33.もう一つの陰謀
眠かった授業が終わり、次はホームルームが始まろうというその時間、教室の扉が荒々しく開かれたと思ったら、上級生らしい四人組の男子生徒たちが教室の中に押し入ってきた。
「あらあら、君たち、どうかしたの?」
担任の夏草先生は落ち着いたご様子。
突然の出来事に新だけでなく、他の同級生たちも驚いていたんだけど、もしかしたらこの野蛮な学校ではよくある風景なの?
「先生、若草新、鳴神音羽、坂江木綿花、不知火都久詩、以上四名の呼び出しです。招集状はこちらに」
野蛮人かと思った先輩方だったけれど、それなりに礼儀をわきまえている模様。
新たちグループの呼び出しのようだけれど、なんで呼び出されているのか、全く意味が分からない。
「ふうん、分かりました。呼ばれた四名は彼らに同行しなさい」
「あの、ホームルームは?」
「ホームルームも午後の授業も、どちらも出席扱いになるから問題ないわよ?」
なんなの、その招集状って! ちょっと恐ろしすぎない?
上級生に連れられて教室から出ると、そこには志郎の姿があった。こいつ、授業を休んで何をしてるんだか。
「女の子三人は俺が取りなしてやるからな。安心してていいぞ、げへへ」
そんな不気味な笑みを見て、それでも安心できるような女の子がどこにいるというんだろう。
「お前ら、武器は?」
四人組のリーダーっぽい先輩だ。先輩たちは四人ともしっかり武装しているけれど、このリーダーの先輩は一人だけ装備の質が違う。しっかり全身を鎧で固めたうえに、腰には幅広の大剣がぶら下がっている。
「へ? 寮の部屋に置いてあります、けど……」
「十五分やる。すぐに取って来い。覚悟が足りんぞ。武器と防具はいつでも身に着けて置け」
まったく理解できないけれど、ダッシュで取りに戻るしかなさそうだ。新だけでなく、音羽たちも急いで寮に戻った。
全力で寮に戻って、装備を整え、また全力で走って戻ってくる。かなり急いだけれど、それでも四人が揃うまで二十分以上かかってしまった。
「遅刻だな。だが逃げずに戻ってきたことは褒めてやる」
「はぁ、ありがとうございます?」
ここから寮までどれだけ距離があると思ってるんだろうか。不条理この上ない。
先輩たちは学校の奥、新たちが行ったことがないような方向に進んでいく。
「あの、これ、どこに向かっているんですか?」
「闘技場だ」
闘技場? なにそれ? 知らないんだけど。寝てて聞いてなかったけど、もしかしたら授業に出てきたんだろうか?
いくつか質問を投げて見たんだけど、先輩たちは厳めしい顔をしたまま、何も答えてくれない。
さらにもう少し歩いて、運動場のような場所にたどり着いた。入り口には『第五闘技場』と書かれた看板が立っている。あまり広くない運動場の周囲は低い階段で取り囲まれていて、それがちょっとした観客席のようにも見える。
そしてその運動場の真ん中に、もう一人、上級生がたたずんでいた。
その上級生、かなりの年長のように見受けられる。というかオッサンにしか見えない。五年生か、もしくはそれより上の専科かもしれない。
「遅かったですね。それでは決闘を始めましょうか」
「ええ? 決闘? なんですか、それ?」
思わず聞き返す新。
「決闘を知らない? おやおや、これはどういう事なんでしょうかね?」
そのオッサン先輩は穏やかな表情のまま、四人組のリーダーに優しく尋ねる。
「これから説明して、決闘を取り付ける予定だった、それだけのことですよ」
オッサン先輩によれば、この学校では意見に食い違いがある場合、色々と気に入らないことがある場合、決闘での決着が認められている。ただし私闘や喧嘩ではなく、しっかりと届け出をして、正式な立会人を置く必要があるそうだ。
今回の場合、このオッサン先輩が立会人に当たるらしい。
「この時期、上級生が一年生に決闘だなんて。そんなの不利に決まってるじゃないの」
「ええ、ですから断ることはできますよ。この場合、一年生に決闘を挑んだ上級生の方が、卑怯者と罵られることになりますから問題はありません。ただしその上級生の恨みを買う可能性は残りますが」
恨んだからって私闘に及ぶことは禁止されている。でも確実に止めることはできないのだという。
「まずは何を賭けるか。それを見てからの判断でも遅くはないですよ」
なんだか外堀を埋めようとしている気がする。でもそれを防ぐのは新のコミュニケーション能力では困難だ。
「俺はこの剣と鎧、今身に着けている装備を賭けるぜ。要求はそいつの固定グループの解散、そしてそこの三人とのステディ権限の譲渡だ!」
「それだとまったく釣り合ってませんね。固定グループ解散がせいぜいかと」
「おい、この装備だぞ? これで充分だろうがっ!」
「そうでもないですよ。それにこの時期ですから、一年生は保護されています。勝率から考えても、それなりの物を積んでいただかないと賭けが成立しません」
ある程度公平になるように差配されているっぽい。
「それならっ! 口座の全額、それと女二人を積み増しするぜ」
「おい、ちょっと待てよ、あの子たちは……」
「それは考え直せって、な?」
「ああ? お前らは黙ってろよ。あいつら、見た目は最高だが、いくらなだめようが、おだてようが、マタを開こうとしやがらねえ穴なしだ。それにお前ら、まさかこの俺が負けるとでも思ってやがるのか?」
「いや、そんなことはないが……」
「まあ見てろって。あの三人、かなりいい女じゃないか。しっかり可愛がって、飽きたらお前らにも貸してやるって」
「ちょ、ちょっと待ってくださいっ! あの二人は俺に譲ってくれる約束で……」
「はあ? 馬鹿言うなよ? なんで見ず知らずの一年坊主のために戦わなきゃいけないんだ? 欲しけりゃ決闘申し込んで来いや。まあ、その時にはガバガバになってるだろうけどな!」
なんだよ、こいつら。それに志郎も。
要は女の子を無理やり手籠めにしたいだけじゃないか。
負ければ三人の仲間が地獄落ち。断ることはできるけど、執拗に狙われてやっぱり地獄落ち。
なんだよこの、究極の選択は。




