16.体育の授業
みんなが楽しそうに体育の授業を受けているのを、新ただ一人でぼーっと眺めている。
二人で手を繋いで引っ張り合いっこしたり、背中を押したり押されたり、おんぶしてみたりおんぶされたり。それを可愛い女の子と一緒にできるはずだったんだ……。
「若草くん、余ってるなら先生と組みましょうか?」
哀れに思ったのか夏草先生が近寄ってきて、そう提案してきた。
「すみません、御免こうむります」
丁寧にお辞儀をしてお断りする。
内心では冗談じゃないと思っている。なんで教師と一緒に組まねばならないのか。それはボッチに対する挑戦状だぞ。
それはそれとして、夏草先生はダンジョン学とかを教えていたはず。それがなぜ体育の授業を受け持っているんだろう。もしかして担任の先生がなんでも受け持つ感じなの? ここって小学校なの? 本当に良く分からない。
「うーん、授業を受けてくれないと、先生も困っちゃうんだけど」
「僕も受けたいんですけど、相手がいないので」
こちらも困っているアピールだ。
でも本心は違う。奇数なのは最初から分かりきってるんだから、二人組なんか組ませなければ良いわけで。
「だから先生と……」
「え~っと、それって……、セクハラになっちゃいますよ?」
かなり強めに触られたくないアピール。
「セク……、あのねえ……まあいいわ。しばらく勝手にしてなさい」
どうやら呆れられたというか、許可が得られたようだ。しかもありがたいことに勝手にしてもいいらしい。
体育の柔軟体操なんて何度もボッチで乗り切ってきた新だ。一人でストレッチなんて手慣れたもの。前屈やエビぞり、さらには受け身なんかを適当に一人でこなしていく。
確かに夏草先生は若くて美人ではあるし、スタイルも良い。だから男子生徒に人気がある、自分と組めば相手は喜ぶとでも勝手に思い込んでいるんだろう。
でもこいつは、敵なんかいないと嘘ばっかりほざいて、新を一人でダンジョンに放り込んだ張本人だ。チンピラたちはともかく、最初の三人の男子生徒が行方不明になったのは、間違いなくこいつのせい。
とてもじゃないけど信頼なんてできないし、体に触れられるのは避けたいところだった。
何より、緑色のゴブリンもどきを何匹も体に纏わりつかせているんだから。
取ってあげてもいいんだけどね、そうすると間違いなくセクハラだって言われて大騒ぎになってしまうよね。
一人でドタンバタンと受け身をやってると周囲の視線が厳しい。でもそれがそのうち癖になってくる。それがボッチ道というものだ。
しばらく一人運動を行っていると、パンパンと夏草先生が手を叩いた。
「それじゃあ準備運動はこれで終わり、次は皆さんお楽しみの長距離走よ」
うげえぇぇ、と一斉にみんなが声を上げた。新にとっても体育で二番目に大嫌いな長距離走。
「この運動場を二十五周してもらいます」
みんなぶうぶう文句を言いながらチンタラ走り始める。一周四百メートルだから十キロってこと? ちょっと厳しいぞ。
ゆっくり走っていると武士が走り寄って来た。
「なあ、新。せっかくのチャンスだったんだから、夏草先生をおんぶすれば良かったのに。なんで断ったんだ?」
「いやほら、そんなことしたら、志郎だったか、あいつが嫉妬して暴れるんじゃないかと思って」
「なんだ、そういうことかよ。もしかして志郎には悪いことしちゃったかな」
「さあどうかな、聞いてみないとわからないかも。ただ男子だけで組むと組み合わせが限られすぎるし、女子と混合で組む方がいいんじゃない?」
「今回は根回しする暇が無かったからなぁ。ちょっと頑張ってみるか」
武士はペッタンコ好きだし、夏草先生と組みたいとは思わないだろう。だからと言って、いつも新か志郎を弾き飛ばしていると印象が悪くなる、それも避けたいはず。
つまり武士としては、男女混合、これしか選択肢はない。あとはしっかり根回ししてくれることを期待して待つだけだ。
「ほら、そこ! 何をしゃべりながら走ってるの! もっとペース上げて。授業中に終わらなかったら居残りだからねっ!」
「あ、やべえ!」
夏草先生の檄を受けて、武士が大きくペースを上げた。どうやら長距離走が得意のようだ。
無理すれば付いていけそうな気はするけれど、疲れるし面倒くさい。でも長距離走のペースが良く分からない。音羽と都久詩がデッドヒートを始めているけれど、女子についていくのもちょっとはばかられる。
どうしようかと迷っていると、ちょうどいいことに志郎がやって来たので、勝手にペースメーカーになって貰うことにする。
新が後ろにつくと志郎はかなりギョッとした模様で、少しペースを上げて引き離しにくる。新としては引き離されるわけにはいかない。同じくペースを上げて追走する。
逃げる、追う、逃げる、追う。どんどんペースが上がっていく。もしかしたらペースが速すぎかも。そう思ったけれど、新には長距離走のペースがわからなすぎて判断がつかない。
いや、これっていくらなんでも速すぎじゃないかな。もしかしたら全力疾走してるんじゃない? 良く分からないなりに心配になってきた。それでもペースが上がっていくので、仕方なしに追いかける。
ついに先行していた武士に追いついてきた。えええっ、もしかして追い抜くつもり? と思ったのも束の間、志郎は足がもつれて倒れてしまい、そのまま立ち上がれなくなってしまった。やっぱりオーバーペースだった模様。
このまま武士を追いかけるのもよろしくない。でも男子が他にいなくなってしまった。こうなってしまったら音羽と都久詩についていくしかなさそうだ。
「新、ちょっとあれはエゲツな過ぎるわよ?」
「さすが旦那様、一切手加減なしだよね!」
いや、特にいじめたり、追い詰めたりしたつもりはなかったんだけど。
みんなと一緒に走るのって難易度高いよね。




