22.悪意の罠
時間切れで外に出て、すぐにまたダンジョンの中に突入する。
階層の入り口付近を通り過ぎ、今まで行ったことのない領域に入ったことで、敵の数がかなり増えていた。どうやらこの階層は『敵が時間で溜まる』ようになっている模様。奥地への行き帰りと比べてかなり忙しい。
「なかなか次の階層への入り口が見つかりませんね」
「そうね、そろそろ見つかってもいいはずよね」
いや、新しい所を探索し始めたばかりだからね。地図を見れば……って、そうか、他のみんなには見えないんだった。
これって地図が見えないから余計にいらいらするんじゃなかろうか。でも見せようと思ったってそんなに簡単なことじゃない。紙に書き写すぐらいしか手はないし、とてもじゃないけどそんな面倒くさいことはできないし。
「どうしました? 何か困りごとですか?」
変なことを考えていたら、それが態度に出ていたらしい。木綿花に心配をかけたようだ。
「なんていうかね、みんなにも地図が見えたらいいかな、と思ったんだけど、方法が無かった」
そんな阿呆なことを考えていても探索は滞りなく続いていく。ゴブリンたちは討伐されていくし、地図の空白は埋まっていく。
時間切れで強制退出させられ、またすぐに突入する。ゴブリン、ゴブリン、ゴブリン。何も変わらない。でも地図は埋まっていく。
「ねえ、何か少しおかしくない? なんだか同じところを繰り返してるような」
「うん、ボクもそんな感じがするよ!」
ストレスがたまりすぎたのか、音羽と都久詩が突然そんなことを言いだした。
「そんなはずないよ。しっかり地図で確認してるし」
「でも目の前の三差路、これって何度も見た気がします。ここって新しい場所ですか? それとも何度か通った場所ですか?」
「初めて来た場所のはず……そんなことがあるはずが……」
確かに言われてみればこの感じは見たことがある。地図で探してみると、それらしい地形も見つかった。
これってただの似た地形なのか? それとも……
「あっ、これ! なんだか地図がおかしい!」
「え? どういうこと?」
「ループしてるってわけじゃないんだけど、同じ地形が繰り返し出てきてる」
ちょっと説明しにくいけれど、ABABAB……みたいな感じで、同じ場所が繰り返している訳じゃない。それならだれでもすぐ気づくだろう。
そうじゃないしわかりにくい。でも一度気づいてみたらはっきりとわかる。ABACADBCDE、という感じで、いくつかのブロックが混ざり合いながら出てくる感じになっているんだ。
それも角度が違っていたり、時には左右反転してたりしていて、ずっと地図を眺めていても気づかないぐらいに。
「もう少し詳しく見てみるから、周囲を警戒してて」
「うん、わかったよ!」
これはループしてるのか、それとも地形がコピペされてるだけなのか。どっちにしてもおかしいことには違いない。
同じ地形のところを色分けしたらどうなるだろう? やってみたら簡単にできた。赤、青、緑、黄色、そうやって色を付けていくと、二ヶ所だけ色のついていないブロックがあるのがはっきりする。
「コピペされてないのって、あの隠し通路と階層の入り口だけだ」
「それって妖しすぎない?」
音羽の言う通り、こんなことが自然に起こるはずがない。自然? 何を考えてるんだ、ここはダンジョン、そもそも自然のはずがないじゃないか。
「おい、魔巌洞! もうタネはバレたぞ、正体をあらわせ!」
新は眉間に力を入れて、岩壁の続く通路を、そして色分けされたマップを凝視する。するとどうだろう。マップは端の方からどんどんと消えていき、最後には隠し通路とその周辺だけが消えずに残った。
複数箇所に分かれていた同じ色がついたブロックは、今ではどの色も一ヶ所だけになっている。階層の入り口付近はいつの間にか隠し通路の近くまで移動しているし。
「やっぱりループしてたみたいだ。こんなややこしいトリックがあるなんて。まだ第一階層だっていうのに」
そう声に出して、またハッとする。第一階層だからなんだというんだ。魔巌洞はゲームでも何でもない。簡単なマップから難しいマップになっていくなんて、保証なんてされてないんだ。
「わかりました。もう一度、隠し通路に行ってみましょう」
「賛成!」
みんなに状況を丁寧に説明すると、すぐにそう方針が決まった。
「新しい領域で敵がいっぱい出てきたのも、おそらく魔巌洞の罠だったんでしょうね」
「えええっ、魔巌洞ってそんなに頭がいいの?」
こんな岩壁だらけの洞窟が頭を使って罠を仕掛けて来るなんて、あんまり想像はできないけれど、そういうものだと思って行動したほうが良さげだ。
「いきなり地形が難しくなるのなら、いきなり強い敵がでてきてもおかしくないわ」
「あれ? でも先生はちょっとずつ強くなるって言ってたはずだよ?」
「あの先生が言う事、信用できる?」
「……できない、かも」
生徒を騙そうとしていなくても、全く証明されていないただの経験則だって可能性もある。いや、その可能性の方が高い。
先生が安全だと言っていた第零階層には敵が出てきたし、それで犠牲者だって出ている。それなのに順番に敵が強くなっていくって話だけ信じることができるのか。
いや、不覚にもグループのメンバー全員がそう信じていたってこと。
「疑ってかかるべきだって分かってたのに、全然分かってなかったよ」
魔巌洞。こんな場所に安全もなにもあるわけがない。




