36.双子の姉妹
目の前に転がる二つのバッジ、さきほどの決闘の戦利品だ。
このバッジって固定グループのメンバー証だと思ってたんだけど、どうやらそうじゃなかったらしい。ステディの証だって話だけれど、そもそもステディって何なんだろう。
「難しく考えなくていいんじゃない? 返してくれって言われたら返してあげたら、それでいいでしょ」
「そうですね、どこの誰なのかも知らないわけですから」
「うん、面倒くさいし放置しよう」
それは放置でいいんだけど、なんだかステディについては音羽も木綿花も詳しく話したくないみたいな感じ。
「あら? それは困るわ」
「私たちが困ります」
「えっと、誰?」
新たちに話しかけてきたのは二人の美女。おそらく先輩、二年生だろうか。
「私は朝霞春陽、二年子組で戦士レベル三」
「春陽の双子の妹の朝霞穂乃香、同じ二年子組で回復士のレベル三です」
「私たち姉妹がそのバッジの相手よ」
朝霞姉妹と名乗った二人の二年生の先輩は、どちらもスラっとした美女だった。姉の春陽は長い髪を三つ編みで一つに、妹の穂乃香は同じく三つ編みで、こちらは二つにまとめている。
姉は黒ぶち、妹は赤ぶちと、二人とも眼鏡をかけているけれど、あまり似合っているようには思えない。
「あの馬鹿、こんなポッと出の一年生に負けるなんてね」
「レベルの割に弱かったから。でもあの馬鹿に捧げずに済んで助かりました」
なんかとっても厳しい事をおっしゃっている。
「それにしても、こんなモブ顔の子かぁ。かなり抵抗があるわ」
「分かりませんよ? まだ入学したばかりで、曲がりなりにも二次職の戦士を倒しているんですから。この子を少し鍛えてみるのも一興かと」
「それもそうね。仮合格ってことにしておきましょうか」
仮合格って……何を偉そうなことを言ってるんだか。
「このバッジ、何だか知らないうちに手に入っちゃったんですよね。必要ならお返ししますよ」
そうだ、面倒くさいし、バッジを返してとっとと立ち去って貰おう。
「そうはいかないわよ? ステディはどちらか一方の申し出で解消できるほど簡単な関係じゃないの」
この二人、一方的に掛け金にされて売り飛ばされてきたんだけど。それを口に出すと、何だか恐ろしい目に遭いそうだ。
「男は女を命懸けで守り続ける。女は男に心も体も操もすべてを捧げて尽くす。それがステディです。おかしな運用がなされている例も多々ありますが」
音羽たちの方を見ると、うんうん、と頷いていらっしゃるが、新はそんなことに同意した覚えがない。
「しっかり書類にサインしてくれましたよね?」
あ、あの時の書類! 固定グループを組むからって、書類をいっぱい木綿花に渡されてサインしたヤツ、あれかっ!
ニマニマ笑ってる所を見ると、君たち、分かっててやったね?
命を懸けて守る、今更彼女たちを見捨てるつもりもないし、それはそれでいいんだけど、別に何かを捧げてもらわなくても構わない。かなり寂しいけれど、見捨てられるのも仕方ない、そう思うんだけどなぁ。
「食事も終わったようだし、魔巌洞に行ってみましょうか。どれくらいの腕前なのか少し見せてもらう必要があるからね」
この人たち、何だか一緒に付いてきちゃうらしい。なんて面倒くさいんだ。
魔巌洞に行く前に購買に寄る。先ほど手に入れた全身鎧、そのままではサイズが合わないので修正してもらうのだ。
それに大剣。鑑定してみるとかなり良い物だった。
「それ、売っちゃうなら譲って欲しいわ、もちろんお金なら払うわよ」
そう言われたので、購買の引き取り価格の五割増しで春陽に譲ることになった。購買に下取りに出すと二倍以上の価格で店頭に並ぶので、こうして生徒同士で取引したほうが得なんだそうだ。
「ああ、もう、また金欠になっちゃったわ」
「春陽はお金の使い方が荒すぎですよ」
「だって穂乃香、そんなこと言ったって……」
もちろんこの大剣の売り上げもグループ共有財産。あの決闘、大きく儲かったようでいて、新の取り分はほとんどなかったりする。
個人的な取り分といえば、この金欠に嘆く姉とその妹、二人のステディ権だけだ。骨折り損のくたびれ儲けって、こういうことを言うんだろうね。
新たちは決闘の流れから全員が武装していたけれど、朝霞姉妹はまだ制服のまま。装備を整えてから魔巌洞の入場門の前で再集合することになった。
もうこのまま、あの二人を置いて中に入ってしまいたい。
何度もそう思ったけど、待つことしばし。春陽と穂乃香の二人が完全装備で現れた。
春陽の方は全身フルプレートに、先ほど譲った大剣を背中に背負っている。穂乃香はローブ姿に大きな宝石がついた杖。戦士と回復士、どちらも様になっている。
「まずは中に入って、細かい打合わせはそこで行うことにしましょう」
お互い、実際の戦いで何ができるのかもまだ分からないし、外では話しにくいこともたくさんある。
木綿花の提案に新は頷くと門を操作して魔巌洞の中へと入っていった。
「ここ、本当に第二階層? 私たちの知ってるのとはかなり様子が違うんだけど」
「あそこは確か……もっと自然洞窟っぽい感じでしたよね?」
「その話は後で聞くとして、ちゃんとした自己紹介からね。外では話せなかったけど、私たちは四人全員二次職に転職しているわ。二人は戦士と回復士って話だけど、一年生だからってあんまり舐めないで欲しいのよね」
そう、新は中級見習いなんていう変な職業だけど、音羽は拳闘士レベル四、木綿花は巫子レベル四、そして都久詩は剣豪レベル四と、全員が転職を果たしているのだ。
「えええっ! 嘘っ! あなたたちってもしかして特侵科なのっ?」
「いいえ、ただの普通科です。入学するまで魔巌洞に入ったことなんてありませんでしたよ?」
「それでもう二次職なの? いったいどうなってるのよ!」
「私たちにも分かりません」
「たぶん新が鍵を握ってるような気がするんだけど、証拠も何もないのよね」
全員の眼が一斉に新に降り注ぐ。
そんなにガン見されたって、新にだって分かることは何もない。




