23.次の階層へ
地形ループの幻覚はすでに解けたので、隠し通路まではそれほど時間をかけずにたどり着くことができた。
隠し通路を通って元槍ゴブリンの部屋に直行する。やはりもう槍は持っていない。宝箱もない。さっさと敵を一掃してビー玉を拾うと、もう一度、部屋中を丁寧に観察する。
「おかしいな、隠し扉みたいなものは見当たらない」
「床はどうですか?」
「うーん、一応見たつもりだけど……」
もう一度しっかりと確認する。やはりおかしなところは見当たらない。
「天井は?」
「え? 天井?」
その発想はなかった。天井に隠し扉があったとしても、いったいどうやって……
「あ、何かある!」
聖者の瞳を信じて天井をくまなく確認してみると、部屋の入り口の近くに直径二メートルぐらいの、円形っぽい模様が荒く彫られているのが見つかった。
「ちょっと分かりにくいけど、模様みたいに見えないことはないわね」
綺麗に掘られた感じじゃない。模様だと言われてみないと気づかない、言われてみても勘違いにしか見えない、まるで騙し絵みたいな模様だ。
「でもどうやって使うんでしょうか」
「分からない。だけど他に怪しい物は見つからないよ」
「鑑定はどうですか?」
「上手くいかないみたい」
聖者の瞳は、どうも欲しい時に働いてくれないことが多いんだよね。その代わり、上手く働けば今回みたいに幻覚を打ち破ることだってできる。まだまだ使いこなすには至ってない。
天井の模様の真下に行って、そこから真上を見上げる。うん、模様。そうして眺めていると、模様がモヤッと光った。
攻撃っ?
とっさに飛びのいたけど、どうやら危険ってわけじゃないらしい。
「なんでしょう? もしかしたら転送の魔法みたいなものでしょうか」
「なんだかありそうな話ね」
確かにありそうな話だ。でもみんなで一緒に転送されて全滅なんてことになったらシャレにならない。
「まず僕が行ってみるよ。戻ってくるまで待ってて」
もう一度、模様の真下に立ってみる。しばらくするとモヤッと光って、そしてそれが光の柱のようになってゆっくりと下に降りてくる。
「当たりかな? なんかそれっぽい」
気づいたら、新は何もない小さな部屋に一人で立っていた。どうやら無事に次の階層に転送されたらしい。
――魔巌洞、第二階層
間違いない。鑑定もちゃんとできたみたいだ。
真上を見上げると、ここにもやっぱり円形の模様があった。その真下に立っているとまた光の柱が現れて、元の部屋へと送り返される。
「お帰りなさい。どうでした?」
「特に危険はないみたいだ。みんなで行ってみようか?」
次は四人全員で模様の真下に集まって転送されてみる。
「ちょっ! 抱きつかなくてもいいでしょっ」
「だって、別の場所に飛ばされちゃうかもしれないよ?」
「どんな危険な罠があるのか分からないからね」
「念には念を入れておかないと命にかかわります」
ほんとにまったく、遊びじゃないっていうのに。
〈叱ってやるでないぞ?〉
ん? 心の声さんがこんな時に?
言われて三人のことを良く見ると、三人が三人とも新の制服の裾をギュッと握りしめている。
平気そうにしているけれど、やっぱり怖いのだ。この状況が。そして魔巌洞が。
それに気づいてしまった新は、今は何も言えなくなってしまった。
光の柱が現れて、四人を無事に次の部屋まで送り届けてくれた。
到着するとすぐ、パッと離れて距離を取る三人の美少女。
「な、なんてことはないわね」
「あ、扉があるよ?」
「こちらにもありますよ」
見回してみると、小さな部屋の四方に一つづつ、どれも似たような感じの木でできた大きめの扉がある。
「この扉から行こうよっ!」
「うん、そうしようか」
都久詩が選んだ扉から出ようと思ったら、他の二人から待ったがかかった。
「いえ、私はこっちが良いと思うわ」
「それじゃあ、私はこの扉を選びますね」
なんなのそれ。なんの罠なの。
ここで彼女たちの扉の中からどれか一つを選んだりしたら、地獄が待ってるのが丸見えじゃないか。
「多分、こっちだな」
三人が選んでいない、残った扉を選ぶしかない。
「なによ、こっちを選んでくれてもいいじゃないの」
「貸し、一つですよ?」
「遊んでないで。それじゃ、開けるよ」
声をかけてから、選んだ扉を引き開ける。
その向こうは四角い部屋になっていた。広さは教室と同じか、少し広いぐらいだろうか。天井はかなり高い。そして今開けた扉以外にも、それぞれの壁に同じような扉がある。
今までの洞窟と同じようにゴツゴツした岩壁になっているけれど、こうして四角くなっているってことは、ツルハシか何かで掘って成型してあるってことだろう。
ダンジョンに掘るとか成形とかって概念があるかどうかは知らないけれど。
「あれ? 扉が消えちゃったよ?」
振り返ると、彼女たち三人それぞれが選んだ扉が消えて無くなっていた。
「また何か不思議な罠があるみたいですね」
「嫌な感じよね、陰険で」
新たち四人は、周囲を警戒しながら慎重に、次の部屋へと移動する。
敵の姿はどこにも見えない。でも、いつ、どこから現れるか分からない。いきなり上から降ってくるかもしれないし、地面の下から突然出てくるかもしれない。
危険はなにも敵だけじゃない。落とし穴のような罠が仕掛けられている可能性だってある。
ここは魔巌洞、その第二階層。
慎重にして慎重にしすぎる事なんて絶対に無いのだから。




