13.悪鬼
新たちが槍ゴブリンと戦っていたちょうどその頃。
同じクラス、一年辰組の男子の一人、磐瀬武士は、四人の可愛い系の女子と一緒に、キャッキャウフフの魔巌洞探索をエンジョイしていた。
まだここは第一階層だ。出てくるのはゴブリンだけ、武器も防具も何も身に着けていない。それも同時に出るのは一匹、たまに二匹になるぐらい。余裕にも程がある。
それなのに入学初日に十人以上が返って来なかったらしい。一体どれだけヘタレだったんだろう。
「ねえ、武士くん。私たちにも戦い方を教えてくれないかな?」
「ああ、いいぜ。任せてくれ」
出てきたゴブリンを弱らせて、反撃できないようにしてから女子たちに交代で叩かせる。
「ああ、もうちょっと腰を入れて、こんな感じ。そうそう上手いぞ」
可愛い女の子たちの腰を抱くようにして、フォームを直していく。上手く出来た娘の頭を撫でてやるのも忘れない。
それにしても都久詩だったか、彼女は少しもったいなかった気がする。かなりの美少女で、胸廻りもほっそりしていて武士の好みだった。ちょっと背が高すぎさえしなければ、絶対に手放したりはしなかっただろう。
たしか新だったかな。あのモブはどうせ何かをやらかすだろうし、どこかでグループは壊滅するに違いない。そうなった時、あぶれた彼女を拾ってやればいい。
もしかしたらあのモブのお手付きになってるかもしれないが、そんなことは気にしなくていい。あとからじっくり教えてやればすむことだ。
そんなことよりも今は人間関係。同じグループの少女たちの信頼を得ることがなにより重要だ。
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新たちのクラス、一年辰組には、新と武士だけでなく、もう一人の男子生徒がいた。
青雲志郎。銀縁の眼鏡をかけたインテリ風の容貌をした彼は、武士とは真逆で大きな胸の女の子が好きだった。
武士にグループ構成を相談された時には迷ったけれど、彼は小さな胸の女子が好みだと聞いて、あっさりとそのたくらみに同意することになった。おかげで彼の目の前には、胸が大きくて素敵な女子が三人集まっていた。
「志郎くん、武器の使い方ってこれでいいの?」
「えっと、そうだね、腕はこんな感じで、あと腰はこう、うん、そうだよ」
女子一人一人の腰を抱いたりしながら、武器の振り方を教えていく。そのたびに彼女たちの柔らかな胸が何とも心地よい感触を彼の体に伝えてくれる。
ほんとにまったく。武士にはなぜ、この素晴らしい物の価値が分からないのだろうか。
女子たちの素晴らしさを味わいながらも、志郎には少し後悔があった。
鳴神音羽と坂江木綿花。
まるで女神のような美しい顔と素晴らしいスタイルを持った二人の女生徒が、あろうことか良く分からないモブのグループに入ってしまったのだ。
もう少し余裕があると思っていたのが運のつき。完全に出遅れた、そう思っても後の祭り。それでも胸の大きな可愛い女の子が集められたのだから、良しとするべきだろう。
どうせあのモブのことだ。この先の階層で必ず行き詰まる。行き詰まらないにしても。何か問題を起こしてグループは解散することになるに違いない。その時になってから音羽と木綿花、二人を引き取っても遅くはない。
モブのお手付きになってるかもしれないけれど。その時はその時で、あの素晴らしい体を思いっきり楽しめばいいのだ。
「志郎くん、もうちょっと教えて?」
「ああ、任せとけ」
再び女生徒の腰を抱き寄せる志郎。彼の魔巌洞探索はまだ始まったばかりだ。
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「くしゅんっ!」
「どうした、木綿花? もしかしたら風邪か?」
「いえ、違うと思うんですけど。何だか一瞬ひどい寒気がして」
「くちゅんっ!」
今度は音羽がくしゃみをした。もしかして、魔巌洞の影響か何かなのか?
「多分そうじゃないと思うけど。でも何だろう。一瞬、気持ち悪い感じが通り過ぎたのよね」
「ええ、私もです。何だか舐めまわされるみたいな、本当に気持ち悪い感じでした」
もしかしたら何かに取りつかれたということもあり得るか。そう感じた新は、聖者の瞳を意識しながら二人のことをじっくりと観察する。特に変な所は……
「あ、なんだこいつ!」
木綿花の豊かな胸元のブラウスの隙間から、小さな緑色のトカゲのようなものが顔を覗かせていた。
「きゃっ!」
新はとっさに手を伸ばしたが、トカゲはすぐにブラウスの奥に隠れてしまった。
「新、突然何してるのよ、血迷ったの?」
「いや、木綿花の胸元に何かいる、ちょっと動かないで」
どうやら彼女たちには見えてないらしい。
〈早よお捕まえねば悪し〉
「新、待って、こんなところで……乱暴しないで」
木綿花は泣きそうになっておられるが、しばらく我慢してもらうしかなさそう。ブラウスのボタンをいくつか外して腕を突っ込む。
「ああっ……」
よし、捕まえた!
彼女の胸元から腕を引き抜くと、それは小さな緑色のゴブリンもどきだった。ゴブリンもどきは眼鏡をかけたような顔をしている。
「キィッ! キキャッ!」
「な、なによ、それ……」
小さなゴブリンもどきをひねりつぶすと、新は音羽に向き直った。
「な、なによ?」
「音羽の胸元にもいる。すぐに取り除かないと危ないぞ」
「ちょ、ちょっと待ってよ! 自分でやるから……」
「見えてないだろ? 任せろ」
音羽の細い腰を抱き寄せると、ブラウスのボタンを素早く外していく。
「ああ、責任……とってよ……」
無事に音羽に潜んでいたゴブリンもどきの捕獲に成功した。見た目は先ほどのヤツと同じようだ。もちろんすぐに気合とともに握りつぶす。
「あの……ボクは?」
しっかり観察してみたけど、都久詩には取りついていない模様。
「むう……やっぱり胸なの?」
なんだか少しお怒りのようだが、取りつかれていなかったことを喜んで欲しい。
「今の……なんだったんでしょうか?」
「悪霊、とか?」
音羽と木綿花はまだ、少し顔が赤いけれど、特に寒気などは感じなくなったらしい。心の声さんも何も言ってこない。
おそらく悪鬼がやって来たのはつい先ほど。まだ気を抜くことはできないけど、取りあえず問題は解決したようだ。
緑のゴブリンもどきを握りつぶすとき、親玉まで滅殺するぐらいの気合を込めてみた。もちろんそんなものが相手に届くとは思っていないけれど、これも気分の問題だ。
その時、いきなり泡を吹いて倒れた男子生徒がいたことなど、新はもちろん、音羽たち女性陣の誰も気づくことは無かったが。




