38.予想
二年生の二人は少し心を落ち着けないと厳しそうなので、ちょっと休憩を取ることになった。
「ここ、絶対に第二階層じゃないわ。ゴブリンがこんなに硬いなんてありえないわよ。新しい武器になったし、攻撃力は上がってるはずなのに。それでも倒しきれないなんて変よ!」
「さっきから簡易結界を張ってるのに、ぜんぜん止まってくれません。一瞬で割られてます……こんなの嘘です……」
さっき穂乃香が何かしてる気がしたんだけど、結界の魔法を使っていたのか。
彼女たちが知っている第二階層は、出てくるのはゴブリンだけ、それもこんなに大量じゃなくて数匹づつ。春陽の大剣の敵ではないし、穂乃香の杖でも一撃で簡単に倒せるザコなのだとか。
第七階層はまだそんなに経験はないそうだけど、第六階層の敵でもここまでじゃない。そもそもこんな大量の敵は出てこないらしい。
「そう言われても、実際に出てきてるし」
「あのね、普通はこんなんじゃないの。これ、きっとハードモードか何かよ」
「第零階層にも敵がいたよね?」
「何人か犠牲者も出たわね」
「ボスもいましたよ」
「宝箱があったよ!」
「ちょっと待って! やっぱりおかしいわ。第零階層に敵なんかいないわよっ!」
「今年の一年生、入学初日に十人以上も行方不明者が出た、そんなうわさがありましたけど。誰か上級生に狩られたのかと思っていましたが、原因はこのダンジョンだったんですね」
「時間が来て外に出たら、第零階層に行ってみる?」
「今さらじゃない?」
「いやほら、これから仲間になるなら、見学しておいてもらうのもいいかな、と思って。見ないと信じられないだろうし」
それともう一つ、もしかしたらと思うことが新にはあった。
魔巌洞から出て門で確認してみたところ、新たちがいたところは第二階層で間違いなかった。
ただしただの第二階層ではない。魑魅領域第二階層、それが正式な名前だった。
「場所を保存しておけば後で簡単に戻れるわ。そう、それで大丈夫」
さすが二年生、経験豊富な模様。
「それと、ここで今までクリアした階層が選べるのよ」
言われたように操作して第零階層を選択する。天井の卵からゴブリンが降ってくる、あのイカレた洞窟だ。
入ってみると、今では懐かしい自然洞窟っぽい風景が戻ってきた。天井はやっぱり大量のゴブリンの卵で埋まっている。
「天井に注意して。あの丸いのが卵で、ゴブリンが降って来るから」
おっかなびっくりの朝霞姉妹とは違い、新たちは何気ない感じでスタスタと卵の下まで歩いていく。
ピシピシッ!
「ほら来た! ゴブリンが降って来るから叩き潰して!」
新たちだけでなく、春陽と穂乃香の二人もゴブリン殲滅に参加だ。最初は恐る恐るという感じだったけれど、二回、三回と繰り返すうちに、動きがだんだん良くなってくる。
「こいつらは普通のゴブリンみたいね」
「うん、これは知ってるゴブリン」
「レベルが低いときは堅すぎて倒せませんでしたけどね」
「今なら楽勝よね!」
「第零階層で倒せないゴブリンが出るなんて……どんだけなのよ」
春陽が引いているけれど、そこに嘘はない。新は最初から倒せたけれど、他の二人にはかなり厳しかった。それに実際、チンピラたちが何人も犠牲になっている。
「やっぱり数がとんでもなく多いわ」
「最初からこんなのを処理していれば、あれだけ戦えるようにもなりますね」
初めて来た時は厳しかったけれど、今では戦闘力が上がっている。そんなに苦労せずに背丈ほどの高さに開いた横穴の所までやって来ることができた。
「行き止まり、じゃなくて、あそこの横穴まで登るのね」
今なら肩車なんかしなくても楽勝……と思ったけど、上手く登れなくて木綿花が涙目になっていた。しょうがないので抱っこして上まで送り届ける。
「それじゃ、奥に進もうか」
「ちょ、ちょっと待って! 私たちを置いていかないでよ!」
春陽と穂乃香も登れないらしい。
「こんな鎧じゃなきゃ、私だって登れるのよ?」
穂乃香を抱っこして登った後、春陽の手を取って上まで引っ張り上げる。フルプレートなので抱っこはちょっと勘弁してもらうしかなかったというか。
奥に進むと思った通りボスがいた。ちゃんと宝箱もある、そして相変わらずの素手だ。
ゴブリンのボスは新たちの姿を目にすると、大きく目を見開き、目に見えてあたふたし始めた。
「ちょっと待って、私たち二人にやらせてよ」
「私たちも少しは戦わないと」
みんなに目を向けると、賛成の様子。
新ではなく、春陽と穂乃香が前に出るの見て、ゴブリンボスも少しほっとした表情。戦う気力も戻ってきたようだ。
ボスは思ったよりもいい戦いをした。だけど素手ではどうしようもない。倒されはしたけれど、それでもなんだか満足したような表情を浮かべて、砂になって散っていった。
「最初のボスが、この強さ?」
「しかも元々は棍棒で武装していた? とんでもない修羅の道だったんですね」
春陽と穂乃香二人にとっても、それなりに充実した戦いだったみたいだ。
宝箱を開けてみると、中身は思った通りだった。
「あ、またビキニアーマーだよ!」
「なんとなく、そんな気がしてたわ」
「今回はピンクと水色、それも縞々ですか」
よく覚えていないけれど、木綿花に匹敵するかもしれない。いや、それ以上の可能性も。
「私たちはもう装備してるから、お二人でどうぞ」
「これまでの経験から言いますと、おそらくサイズもぴったりかと」
「何よそれ、怖いわね」
別に新が狙ってそうしてるわけじゃない。文句があるなら魔巌洞に言うべきだと思う。




