15.授業風景
翌朝、新が教室に入ると、木綿花がニコニコしながら寄って来た。何やら書類のようなものが何枚も手にしている。
「これ全部にサインしてくださいね」
「えっと、何の書類?」
「昨日、固定グループを組むって話をしたじゃないですか。その関連書類です」
「えええっ、こんなにたくさん必要なの?」
「いろいろあるんですよ。例えば口座を開かないといけないとか」
言われてみればもっともな気がする。とはいえ固定グループを組むだけで、こんなにたくさん書類が必要になるとは思わなかった。
これは木綿花に任せて正解だった模様。新だったら面倒くさすぎて絶対に無理だったに違いない。
席に座ってサインしようと思ったら、自分の席が分からない事に気づいた。
昨日は説明を聞いたり自己紹介したりするだけだったので、適当に座ってたというのもあるけれど、知らないうちに模様替えされて席も決められていた感じ。
それだけじゃなく、行方不明になった七人分の机と椅子が教室の後ろに寄せられていて、真ん中がかなり空いた状態になっている。そのうちあの机と椅子は撤去されてしまうんだろう。
「私たちはこっちですよ」
その方向では音羽と都久詩が席についていた。どうやら昨日の実習グループごとに、誰かが主導して席順をまとめたらしい。どうせ武士のしわざにちがいない。
すべての書類にサインして木綿花に手渡すと、何やら小さくガッツポーズをしておられた。音羽と都久詩もニコニコ顔で親指を立てている。固定グループってそんなに嬉しいものなのかな?
新たちのすぐ隣は武士のグループだ。小柄な女の子が集まっていて、とても可愛らしくまとまっている。
その向こうに座っている男子は確か、志郎って名前だったか。昨日はレベルアップ酔いでダウンしたらしいけれど、今日は問題なく登校できたようだ。
いや、まだちょっと顔色が悪いかな? 手を振ってみるとビクっと震えて顔を背けられた。やっぱりまだ本調子じゃないんだろう。まだ学校生活は始まったばっかりなんだから、無理せずに一日お休みを取った方がいいんじゃないかな。
ダンジョンで起こった事故なので、届け出すれば公欠扱いにしてもらえるだろうし。
「ああもう、なんでこんな所まできて数学の授業なんかあるのよ」
国語の授業が終わって次の数学が始まる前の休み時間、音羽が机に突っ伏しながら愚痴を言い始めた。
「しょうがないよ。これでも一応、高校みたいなものだから」
「新、もしかして勉強とか得意なの?」
「いや、全然。そんなことはないよ」
新には苦手科目は一つもない。というか、得意科目だって一つもない。中学では全部の教科が中の中から中の下だったし。言い換えれば学校の授業は体育含めて全て苦手、と言っちゃってもいい。
「気にしなくてもいいじゃないですか。どうせ成績には関係しないんですから」
「う~、そうは言っても……」
真神原塾社、新たちが学ぶこの学校は、ダンジョン探索のための学校だ。とはいえ授業はダンジョン関係のものばかりではなく、半数ぐらいは普通の高校と同じような内容になっている。
でも進級に関係するのはほぼ『ダンジョン実習』のみ。座学はダンジョン関連も含めてほとんど関係ないそうだ。ただ出席率が悪いと卒業後に奨学金の返済率が変わってきたりするので、サボりまくるというわけにはいかない。
まあダンジョンの関連で欠席になったりする場合は、事後でも良いので届け出をしておけば公欠、つまり出席扱いにして貰えるらしいので、ほとんど気にする必要はなかったりする。
上級生の中には、授業をほとんど公欠にしてダンジョンに入り浸っている人も多いそうだ。
「ボク、数学は好きだよ! 一番ぐっすり寝られるもん」
「素晴らしい発見ねっ!」
「その発想はありませんでした……完敗です」
いったい何の勝負をしてるんだろうか。だいたい授業は子守唄じゃないんだけどねえ……騒いだりするよりはいいのかも。
午前中の睡眠学習が終わって午後は体育だ。
基本的に午後は実習なんだけど、体育もね、言われてみれば実習みたいなものかもしれない。
昼食の後、体操服に着替えて運動場に集合する。この学校には運動場がいくつかある。今日集まったのは第四運動場。緑の芝生に赤いトラック、まるで陸上競技場のような見た目だ。
新は体育の授業が嫌いだった。運動は得意じゃなかったけれど、別に運動するのが嫌というわけではなくて、それには別の理由があった。
体育で特に一番嫌いなのは、そう、『二人に分かれて』、あれだ。
二人に分かれてストレッチ、二人に分かれておんぶ走、二人に分かれてエトセトラ……。別にそれは悪い事じゃないと思うんだけど、それをやるならクラスの人数は偶数にして貰いたい。そうしなければ絶対にあぶれる生徒が出るじゃないか。
体育教師ってほんと、数学がわかってないから困ってしまう。
まあ、つまり、そのあぶれる生徒はいつも新の役目だった。一級ボッチ認定は伊達じゃないのだ。
でも今は四人グループを組んでいる。それも固定グループで。四人グループだから余る事はないはず。数学的に。
「なん……だと?」
現実は厳しかった。
女子は女子だけで組むなんて聞いてないよっ!
武士の方を見てみると、もう一人の男子、志郎とすでに組んでいた。体調悪かったくせに。素直に休んでおけばいいのに。
思わず睨みつけると、「ひぃっ」と悲鳴を上げて青くなっていた。




