21.休日の風景
どうやら新のように、いきなり変なものを衝動買いする人は他にいないらしい。
「せっかくだから、みんな何か買えばいいのに。ほら、あのヒゲメガネとか」
「……それ本気で言ってる? あれを買って何に使えっていうの?」
いや、そんなマジレスされても困る。
ちょっと、都久詩! 本気で買いに行かれても困るってば。
と思ったら、ヒゲメガネの横に置いてあったヒョットコのお面を買っていた。なんだか可愛かったらしい。土偶のキーホルダーを買った身で文句は言えないけれど、お小遣いはもうちょっと大切に使った方がいいと思う。
「それにしても、見当たらないですね」
「見当たらないって何か探してるの? 言ってくれたら一緒に探すわよ」
「いえ、何か探しているってわけじゃなくて、コンビニが見当たらないなと思って」
「確かにそうね。言われるまで気づかなかったわ」
木綿花が口に出すまで全然気づかなかったけれど、たしかにコンビニは見ていない気がする。
それに言われてから周囲を良く見ると、コンビニだけじゃなくて、よく見かけるようなチェーン店、ハンバーガー屋やドーナツ屋、コーヒーショップなんかも見当たらない。
「あんまり詮索しないほうがいいぞ。ここは出ていくことも難しいし、余所から入ってくることも難しい。そういう場所だってことだ」
一瞬だけ怖い顔をした武士だったが、すぐに元の柔らかい表情に戻る。
コミュ力の高い奴だからな。何か聞いて知ってるのかもしれない。
「まあ、難しいことは考えずに、気楽にいこうぜ」
「うん、それが良さそうだね」
面倒なことみたいなので、そういうことならそれでいいんじゃないだろうか。
結局、町の探索は午前中だけで切り上げて、新たちのグループだけでなく、武士たちのグループも、午後からはダンジョンでレベル上げを続けることになった。
「急いでレベル上げする必要もないけど、だからってサボりまくってるとヤバいからな」
「ヤバいって何が?」
「何がって……まさか忘れたのか? 赤点があるだろ?」
「ああ、それかぁ」
「確か、第二階層突破、でしたよね。楽勝だって聞いてましたけど、違うんですか?」
「それ自体は多分楽勝だと思う。でも課題はだんだんきつくなっていくだろ? 余裕があるうちに先に進んでおかないと、どこかで追いつけなくなるぞ」
「ああ、そういうことか。だったらあんまりノンビリしてられないね」
「そういうことだ。だからって無理する必要はないけどな。命を大事に、だぜ」
二つのグループで一緒に探索しようかなんて話も出てきたけれど、今は敵が弱すぎるからあんまり意味がない。今はそれよりもグループでの連携とか、信頼度を上げた方がいいということで、武士たちとはいったんお別れだ。
昼食の後、探索準備のために一度解散して、魔巌洞門の前で再集合する。
「なんだか人が多いわね」
「お休みですからね。ここで集中して探索に行く人が多いんじゃないでしょうか」
見たところ、新たちのような一年生だけじゃなく、上級生の姿も多い印象。
学年が上になると、持ってる武器が違うし、防具なんかはもっと違う。一年生だとほぼ制服そのままに簡易防具だけ、二年生だと防具の部分が増えて、三年生以上になると全身鎧の人が増えるようだ。
中には全身が鉄板で覆われた中世騎士みたいな鎧の人や、ビキニアーマーで露出過多なお方もいらっしゃる様子。
女子の三人も制服の中にビキニアーマーを着こんでいるけれど、制服なしの姿は見たことがない。あんなに急所を表にさらして防御力は大丈夫なのかと、当たり前の疑問を持ったけれど、音羽たちによれば思った以上に防御力は高いらしい。
「いつも上から制服を着てるのに、いつの間に試したの?」
「乙女にはいろいろ秘密があるのよ」
もしかして深夜に歩き回っているのだろうか、ビキニアーマー姿で。
「馬鹿な事ばっかり考えてないで、さっさと行くわよ!」
「ああ、痛いっ! 痛いってば! 耳を引っ張らないでっ!」
新はそのままダンジョンの中に引っ張り込まれた。
昨日のうちにかなり道を逆戻りしてあるので、今日はかなり気分的に楽だった。
「この一時間で階層の入り口近くまで行けるんじゃないかな」
「はい、頑張りましょう!」
第一階層を奥の方まで探索して、その後戻ってきたわけだけれど、全くの無駄だったかと言えばそんなことはない。レベルだって上がったし、収入だってそこそこあった。でもそれ以上に大きかったのは、かなり戦闘慣れしてきたことだ。
正直、都久詩は最初から異次元過ぎるので、成長したのかどうか良く分からない。でも音羽は間違いなく動きが洗練されてきているし、木綿花だって戦いに無理な感じが無くなってきている。
特に木綿花は使っている武器が槍なので、最初の頃は無駄に振り回してしまって近くにいると怖かったし、すれ違うにもちょっと命がけだった。
今でもたまにお尻を刺されるんじゃないかと不安に感じる時もあるけれど、それもだんだん薄れてきている印象だ。
授業でも棍棒じゃなく、使ってる武器で素振りさせてくれればいいのにね。まあ死にたくなければ自分で勝手に練習しとけってことだろう。
「そろそろまだ行ってない場所が増えてくるよ。あ、そこ右ね」
「はーい」
「任せてっ」
そっち方向に曲がってみると、その先にゴブリンが溜まっていたのか、後から後から湧いて出てくる。そんなゴブリンの群れをスパスパ切り刻んでいく都久詩と、ゲシゲシ蹴り飛ばしていく音羽。
二人とも、特に音羽はスカートの中の大切なモノが丸見えになっている気がするけれど、そこは新も大人になった。というか、しっかり後方を警戒するようにして、彼女たちの姿をあんまり見ないようにしている。
「前方クリア!」
「後ろも敵はいないよ」
そのまま奥に進んだけれど、残念、行き止まりだ。
「敵がいっぱい出てきたから、当たりだと思ったのに」
「ここが正解かと思うわよね。なんだか騙された気がするわ」
そういうことだってあるだろう。
「切り替えて次に行こうか」
「ちょっと待ってよ、何か忘れてない?」
ビー玉だって拾ったし、隠し通路のチェックもした。何も忘れてないはずだけど……。
あ、もしかして頭ナデナデか!
あれって昨日だけの特別ルールじゃなかったの?
これもまた、彼女たちが反省会と対策会議を毎日しっかり繰り返している成果だとは、新は全く気付かなかった。




