41.翻弄される人々
翌日、教室にはやはり志郎の姿は無かった。
新は昨日のことで彼に文句を言ってやろうと思っていたのだけれど、本人がいないなら何ともしようがない。
彼のグループの女子たちによると、授業を休んで一人で魔巌洞に行ってレベル上げを続けるんだとか。
彼女たちからすれば志郎が強くなれば安全につながるわけで、表向きはそれを歓迎するようなそぶりを見せている。
だけど新にはそんな彼女たちの態度がどうもしっくりこないというか、不自然な感じがするというか、なんだか危なっかしい感じがするというか。だからといって深くかかわるつもりは無かったけれど。
頑張ってるならそれでいいかと、昨日のことは忘れることにした。
「新、昨日のアレって志郎が関係してたのか?」
「ああ、うん、まあね」
ここで嘘をついたってすぐバレる。
二年生たちに教室から引っ張り出された時、廊下で志郎が待っていたんだから。武士だってその姿を見ていただろうし。
「あいつも良く分からんな。もうちょっとグループの女の子を大事にすればいいのに」
武士はコミュ強だけあって、あのグループがほころび始めているのを敏感に感じ取っているようだ。
「新のグループはラブラブだから大丈夫だと思うけど、でもあんまり無理するなよ? 何かあったら泣くのは女の子なんだから」
「うん、分かってる」
昨日あの二年生たちとの間で何があったのか、新は何も言ってないけれど、武士はどうやらいろいろ察しているらしい。
それからの数日間は特に何もなく過ぎていった。
もしかしたらまた上級生に呼び出されるのではと、最初はビクビクしていた新だったけれど、そんな事件は全く起こらず平穏な日々が流れている。
春陽と穂乃香が新しいバッジを渡しにくるイベントも起こらなかった。木綿花に聞いてみたら、「ちゃんとこちらで処理していますよ」との返事だったので、新が知らないうちに終わっていたようだ。
魔巌洞探索の方も順調に進んでいる。というか、何も新しい事は起こっていない。第二階層では次の端っこにはたどり着いていないし、誰もレベルは上がっていない。朝霞姉妹が来なくなってからも敵の数は増えたままなので、売り上げだけは確実に増えている。でもそれだけだ。
あと、もうどうでもいいことだけど、志郎は相変わらず授業に出てこない。今も一人で魔巌洞に籠っているらしい。
彼のグループの女子たちが、こちらを気にしてチラチラ見ていることが増えた気がするけれど、もしかしてこっちのグループに入りたいんだろうか。もしもそうなら、そういうことは木綿花に相談して欲しい。
こうして何もない日々を送る。それが普通の学校生活だよね。
考えてみれば入学からの一週間はあまりに激しすぎた感。もしかしたら一生分のイベントが詰め込まれていたんじゃなかろうか。
そして次の週末がやってきた。
土曜日の早朝、魔巌洞門の前に、早めの朝食を済ませた仲間たちが集まっていた。新、音羽、木綿花、都久詩の四人組だ。
「今日こそは進展が欲しいわね」
「目指せ、端っこだよ!」
門をくぐった先は、岩壁に囲まれた四角い部屋。少し見飽きた感じの部屋だ。薄暗がりの中、正面と左手側、二つの扉が閉ざされているのが見える。
「敵は……いませんね」
この数日、魔巌洞に入ると同時に襲い掛かられることが多かったため、敵の姿がないことに少し拍子抜けしてしまう。
「何かの前触れかもね」
「確かに、気を付けた方がいいかもしれませんね。次は誰でしたっけ?」
「ボク! ボクだよっ」
再度みんなで警戒するように呼び掛けあってから、都久詩が次の部屋への扉をゆっくりと開ける。
「……あれ、何もいないよ?」
扉の向こうは相変わらず暗い、同じような広さの四角い部屋だ。
正面に扉が無い。扉があるのは左側だけ。
「角……部屋?」
「ここ、端っこだ!」
「よくやった、お手柄だ!」
喜ぶ都久詩を抱き寄せて頭を撫でる。
「何も無い部屋みたいですね」
「次の部屋に行ってみるか」
左手の扉を開けてみる。やはり敵の影は見当たらない。
そしてやっぱり正面には扉が無い。
「また角部屋だ」
「どうなってるんでしょうか」
最初まっすぐに端っこまで進んで、左に曲がってまた端っこまで進んできた。このまま、また真っすぐに進むのかと思ったらそうじゃない。
「部屋が正方形に並んでるって、勝手に思ってたよ」
「私もです」
音羽が次の扉を開けた。
「あれ? ここは……」
ここまで、開けた扉は破壊しながら進んでいる。音羽が開けた扉の向こう側の部屋は、正面に閉じた扉、そして左右に破壊された扉の残骸が転がっている。
「一度通った場所ってこと?」
「そうみたいですね」
「あ! ここ、入り口だよっ!」
右側の壊れた扉、その先は小部屋に繋がっていて、その天井には丸い模様のようなものが広がっていた。
「戻ってきちゃいましたね」
「どうなってるんだ? 地図が繋がってない……」
「どうします?」
「その残った扉を開けてみない?」
木綿花がその扉を開けると、また左側にしか扉が無い角部屋だった。
「なんだよ、これは!」
新はその扉を開ける。するとまた角部屋。
「この扉の先がどこに繋がっているのか、ですね」
普通に考えれば入り口から二つ目の部屋に繋がっているはずだ。でも恐らくそうじゃない。
「それじゃ、開けてみるね!」
都久詩が扉を開けると、右側に岩壁、そして正面と左側に壊れた扉がある部屋に繋がっていた。
「ここって……、端っこの部屋?」
だめだ、全く意味が分からない!




