40.暴走しつつある人々
やっぱり春陽と穂乃香の二人の頭も撫でることになってしまった。
これでここにいる五人の女の子全員の頭を撫でたわけだけど、こうしてみると都久詩の頭が一番撫でやすいな。撫でられるのが上手いというか。
まだそんなに長い人生を生きてきたわけじゃないけど、頭を撫でられるのに上手いとか下手とかあるのを初めて知った。絶対に何の役にも立たない無駄知識だ。
最初はギクシャクしていた三人の一年生と二人の二年生は、ちょっとづつ慣れてきたのか、仲良さそうに話をするシーンも増えてきたようだ。戦いの合間に、新から少し離れたところで、女の子同士で楽しそうにお喋りしている。
「ええ? まさかそんな……」
「だから、そこはこう……」
「でも、それじゃぁ……」
「大丈夫です。それに……」
「そんな大胆な!」
「それからこうして……」
新の方を振り返りながら、目を白黒させたり、時には顔を赤らめたり。いったい何の話をしてるんだろう。絶対に聞いちゃいけない乙女の秘密らしいんだけど、それなら新のいないところでやって欲しいものだ。
春陽と穂乃香が入ったことで襲い掛かってくるゴブリンの数が大きく増え、おかげで出番が増えたと思っていたのに、また仕事がどんどん減っている。
部屋中を歩き回ってビー玉を拾い集めながら、新は大きくため息をついた。
魔巌洞探索の後は、食堂に集まって食事がてら反省会を行う。
「今日も端っこまでたどり着けなかったね。レベルアップも無し」
「収入は大きかったですよ。決闘が大きかったです。ビー玉がかなりたくさん集まりました」
「後は春陽と穂乃香、二人がこの先どうしたいのか、どうするかね」
音羽に言われて思い出した。
今回、春陽と穂乃香と一緒に魔巌洞探索に行ったのは、お互いの能力の把握というか、実地見学というか、なんかそんな感じの理由だったような。
「そうね、新と私たち姉妹とのステディはこのままお願いしたいわ。ダメかしら?」
「ダンジョンでも言ったけど、みんなとちゃんと仲良くしてくれるなら問題ないよ」
やっぱり喧嘩や揉め事は良くないよね、面倒くさいし。
決闘後に預かっていたバッジは二人に返しておく。このバッジは模様が違っているので、いったん学校に返却して正しいバッジを受け取ることになるそうだ。
「固定グループの方は参加してもいいんですが、別グループでの活動も多くなりそうです。今までの関係もあるので」
「別グループって、決闘したあの戦士のところ?」
「あんなのはどうでもいいわ、別に固定グループってワケじゃなかったし。それよりも二年女子グループね」
「私たち、これでも二年生のトップクラスなので、面倒を見てあげないといけない同級生の女子が多いんです」
うわ、なんだか面倒くさい話だ。
「女の子だからって、別に寄生虫みたいなのを相手にしているわけじゃないのよ? でも頑張ってても報われてない子が多いのよ」
「他の二年生との関係もありますから、いきなりずっと一緒に行動というわけにもいかなくて」
二年生ともなれば、派閥とかもあるみたいだ。もしかしたらもう一年生にもあるのかもしれないけど、新は良くしらない。武士あたりなら分かるのかも。
「で、どうする? 形だけでも固定グループ組んでおく?」
「僕は構わないけど、グループ名はどうするの?」
新たちの固定グループは、元の四人の名前から一文字づつ取って『たかはし』という名前になっている。
春陽と穂乃香、メンバーが二人増えるなら、二文字増やすべきなのかな?
「グループ名が『たかはし』って……新らしいというか。またおかしな名前をつけてるわね」
春陽はちょっと呆れたような顔で新の方を見る。彼女の中では新の責任にされている模様。
「今度は六人の名前の頭文字を取って、『青葉ゆづほ』というのはどうでしょう?」
「また誰だか分からない人名シリーズ!」
真犯人は木綿花だった模様。
「名前変えるなら、ボクは『なでなで部』にしたいなっ」
「『もみもみ部』の方がいいんじゃない?」
「その方向性なら『絶倫!アラタ様』というのもいいですね」
「思いついたんだけど『美女百人斬り伝説』、ちょっと格好良くない?」
「百人で済むかどうか」
「それじゃ千人斬り……女生徒が足りません……」
「これからずっと新入生を斬り続ければ行けますよ、きっと」
いったい何の話なのっ!
まだ一人も斬ってないよ! 未使用だよっ!
「名前なんてそんなにコロコロ変える物じゃないんだから、『たかはし』のままでいいんじゃない?」
ちょっと紛糾しかけたけれど、音羽のこの一声で、元の『たかはし』のままで行くことに決まった。春陽と穂乃香の二人、名前だけの参加はやめて、状況が落ち着いてから参加ということになった。
この話し合いの意味ってどこにいったんだろうか。
二人とはクラスが違うだけじゃなくて学年も違う。スマホ無しだとスケジュール調整とか無理だしね。古代の人たちはどうやって生きてたんだろう。
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いつもの反省会が終わり、新は女性陣と別れて一人、寮の自室に戻った。
ベッドに座ってやっと一息つく。
「いろいろありすぎたよね……」
元々ボッチ気質だったわけじゃないけど、それでも長年ボッチで過ごしてきたので、他人に囲まれることには苦手感は強い。
それが入学早々、二人の美少女に押しかけられ、気づいたらそれが三人になり、そして今日、さらに五人に増えていた。何が起こっているのか分からないし、何を言ってるのか自分でも分からない。
志郎の罠に嵌められて命がけの決闘をしたことなんか、すでに頭の中から吹き飛んでしまっている。
新には考える余裕も暇もない。なぜあんな決闘が起こったのかなんて。
気づきもしない。元々声をかけたのは志郎ではなく、二年生の戦士の方だったなんて。
なぜあの戦士が新を探していたのか、その裏にはどんな事情があったのか。新には考える余地すらなかった。




