32.陰謀
入学して初めての週末も一応無事に終わって、また再び授業の毎日が始まった。それにしても春の陽気は半端ない。授業って、なんでこんなに眠くなるんだろう。
授業が終わって休み時間になれば目が覚めるんだから困ったものだ。
「新の手の早さを見て、俺たちも固定グループを組んだんだ」
嬉しそうな顔の武士の襟元には、小さなバッジが光っている。新たちのバッジとは少し形が違う。
これ、分かる人が見えれば、模様の違いで個人が判別できるらしい。新にはもちろん分からない。
「そういえば、さっき夏草先生と何か話してたよね。これがそうだったのか」
「そういうこと! 登録しとけば他から手を出されにくくなるし。まだ早いかと思ったんだけど、彼女たちもノリノリだったからな」
あまり詳しくないけれど、バッジがあれば横から手を出してきた相手を合法的にぶちのめす権利が与えられるらしい。相手が強いとぶちのめすのは難しくなるけれど、代わりにぶちのめしてくれるボランティアもたくさんいるそうだ。
「固定グループにするってことは、魔巌洞探索も順調ってとこ?」
「もちろんっ! まだ第一階層だけど、レベル上げはいい感じだぜ。新はどうなんだ? 大怪我したって聞いたが」
「見ての通り、ダンジョンから出たら元通りっ! 完全に良くなったよ。こっちは第二階層だけど、まだちょっと厳しいかな」
「女の子にあんまり無理させるなよ? ゆっくり安全に、それが一番だ」
ゆっくり安全に。それが大切なのは分かるんだけど、どうも魔巌洞が許してくれそうにない。
クラスのもう一人の男子、志郎はどうなんだろう。そう思って少し離れた彼の席の方に目を向けたけど、なぜだか空席になっている。
「ん? 志郎のことが気になるのか?」
「いや、そんなに興味はないんだけど、なんていうか……」
別に仲良くしたいとは思ってないけど、かと言って喧嘩したいわけでもない。正直どうでもよくなりつつある。でも面倒くさいことに、敵認定されてるっぽいんだよね。
「昨日、魔巌洞の中で出会ったし、志郎もそこそこ頑張ってるみたいだぞ」
「ええっ? 魔巌洞の中で他のグループに出会う事ってあるの?」
「ん? そりゃ出会うだろ? まさか誰にも出会ったことがないなんて言わないよな?」
誰かに出会ったことなんてあったかな? 無かったような気がするけど。
いや、そう言えば最初の最初、新一人で入ったのに、魔巌洞の中で音羽と木綿花のグループにぶつかったんだったか。あれが他のグループを見かけた最初で最後ってことになる。
「いや、さすがに出会ったことはあるけど。ただそういうことがあんまりないから」
「場所によって人通りが違うみたいだからな。よっぽど端っこの方で狩ってるんじゃないか?」
「そうかもしれないね。この学校って、まだまだ良く分からないことが多すぎるよ」
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その日、志郎は授業を休み、早朝から一人で魔巌洞に籠っていた。レベルは既に四まで上がり、第一階層を卒業して第二階層に至っている。
「よし、これでレベル五だ!」
何度もゴブリン数匹の群れを倒し、学生証を確認する。とても順調だ。レベルアップ酔いで倒れるのが怖かったけれど、勇気を出して良かった。
ダンジョン探索を理由に公欠届けを出してみたら、すんなりと承認された。寮の先輩たちに聞いていた通りだ。
授業なんてどうせ大したことはやってないし、サボったところで問題ないだろう。大切な要点だけ、あとでグループの女子か、武士にでも教えて貰えばそれで済む。
そんなことより、今はレベルを上げて強くなること、それが大切。
音羽、そして木綿花。二人の女子の瑞々しい肢体が、志郎頭の中でなまめかしく踊る。
強くなる、そう、強くなりさえすれば、彼女たち二人をあのモブ顔から解放して、自分のこの腕で抱きしめることができるのだ。
あのモブ顔野郎、あろうことかみんなが見ている中庭で、彼女たちの体を無理やり抱き寄せて不埒な行為に及んでいた。二人の今にも泣き出しそうな顔。
そうだ、絶対助け出さねばならない。それこそが正義だ!
「決闘だって? まさかそんな簡単な方法があるとはね」
レベル五となれば、もう相手とレベルは並んだか、それとも少し上回っているはず。でもまだ安心はできない。完全に倒せると言えるぐらいまでレベルを上げなければ。
狙うのはこの週末。仕掛けるのはその時だ。
「そろそろお昼休みか、残念、今日はここまでか」
レベル上げは非常に大切だけど、グループ女子の面倒を見ておくのも大切だ。昼食、そして午後の実習では合流してご機嫌を取っておいた方がいい。
こうして一人レベルを上げるのは、彼女たちの安全を守るため。そう言っておけば、チョロい彼女たちのことだ。コロッと騙されてくれるだろう。
「あいつらはあいつらで、そこそこ抱きごこちの良さそうな体してるからな」
音羽と木綿花、二人の体を楽しむ前に、あの三人で卒業しておくのも悪くないかも知れない。
激しい妄想を浮かべながら、志郎は時間切れで転送されるのを待つ。かなりの遅刻になるけれど、今から向かえば午前中最後の授業に入れるだろう。
退場門から出てきた志郎の前に、四人の男子生徒が立ちふさがっていた。
一年生? いや、彼らの防具は充実している。おそらく上級生、二年生だろうか。
「頑張ってるな、一年坊主!」
「俺たち、ちょっとお前に話があるんだ」
「え? 俺? な、なんで」
「いいから顔貸せや。悪いようにはしねえから、な?」
「え? え?」
まったく意味も分からないまま、両腕を押さえつけられる。
「なんで~っ!」
そして半分泣きそうになりながら、志郎は二年生らしい四人組にそのまま連行されていった。




