19.壊れた教師と生徒
午後の実習は昨日に引き続き体育。
ただし今日は昨日とは違って第七運動場、支給された棍棒を持って集合らしい。
そう黒板に書いてある。
「それならそうと、午前中に言ってくれればいいのに。早く着替えて取りに行かないと間に合わないわ」
「ボク、棍棒どっか行っちゃった。もう使わないと思ったもん……」
都久詩なんてもう泣きそうだ。
「大丈夫、拾ったヤツがあるから。先に行って運動場で待ってて」
棍棒なら何本か、新の寮の自室に転がっている。入学初日にダンジョンの中でなんとなく拾って持ち帰った物だ。多分購買に売ってるとは思うけど、そんな使いもしない物をわざわざ買い直す必要もないだろう。
新は急いで体操服に着替えると、寮に戻って棍棒を両手に持ち、走って指定の運動場に向かう。もうすぐ午後の鐘が鳴る時間、ぎりぎり間に合った。
グループのメンバーはなんとか全員揃っていたけれど、武士のロリコングループは半数ぐらいがまだ来てない。志郎のグループなんか全滅だ。
授業開始の鐘とともに夏草先生が、昨日と同じくジャージ姿で現れた。手にはみんなと同じ棍棒を握っておられる。
なんとなくそんな予感はしていたけれど、夏草先生がこのクラスの実習全体の担当らしい。それと同時にダンジョン系の授業担当の掛け持ちをしている模様。
先生が現れて少ししてから、残りのクラスメイトたちがパラパラと遅れてやって来る。
「今日は遅刻が多いわね。まあよろしい、それじゃ始めましょうか」
いろいろ感じることはあるけれど、相手するだけで時間の無駄だし、考えるだけで面倒くさい。
ちなみに今日の夏草先生には、緑色のゴブリンもどきは一匹しかついていなかった。その代わりに志郎グループの胸が女子たち全員についている感じ。
音羽や木綿花に近寄ろうとするゴブリンもどきもいたけれど、殺気を飛ばして追い払っておく。
「みんなよく見ていてね。棍棒はこんな感じで構えて、振り上げて、振り下ろす。それじゃやってみて」
今日は準備運動も何もなし……。せっかく仕込みを入れるように武士を扇動しておいたのに。
授業自体は単純で、ただの棍棒の素振り。夏草先生の模範演技は、それなりに様になっていて、振りも鋭い。
「見た目と違ってかなりの武闘派よね」
「この学校の卒業生らしいわよ」
武士グループの女子たちからそんな声が漏れ聞こえてくる。
いい加減な教師が、ただの思い付きで授業をやってる、そんな風に感じるけれど、教師がこの学校の出身ならそういうことも多いだろう。
こんな死ぬか生きるかみたいな環境で、まともに真っすぐ人材が育つとは思えない。それにこんな学校に入学して来る時点で、間違いなくどこかが大きく歪んでいるのだから。
どこか壊れた教師に、どこか壊れた生徒。完璧な組み合わせだとしか言いようがない。
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野島夏草はここ真神原塾社の出身で、教師になって今年で二年目になる。
この学校出身者ならほとんどそうなるように、彼女もまた、強さこそが正義、弱さは悪、そんな考え方に完全に染まっているし、それが正しいと信じている。
雑用だった一年目と違い、一年辰組の担任に抜擢され、初日はやる気に満ち溢れていた。
それなのにいきなり七人もの生徒が行方不明になってしまった。なんで自分が担当する生徒がそんなに弱いのか。そんなものを相手にするだけ時間の無駄。そう考えたのも当然のことだ。
つまり悪い言い方をすると、完全に生徒たちを見捨てた。
それでも授業は続けないといけない。なんて理不尽なことだろう。
一学期早々こうなってしまったのは生徒たちが悪いのか、彼女が悪いのか。
深く考えてもどうしようもない。それがこの学校、真神原塾社という高等専門学校なのだから。
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「今日は余裕があるし、少し魔巌洞に潜ろうか?」
「うん、賛成!」
都久詩は真っ先に賛成してくれる。可愛い子だ、頭を撫でてあげよう。
音羽と木綿花は少しだるそうだ。今の状況は第一階層の一番奥の行き止まり、時間をかけて階層の入り口付近まで戻らなければならない状況。そりゃあんまりやる気にならないのも当然だ。
「どうせいつかは戻らないといけないんだから。嫌なことは先に済ませておいたほうがいいよ」
着替えを済ませ、二人をなだめすかしながら魔巌洞門までやって来る。
中に入ってみるとビックリ! なんてことは起こらない。そこは出た時と同じ、薄暗い洞窟の行き止まりだ。
経験値や売り上げのことを考えて、できるだけ大部屋を通るような道筋で来た道を戻っていく。
「宝箱があれば、少しはやる気が出るのに」
この期に及んでも、音羽の不満は収まらないらしい。
「ごめんね、最初に選んだ道が悪かったみたいだ」
「そんなの新が謝る事じゃないわ。このダンジョンが土下座するべきなのよ」
何となく思いついて音羽の頭を撫でてみる。
「何よっ! そんなことで誤魔化されないわよ!」
逆効果だったか? いや、どうやら不満の声を漏らさなくなったので、それなりに効果があった様子。
「新、それは贔屓は良くないんじゃないでしょうか?」
「え? それは……」
しょうがないので木綿花の頭も撫でる。
「えええ~っ! ボクも撫でて欲しいよっ!」
そして都久詩の頭も。
気づいた時には、新は頭なでなでマシーンと化していた。音羽、木綿花、都久詩と、間を開けて順番に頭を撫でるだけの簡単なお仕事だ。
文句を言ってもどうにもならないので言わないけれど、正直言えば新だって、道を戻るだけなのにはうんざりしている。
誰かの頭を撫でるだけじゃなくて、誰か頭を撫でてくれないものだろうか。
新は頭なでなでしかしていなかったけれど、それなりに頑張ったおかげで、かなり道を戻ることができた。レベルも新が十七に、女子三人はみんな十六まで上がっている。
次に探索する時には、きっと新しい領域に挑戦できるだろう。
明日は週末だし、少しは探索もはかどることだろう。
もしも何か事故が起こったりしなければ。
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若草新 見習い《ノービス》十六→十七
装備: 簡易防具、巨大棍棒、聖者の瞳
鳴神音羽 初心者十五→十六
装備: 簡易防具、頑丈な篭手、頑丈な脛当、棍棒、ビキニアーマー(黄)
坂江木綿花 初心者十五→十六
装備: 簡易防具、無骨な槍、ビキニアーマー(白)
不知火都久詩 見習い剣士十四→十六
装備: 簡易防具、無骨な刀、ビキニアーマー(水色)




