31.第二階層の端っこ
「そろそろ端っこにたどり着いてもいいんじゃないかしら」
「やっぱりループを疑ってしまいますよね」
大量の敵を殲滅した後、教室ぐらいの広さの部屋を探索しながら、音羽と木綿花が愚痴をこぼす。
ここまで何度も繰り返してきた話題だ。
この階層に入ってからずっと、四方に扉がある同じような部屋が続いている。新たちはずっと、入って来た扉の向かい側を選んで、真っすぐにここまで進んできた。そろそろ端っこが見えてもおかしくない。
だだっ広いだけなのかもしれないけれど、こんなに不安になるのは、前の階層がループしていたのも原因だ。
開けた扉は全部破壊しているし、それが目印になりそうなものだけれど、何といってもここは魔巌洞。勝手に修復されて分からなくなっている可能性も捨てきれない。
「それじゃ、次はボクが開けるねっ!」
「うん、頼んだよ」
最初はずっと新が扉を開けていた。
もしかしたら同じ人が開け続けたらダメなんじゃないか? そんな話になって音羽が、続いて木綿花が扉を開けてみたけれど、結果はこの通り、まだ端っこに至っていない。
これで都久詩でも駄目なら、また別の方法を試してみるしかないだろう。ただのオカルトかもしれないけれど、なにもやらないよりはマシだ。
「ん~っと、やっぱり同じ感じの部屋だよ、ゴブリンが結構いるかな。あ、向かいに扉が無いよっ!」
「都久詩、お手柄だ!」
都久詩の頭を撫でると、満面の笑みを浮かべた。
四人で部屋に突入してゴブリンを殲滅し始める。
部屋にはかなりの数のゴブリンがいたし、やはりどこからともなく応援のゴブリンの群れが湧いて出てきたけれど、すでにゴブリンなんか何匹出ても敵じゃない。次から次へと倒されて、砂になって消えていく。
「本当ね、右と左にしか扉が無いわ」
「隠し扉があったりしませんか?」
「特には無さそうだよ」
聖者の瞳には特にそんな反応はない。鑑定してみても、ただの岩壁としか表示されない。
「それじゃ、右と左、どっちに進む?」
「っと、その前に。何か忘れてない?」
「え? 何かって?」
「都久詩だけ撫でるなんて、贔屓でしょ?」
ハテナマークを浮かべている新に、音羽と木綿花が、ほら撫でろっとばかりに頭を差し出してきた。
「あれは、ほら、なんというか、扉を開けた時! 扉を開けた時だからっ!」
「絶対だからね!」
音羽と木綿花だけでなく、都久詩も何だか意味ありげな微笑を浮かべている。
なんだか不味いことを言ったかもしれない。
「そんなことは後にしてっ、どっちに進むか決めようよ」
「ボク、左が怪しいと思うな」
「それじゃ、そっちに進んでみましょうか」
まったく関係ない可能性もあるけれど、ここは端っこを引き当てた都久詩の勘に頼った方がいい感じがする。散らばっていたビー玉を拾い終わると、左の扉の前に集まった。
「ボクが開けるの?」
「待って。四人で交代した方がいいわ」
「ってことは、最初に戻って僕からか」
そっと開けてみる。やっぱり同じような四角い部屋だ。先ほどと違って敵はいない。
「扉は……一ヶ所、ありませんね」
新しい部屋に入って右側、今いる部屋で壁になっている所と同じ面が、新しい部屋でも壁になっていた。
「やっぱりここが端っこなのかな?」
「どうしましょう? 壁沿いに真っすぐ進みます? それとも左に?」
「真っすぐがいいんじゃないかしら。周囲が繋がったら全体の大きさが分かるでしょうし」
「うん、そうしようよ!」
壁沿いにまっすぐ進むことに決め、音羽に次の扉を任せる。
進む前に三人から頭を撫でられた。意味が分からん。
敵が出たら殲滅し、いなければすぐに次の扉の先へと向かう。扉を開けるのは一人ではなくて交代だ。
と、その前に。扉を開けた子の頭を撫でるのを忘れてはいけない。
「もう三巡しましたけど、端にたどり着きませんね」
「交代って、あんまり関係ないんじゃない?」
やっぱりだだっ広いだけだったのか? でも何かが違う気がする。
「ボク、お腹空いてきちゃった……」
「かなり良い時間だし、今日はここまでにしようか」
あれからレベルが上がらなかったのは残念だけれど、制限時間的にはちょうど良さそうだ。
時間までゆっくり待って外に出たら、食事がてら反省会だな。
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夕食の後、新と別れた音羽、木綿花、都久詩の三人は、女子寮の音羽の部屋に集合して、女子会を始めていた。
「固定パーティと合わせて私たち三人とステディ登録しましたけど、どうやら新にはまだバレていないようですね」
「あとで怒られないかな?」
「大丈夫でしょ。表では色々言われるだろうけど、内心は結構よろこぶんじゃないかしら」
三人の制服ブレザーの襟には、同じマークのバッジが光っている。これと同じものは新の制服にもついている。これはステディの印、学校公認の『恋人』のようなもの、その証だ。
「都久詩考案の、頭ナデナデしてもらおう作戦はかなり有効ね」
「ええ、スキンシップの抵抗が弱まってるのを肌で感じます」
「最初の頃は、ちょっと腕組みするだけで顔を真っ赤にして逃げてたもんね」
「お膝に座っても大丈夫だったよ!」
「頭ナデナデ作戦、このまま続けましょうか?」
「「賛成!」」
かなり耐性は上がっているけれど、あんまりやりすぎて逃げ出されても困る。その辺りは注意しながら続ける必要があるだろう。
一年生のうちに二次職に転職するような生徒はほとんどいない。普通は二年生の前期だ。まだ学期が始まったばかりだから、二年生の中にも転職していない人は山ほどいるはず。
それがもう転職まで辿り着いている。その最大の原動力が新なのだから、彼が何をどう思っていようが、彼を外すような選択はあり得ない。絶対にない。
なんとしても新を囲い込み、逃げられないように道を塞ぐ。それが文字通り、彼女たち三人の『生存』にそのまま直結する。
そう、これは冗談でも何でもない。この女子会には彼女たちの命、そして未来がかかっている。




