14.探索は続く
制限時間になって外に出てみると、なんだか少し騒がしかった。
「志郎くん、大丈夫? 保健室に行く?」
「いや、もう大丈夫だ。驚かせてゴメンね」
どこかで見たことがある男子生徒、あの眼鏡の彼はたしか同じクラスだったんじゃなかろうか。
話を聞くとはなしに聞いていると、どうやら魔巌洞の中で突然、泡を吹いて倒れたらしい。
「彼、体が弱かったのかな?」
「いや、多分レベルアップ酔いだろうぜ」
特に誰かに話しかけたわけじゃないのに、何やら後ろの方から返事が返ってきた。声のする方に振り返ると、こちらも同じクラスの男子生徒、武士だ。
「レベルアップ酔いなんてあるんだ」
「ああ。体の強さじゃなくて体質によるとか。最初はきついけど、レベルアップを繰り返してるうちになんともなくなるらしい」
「それって危ないなあ。うちのグループにはいないみたいで助かったよ」
もしも敵と戦ってる最中にぶっ倒れたりしていたら……。そう思うとみんながそんな体質じゃなくて良かった、そう思わざるを得ない。
「だよな。それで調子はどうよ?」
「ちょっと怪我はしたけど、そこそこ順調かな。そっちは?」
「こっちも、そこそこって感じだ。まあお互い頑張ろうぜ!」
武士のグループはこれでお開きにするらしい。向こうのレベル酔いした男子のグループも解散の模様。
「僕らはどうする……って、もちろん続けるよね。うん、わかってた」
三人の美少女の眼が爛々と燃えていた。
「当然よね」
「もっと斬りまくるよ!」
「ほどほどに行きましょう」
ほどほどに、なんて言っているけれど、木綿花の目だって他の二人と同じように燃えている。面倒くさいから休みたい、なんて言い出したら八つ裂きにされてたに違いない。
今日の実習ノルマの二時間は終了したので、ここからは授業じゃなくて自主練習になる。
「自主練習だったら、第二階層に入ってもいいんだよね?」
「ええ、第一階層しばりは授業中だけだったはずよ。問題ないと思うわ」
「第二階層って、まだ入り口も見つけてませんよ?」
「だから急いで見つけないとね!」
一時間設定でもう一度魔巌洞の中へ。
先ほどの隠し通路の奥。槍ゴブリンの部屋へ行ってみると、雑魚ゴブリン集団の真ん中に槍ゴブリン、いやその代わりに素手ゴブリンが突っ立っていた。宝箱は無い模様。
「宝箱は無いけど、どうする?」
「経験値が欲しいわね」
「今度はボクが斬りたい!」
都久詩が中央の素手ゴブリン、新は左、そして音羽は先ほどと同じ右、というポジションで突っ込むことになった。
最初は震えていた素手ゴブリンだけど、相対するのが都久詩に代わったことで少し余裕を取り戻した感じがする。何だか口角を上げているように見えるけど、多分それ、勘違いだぞ。
突入してしばらくすると、視界の端にゴブリンの首がスポーンと斬り飛ばされたのが映った。ほら、やっぱり言わんこっちゃない。
ほどなくして、ゴブリンの群れは全部ビー玉と経験値に変わった。
隠し通路を後にして、聖者の瞳が教えてくれる情報に従って、未探索の領域の探索を始める。
途中にいくつか大部屋があって雑魚ゴブリンが群れていたけれど、宝箱もなかったし、子ボスっぽいゴブリンもいなかった。
「宝箱、もっと出るかと思ったのに!」
「まだ第一階層だからね、先に進めばもっと出るんじゃない?」
確かにね。中身はレアアイテムみたいだし、そうそう簡単に出てくるものでもないんだろう。
「強い敵が混じってるかもしれません。気を抜かずに続けましょう」
「天井、壁、それから地面にも注意だな」
おそらくだけど、ゴブリンたちにもレベルのようなものがある気がする。同じゴブリンでも前の階層とは全然硬さが違うし、この階層だけでみてもかなり硬いのもいれば柔らかいのもいる。
聖者の瞳で見えるようになるかもしれないけど、今のところはまだ良く分からない。ダンジョンの地形だって、その時の気の持ちようで見えたり見えなかったりするんだよね。
その後も制限時間ごとにこまめに出入りを繰り返しながら魔巌洞の探索を続ける。
いいところで時間切れになる可能性もあるけれど、怪我をして撤退したくなったり、疲れがたまって休憩を取りたくなったりしても、制限時間いっぱいになるまで自由に外には出られないのだ。それならしばらく時間設定はこのままの方がいいと思う。
「時間なんか関係なしに外に出られたらいいのに」
「そういうアイテム、あるわよ?」
「なんて名前でしたっけ、ものすごく高かった覚えがあります」
そんなに高価なものなら今はまだ必要ないだろう。でもこの先、ボスとの死闘を繰り返すには絶対に必要なアイテムだ。
「ここでみなさんに悲しいお知らせがあります」
「何よ、新。急に改まって」
「こっちは行き止まりでした!」
「えええ? もしかしてボクたち、戻らないといけないの?」
「うん、入り口近くまで……」
音羽と都久詩がブーブー文句を言ってくる。木綿花なんか、声も出ないほどショックを受けた模様。
みんなの気持ちはわかるけど、こればっかりは新にだってどうしようもない。
「もう歩けないわ。ねえ、新、おんぶしてよ」
「それじゃ、ボクは抱っこがいいな!」
「そんなあ……。それじゃあ私の場所がないじゃないですかっ!」
「いや、おんぶも抱っこもやらないから! 誰の場所もないから!」
時計を確認したら、もう夕食の時間だった。そりゃみんな疲れてるね。
今日の探索はここまでかな。




