない。
「木綿花のアイデアもそれ?」
「いえ、私が思いついたのは少し違いますよ。まずは鎧を見て、それから話しますね」
ただの思いつきだし効果があるかどうか分からないので、まずは鎧を試した方がいいというご意見。
時間切れを待って魔巌洞から出ると、新たちは購買に向かった。見たところまだシャッターが降りている。開くまではもう少し時間が必要だ。
「せっかく早起きしたのに……」
都久詩のテンションが少し下がっているけれど、もう少しだけ我慢して欲しい。
あの鎧さえあれば、ゴブリン魔女の炎魔法なんて蹴散らせるはずだから。
もう時間の問題だ。
あの人を馬鹿にしたような顔をしたゴブリン、必ずぶちのめしてやる。
まだ閉じられたシャッターの前で、新は棍棒を強く握りしめた。




