18.固定グループ
昼休み前のショートホームルームが終わった後、夏草先生がにこやかに新たちに歩み寄って来た。
昨日のことがあるので新はちょっと緊張した面持ちだ。
「夏草先生、何か御用ですか?」
それに対して、木綿花は昨日のことなんかまるで感じさせない。完璧な美少女スマイルで先生を迎え撃つ。
う~ん、女って怖いな。よくラノベで『貴族は自分の心を見せてはならない』なんて話があるけれど、もしかしたら女って生まれながらの貴族なんじゃなかろうか。
先生は今日も安定してヌーブラ、その上から紫の下着を身に着けておられる。ヌーブラで固定しているわけだから、この紫のヤツはいわゆる見せブラってことになるのか。そりゃ女子からしたら辛辣な意見も出るわけだ。
いけない、顔に出そうだ。男は貴族じゃないんだから気をつけないと。
「ええ、坂江さん。あなたたちの申請が受理されたので、その連絡よ」
夏草先生は木綿花に、何枚かの書類と紙の小箱をいくつか手渡した。書類には『許可』と書かれた大きな赤いハンコが押してある。
「ありがとうございます、先生」
「固定グループは受理されたけれど、無理はしないように気をつけてね」
「はい、分かってます」
爽やかな香水の匂いだけを残して、夏草先生は教室を後にした。
「新、一緒に昼飯にしようぜ」
「いいね。みんなも一緒でいいよな?」
「ああ、もちろんだ」
新のグループと武士のグループ、二つのグループで食堂に向かう。
武士は社交的なというだけでなく、新とは女性の趣味がほとんど被らないので付き合いやすい。
武士は言うなればロリコン、背が高かったり胸が豊かな女性は、美しさ自体は理解できるけれど、まったく趣味じゃないそうだ。
グループの女子からも、胸元を凝視して来ないし、紳士的だと評判がいい。
ちなみに新いつも胸をガン見しているわけだけど、それは女の子の方が許しているから問題ないそうだ。なんなの、その二重ルール。
新としては、クラスのもう一人の男子、志郎のことも別に嫌いなわけではないんだけど、どうも向こうの方から避けられている気がする。
それに彼は女子から好かれてないんだよね。
「まるで蜘蛛みたいな眼つきで嘗め回してくるのが気持ち悪い」
そんなことを言っているけれど、それってどんだけだよ。いくら彼の名字が青雲だからって、ちょっと言いすぎじゃないかな。
新には女の子の事情は分からないけれど。
でも、都久詩。「ボク、そんな目で見られたことない! あいつ嫌い!」って、それはさすがに逆恨みじゃないだろうか。
食堂に到着して、みんなでカウンターの前に並ぶ。
「今日はカツ丼とうどん、山盛りにしよう」
「私は親子丼の大盛りと小うどんにしようかしら」
「ボク、カレーの山盛りっ!」
こちらのグループは女子も含めて健啖家が多い印象。木綿花もこっそり天丼の大盛りと小うどんを選んでいる。
席について見比べてみると、武士のグループとお盆の上の盛り上がり方の差が一目瞭然すぎる。
「お前ら、良く食うなぁ」
「いっぱい食べて、胸を大きくしないとねっ!」
いや、カレーの山盛りでは胸は大きくならないと思う。ほら、ポケットティッシュあげるから、口の周りをちゃんと拭きなさいって。
「そういえば、新、固定グループを組んだんだって?」
「うん、さっき夏草先生から許可されたって教えてもらったところだ」
「やっぱり、手が早いな。で、グループ名は何にしたんだ?」
「ええっと?」
グループ名って何? 尋ねるように木綿花の方を見る。
「私たちのグループ名は『たかはし』ですよ」
あれ? なんだか聞き間違えたかな?
「ええっと?」
「私たちのグループ名は『たかはし』ですよ」
聞き返してみたけど、どうやら聞き間違いじゃなかったようだ。
「なんか変な名前だな」
武士に突っ込まれた。彼のグループの女子たちもうんうん頷いている。
「新の『た』、木綿花の『か』、音羽の『は』、都久詩の『し』、四人から一文字づつ取って、『たかはし』になりました。墓下にするって意見もあったんですけどね」
「たしかに墓下に比べれば、『たかはし』の方が良い気はするね」
今さら文句を言ったところで、もう届け出も承認も終わってるんだからどうしようもない。
でもやっぱり『たかはし』ってなんとなくグループ名っぽくない。どこか田舎の温泉街の、昔ながらの寂れた旅館っぽい感じ。
「名前よりもやっぱり中身かな」
「そりゃそうだ。考えてみると良い名前かもしれん」
「ねえ、武士くん、私たちも固定グループを組みませんか?」
「いいですね、名前は『うさぎ組』でどうでしょう?」
「私は『りんごの森』が良いと思うなぁ」
なんだかかわいい系の名前案がいっぱい出てくる。
「なあ武士。僕らのグループ名が良いと思うなら、『やまだ』とか『たなか』とか、そういうのはどう?」
「絶対に却下だ!」
なんだよ、やっぱりダメなんじゃないか。
「これ、新もつけてくださいね」
木綿花からバッジを渡されたので、制服のブレザーの襟のところにつける。それで気づいたけれど、すでに木綿花だけでなく、音羽と都久詩も同じバッジをつけている。
固定グループのバッジかな。
「うわぁ、いいな、バッジまで」
「私たちも欲しいよね」
武士グループの女子たちから、うらやましそうな声が聞こえてくる。
新は良く分かっていなかったけれど、固定グループというのは女子たちにとっては必要なモノだったんだろう。それなら早々に組んだのは成功だったのかもしれない。




