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42.魔法

 幻覚なのか、それとも空間が歪んだりしてるのか、はたまたその複合か何かなのか。こんなの絶対にまともな場所じゃない。何が起こっているのか分からないけれど、それだけは確かだ。


 左の壊れた扉から一つ入り口側に移動して、左右の扉を見る。理屈は分からないけれど、このどちらかを開ければ幻影が消えそうな予感がする。


「右を開けてみるわ」


 音羽(おとは)の言葉に三人が同意する。


 ギギギギギ……


 これまでとは違い、扉は大きなきしみ音を立てて開いていく。


 今までと同じような広さの、今までと同じような薄暗い部屋。


 ただ、違いがあるとすれば、その部屋の中央。


「階段、ですね」


「次の階層につながっているのかな?」

「ボス部屋かも!」


 どこに繋がっているか、まだ分からない。でもこの階段の先に何か答えがあるはずだ。


 (あらた)は聖者の瞳を強く意識しながら周囲を見渡した。今までの地図がボロボロと崩れ、十一マス四方の正方形の部屋が並んだ様子に入れ替わった。


「やっぱり幻覚みたいなものだったみたい」


 どうして幻覚が解けたんだろう。何を見せられていたのかも、はっきりとしたことは分からない。


〈あれはあれで現実だったのじゃ〉


 心の声さんが謎の哲学?みたいな解説してくれた。もちろんそんなことを言われても余計に混乱しただけで、意味はなんのことやら理解できない。



 階段を降りると短い通路がある。その通路は途中で折れ曲がり、さらにその先は大きな部屋になっていた。暗くてわかりにくいけれど、体育館ぐらい? いやもっと広いんじゃなかろうか。


「何かいますね。ドレスっぽい服、それに短い杖、魔法系でしょうか」

「あの顔はゴブリンだよっ! あっ、宝箱もある!」


 ゴブリンの魔法使いのボス……胸のあたりが膨らんでいるし、どうもメスっぽい。というか横乳が見えているんだけど、これって誰得(だれとく)なんだろう。



「魔法使ってくる敵って初めてよね? 大丈夫かな」

「そんなの分かんないわよ。そもそも魔法なんて見たことないし」


 魔法使いって職業があるんだから、魔法があるってこと自体は知っていた。でもどんな魔法があるのかすら良く分かってない。図書館で調べてみたいと思っていたけれど、受付のお姉さんに追い出されちゃってからまだ一度も行けてない。


「RPGだと、火とか氷とか、そういう系統が多いですよね」

「催眠、幻影、魅了、そういうのもありそうよ。さすがに即死は無いと思いたいけど」


 こちらを減速させたりする弱体化や、攻撃を無効にするような結界魔法、瞬間移動なんてものもあるかもしれない。


 一度ぶつかってみないと駄目かな。いや、そういえば鑑定があったのを忘れてた。


――クリスティーナ 種族:ゴブリン 職業:魔道師 性別:メス ゴブリン界の美少女でトップアイドル。世間に内緒でマネージャー他、数人と交際している。非処女。


 ……なんかどうでもいい情報が出てきた。ゴブリン芸能界の闇を感じるぞ。


 クリスティーナの戦闘能力、それ一本に集中して、もう一度しっかりと見る。


――情熱的な彼女なだけあって、炎の魔法が得意。魅了魔法も使えるがゴブリンのオス限定。彼女のファンのほとんどは魅了済。


 なんかゴブリン芸能界のさらなる闇に触れた気がする。


「炎の魔法が得意らしい。他のことは良く分からない」


「それ、鑑定の結果?」

「うん、そうだよ。幻影が見破れないみたいだし信頼できないけど、一応ね」


 この階層でも前の階層でも、聖者の瞳は完全に騙された。相手が上手だっただけなのか、それとも使い方が悪いのか、それさえもはっきりしない。


 結局のところ、試してみるまで本当のことは分からない。


「まず僕が入ってみる。行けそうならみんなも入ってきて」

「分かりました。気を付けてくださいね」



 斧のボスも槍のボスも、まずは(あらた)が突っ込むところから戦いを始めた。今回の魔法のボスも同様だ。


 (あらた)が一人だけで、部屋の中に一歩を踏み出す。ゴブリン魔女はまだこちらに気づかないのかそっぽを向いたままだ。


 さらに一歩、もう一歩と、ゆっくり部屋の中を進む。


 チラッとこちらを見た?


 そう思った瞬間、ゴブリン魔女が手にした杖からバレーボールぐらいの大きな火の玉が(あらた)目掛けて飛んできた。


 ちょっとビクリとしたけれど、そんなに速くないしコースも山なりだ。さっと横に避けると、もう一発飛んできた。これもさっと逆に避ける。


 この程度なら問題無さそうだ。そう思ってもう一歩踏み出そうとしたら、目の前にもう一発、いやさらにあと二発も火の玉が迫っていた。慌てて避けたけれど、そこにも五~六発の火の玉が迫っている。


「う、嘘っ!」


 右に、左にと何とか避けたけれど、目の前の火の玉はどんどん増えていく。


「ちょっ! 無理、これ無理っ!」


 走って入り口に戻る(あらた)に、後ろから数発の火の玉がぶつかる。


(あつ)っ、熱いっ!」


 入り口の通路に逃げ込んだところで火の玉攻撃は止まった。制服の背中を見てみると、数カ所が焼け焦げていた。



「すごい数の火の玉でしたね」

「一人だとちょっと避けきれないよ」


 一発一発はそれほどの威力は無いみたいだったけど、あんなのを集中して受け続けたら無事に済むわけがない。威力だってまだまだ上がるかもしれないし。


「三人で入って、火の玉を分散させれば行けるんじゃない?」

「それなら行けるかも。半分ぐらいに減れば、なんとかなりそうな感触はあるよ」

「面白そう、やってみようよ!」


 簡単に言うと(あらた)音羽(おとは)都久詩(つくし)の三人で牽制して、隙を見て木綿花(ゆうか)が突入する作戦だ。


 これならきっとゴブリン魔女を倒せるだろう。



 しかし果たして、そう上手くいくのだろうか。



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