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20.町へ

 週末になった。入学してから初めてのお休みだ。


 (あらた)は顔を洗うと制服に着替え、朝食のために近くの学生食堂へ向かった。


 寮の中には食堂を併設しているところもあるけれど、そうじゃないところが大半だ。そういう寮の生徒たちは、昼だけでなく朝晩の食事も、基本的には学生食堂を利用することになる。


 学生食堂は一ヶ所だけじゃなくて複数箇所に設置されているので、自分の好きな場所を選べばいいようになっていた。



 寮から一番近い食堂に行ってみると、特に待ち合わせをしたわけでもないのにグループの三人と一緒になった。彼女たちだけじゃない。武士(たけし)たちグループの五人も一緒だ。


「おはよう、偶然一緒の場所で一緒の時間になるなんて、運がいいのか悪いのか」

「おいおい、運が悪いは無いだろ」


 そのまま合流して一緒に朝食にする。


「ねえ、せっかく一緒になったことだし、みんなで町に見学に行かない?」


 軽い感じで音羽(おとは)がそう提案してきた。


「いいですね! なんだかデートみたいです」

「えええ? デート? あわわわっ」


「ん? (あらた)、どうかしたの?」

「デ、デートなんて言われても、何をしていいのか、そもそも何を着ていけばいいのか分からないよ」


 (あらた)の慌てぶりを見て、木綿花(ゆうか)がクスクスと笑った。


「学校の中でも外でも制服を着用すること。この学校の校則ですよ?」

「え? あ? それ、ほんと?」


 周囲の全員から一斉に白い目で見られる。


「……生徒手帳に書いてあるぞ?」

「あ、うん、ごめん。まったく知らなかったよ」


 そもそも(あらた)はボッチのプロ、友人たちと休みの日に外出するなんて考えがそもそもなかった。だからそんな校則があるのを知らなかったのも当然だ。


「それじゃ、少し準備してから出かけましょうか。西門集合でいいわよね?」

「「「おっけー!」」」



 集まったのは(あらた)を含めて男子二人に女子七人、結構な大人数だ。


 服装はいつもの通り、紺ブレザーにライトグレーのスラックスかスカート。もう見慣れたように思っていたけれど、こうして休みの日に遊びに行くとなると、いつもとはまた違った新鮮さがあるのが不思議。


「町の中だけじゃなくて、町の外にも出られりゃ良いんだけどな」

武士(たけし)くん、それはあんまり口に出さない方がいいよ? 目をつけられたら面倒だから」


 (あらた)は知らなかったけれど、町の外に出るのは完全に禁止されているらしい。かなり管理の厳しい学校だと今更ながらに思う。


「それじゃ、適当に町をブラブラしてみるか? 探検するみたいな感じで」

「いいわね、賛成!」


 学校の西門を出ると普通に町が広がっていた。商店の多くはこっちの西側に集まっているんだとか。入学の時に通ったはずだけれど、(あらた)にはほとんど記憶にない。


 学校が盆地の真ん中にある関係で、どっちの方向を向いても緑の山々が(つら)なっているのが目に入ってくる。校舎の窓からも見えるんだけど、こうして学校の外で眺めていると、また別の感覚が胸をよぎる。


「探検って言われると、なんだかウキウキしますね」

「そうだね、何だか楽しそうだ」


 ふと気になって、(あらた)は学校の方に振り返った。大きな石造りの校門がそびえている。今は開いているけれど、頑丈そうな鉄の門扉も目に入る。


「どうしたの、(あらた)。何か忘れ物?」

「いや、なんだか気になって。こうしてみると立派な校門だな、と思ったんだ」


「そうね、なんだかどこかのお城みたいね」


 お城か。そうだとすると、この門はいったい何から学校を守っているんだろうか。



 西門を出てしばらく町の中を歩いていくと商店街にたどり着く。肉屋に魚屋、そして八百屋、そういった食料品店が多い印象。本屋なんかももちろんある。


 町の人たちだけじゃなく、(あらた)たちと同じ紺のブレザーを着た学生たちの姿も結構見かける。こんな地方の商店街にしては、かなり人出が多い方じゃなかろうか。


 そのまま商店街をみんなで眺めながら進んでいると、音羽(おとは)が一軒のお店の前で足を止めた。


「ねえねえ、ここ、中を覗かせて貰いましょうよ」


 どうやらそこは古着屋のようだった。昔の書道のような文字が書かれたTシャツなんかが吊るしてある。あまりに達筆すぎて、(あらた)には何が書かれているのかよく分からない、


「なんだろ、これ。お経かな?」

「う~ん、お経にしてはひらがなが多いみたいですよ」


木綿花(ゆうか)は読めるの? 僕には漢字とひらがなの区別すらつかないよ」

「なんとなくそんな気がしただけです。私にも何が書いてあるの読めないです」


〈万葉仮名じゃな〉


「万葉……仮名?」


「万葉仮名って? 何か分かったんですか?」

「いや、良く分からない。僕も何となくそう思っただけ」


 (あらた)は誤魔化すように笑う。


 こんな何でもない、危なくもなんともなさそうな場所で心の声さんが話しかけてくるなんて。何かあるんだろうか?


 そう思って少し警戒したけれど、どうやら何も無さそう。


「どうかしたんですか?」

「いや、多分なんでもないよ」


 照れ笑いで誤魔化して古着屋の中を見回してみる。雑貨っぽい小物が積まれたワゴンの中で何かが光った気がした。


「あれ、なんだこれ」


 手に取ってみると、歴史の教科書で見たような人形がついたキーホルダー。


「えっと、埴輪(はにわ)、だっけ?」

「これは土偶(どぐう)ですね」


 すでに最初の光は消えている。でも何となくだけど、これは手放してはいけない、そんな気がして、気づいた時には代金を支払った後だった。


「全然趣味じゃないんだけど……」


 なんでこんなもの買ったんだろう、自分でも意味が分からない。




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