35.反撃
次に来るのは全力の振り下ろし。もしもそんなものを受けたりしたら、体がバラバラになっちゃうかもしれない。
でも、隙がすごくない?
完全に胴がガラ空きなんだけど。叩いても良いのかな?
「え~いっ!」
軽く近寄って、脇腹目掛けてコンパクトに棍棒を振り抜いてみた。おお、いい手ごたえ!
「うぐっ!」
ちょっと効いたかな? 全身鎧は振り上げていた大剣を降ろすと、苦しそうな顔で脇腹に手を当てた。
それは隙なんだってば。まだ決闘の最中だよ?
「えいっ、えいっ!」
そんな状態で剣を振れるはずがない。腕に、そして足に、そして肩に、巨大棍棒が面白いようにヒットする。
それでも全身鎧はまだ立っていた。さすが二次職、そう簡単にはいかない。
剣を持った腕ごと横なぎにする。ゴキッという手ごたえ、あばらが逝ったか? 同じ場所にさらに数発ぶち込む。苦悶の顔を浮かべる全身鎧。
さらに逆側の肩に棍棒を叩きつける。今の感触は間接が粉砕したんじゃないかな。
「こ、こ……」
「こけこっこ?」
思いっきり喉を突いてやったら静かになった。と同時に、やっと片膝を地面についた。
よし、ここが勝負所! 一気に畳みかけるぞ!
「おいこら、クソガキ!」
「何しやがるんだ、勝負ついてるだろうがっ!」
ヤジを飛ばしていた二年生の先輩たち三人が乱入してきた。
えっと、勝負あり、とは言われてないんだけど?
それに相手はまだ降参とも言ってないし、手をあげてもいない。それに目を見ても、まだまだ戦意は失われていないはずだ。ボロボロ涙を流しているように錯覚するかもしれないけど。
彼らだって二年生、まだ転職してないとはいえ、初心者レベル十八とか十九とか、普通の一年生とは比べ物にならない。それが三人で襲い掛かってくる。
「きゃーこわい」
棒読みセリフ風に声を上げて、三人に巨大棍棒を思いっきり叩きつけた。
ぐしゃっ、ぐしゃっ、と嫌な手ごたえがあった。
決闘では相手は殺しちゃいけないってルールがある。乱入は禁止ってルールもある。でも乱入してきた人を殺しちゃいけないってルールは無いよね? それに今のは正当防衛ですし。
「はい、そこまでね」
さらに棍棒を振りかぶろうとした時、オッサン先輩から決闘終了の合図があった。
オッサン先輩が倒れている二年生たちに駆け寄って手を当てる。なんだか光に包まれて消えた、と思ったら、観客席に転送されたみたいだ。
「うん、死んでないみたいだね。キミはちょっとやりすぎだよ? 面白かったし、止めないでいたのも悪かったけどね」
乱入者をシバクのは許されるけれど、殺しちゃいけないらしい。そのルールは知らなかったけど、素直に謝っておく。
乱入した三人は学校に罰金を支払うことになるそうだ。そしてその一部が迷惑料として新に振り込まれるらしい。
もちろん決闘に負けた全身鎧も無事では済まない。その装備の全てがむしり取られ、相手の口座預金の全額も見たことない機械で振り込みの処理が行われた。
ちなみに振込先は新の個人口座ではなく、固定グループの共有口座だ。戦った本人だけじゃなく掛け金にされた女子全員に権利がある、オッサン先輩にそう言われたら、それもそうだと納得した形だ。
そして彼の持っていた二つのバッジ、二年生女子生徒のステディ権もまた、新に手渡された。
ステディ権か。
良く分からないけど、これっていったい何なんだろう?
「新ぁ~っ!」
すべてが終わって、グループの女子たちが駆け寄ってくる。ちょっと心配をかけちゃったかも、もうしわけなかったかな。でも三人の美少女たちはこうして祝福しにきてくれる。
今なら、今だけなら、彼女たちをそれぞれ思いっきり抱きしめて、頬ずりしても許されるかもしれない。
「新ぁ~っ! このぉっ!」
あれ? なんか雰囲気がおかしい?
え? なんでポカポカ殴られてるの? 痛いっ、痛いってば!
「何で倒しちゃうのよっ!」
「ボクの出番は?」
「作戦はどこに行ったんでしょうか?」
そう言えば!
新が負けた後、今度は三人で決闘を挑んでボコボコにシバキ倒す、そういう計画だった!
この時期、一年生女子が相手なら、三人がかりでも決闘が成り立つはず、そう思っての作戦だったっけ。
「みんな待ってよ。僕のせいじゃないって、相手があんまりにも弱すぎて。まさかそんなことがあるなんて思わないじゃないかっ。あ、待って! 痛いっ、痛いって!」
ちゃんと理由を説明したのに、ポカポカ攻撃が止まらない。
見た目は弱そうに見えるけど、それ、めちゃくちゃ痛いんだからね。
そう言えば志郎はどこに行った? そう思った時には彼はどこかに逃げ去っていた。
決闘騒ぎで遅くなったけど、新たち四人は学生食堂でちょっと遅めのランチ休憩を取っていた。
午後の実習はもう始まっている。欠席しても問題ないらしいし、別に急ぐ必要はない。サボりたいわけでもないんだけど、食事時ぐらいはゆっくりしたい。
「それにしても、志郎、気持ち悪い奴よね」
「俺の音羽と木綿花が……、なんて、呻いてましたよ。私たち、いつあいつのモノになったんでしょうか」
「うへっ、吐きそう……」
「ボクはずっとご主人様のモノだからねっ!」
「私だってそうよ」
それなら何で、三人がかりでボコられたんだ……。
「固定パーティとステディを組んであるのに、ちょっかいをかけて来られるとは思いませんでしたね」
「今回は撃退できたから良かったけど、やっぱり早めにレベルを上げないと危険よ」
木綿花の言葉を聞いて思い出した。
「決闘でも出てきたんだけど、ステディって何なの?」
新は手渡された二つのバッジを、ころころと食べ終わった食器の載ったお盆の上に転がした。
なんだか少し、嫌な予感がするんだけど。




