12.槍ゴブリン
部屋の中央に突入した新は、数匹のゴブリンを血祭りに上げた後、槍持ちのゴブリンと対峙することになった。
槍ゴブリンの醜い顔に残虐な笑みが浮かぶ。
と同時に、槍の一撃が飛んできた。
「うわっ、危なっ!」
体をひねってギリギリで避ける。
さらに二発目、三発目が飛んでくるのを、またギリギリで避けた。槍が制服ブレザーの裾をかすめて、布が千切れ飛ぶ。本当に危険、あんなのが当たったら無事で済みそうもない。
あーあ、もうほんとにね、恰好つけずに都久詩に任せちゃえばよかったよ。でも女の子を危ない目にあわせるのはやっぱりね。
〈その意気や良し〉
心の声さんも応援してくれてるし、ちょっとは頑張らないとね。
そうは言っても、槍のせいで近づくことすらできない。ただ何となくだけど、避けるのに慣れてきた感じがする。ギリギリで避けているのは変わらないけれど、かなり余裕が出て来た感。
次は右かな? ほら右が来た。
左、左、右と来そうだ。やっぱりね。
槍ゴブリンの視線なんだろうか、筋肉の動きなんだろうか。それとも足の位置取りなんだろうか、何が理由なのかはわからないけど、相手の攻撃が分かるようになってきている。
思い切って一歩踏み込んでみる。ほら、躱せる。
もう半歩。かなり厳しいけれど、なんとかなる。
槍ゴブリンの瞳に焦りの色が浮かんだ。
「グガァァァッ!」
吠えた。
でもそれは隙だよ? 新は大きく踏み込んで、ゴブリンの頭の上から巨大棍棒を力いっぱい叩きつける。か、硬い?
槍ゴブリンはよろけながらも槍を突いてくる。距離が近すぎて避けきれない。槍は新の脇腹に突き刺さった。
めちゃくちゃ痛いっ!
でもこれはチャンスだ。この間合いだと、相手は槍を引いて抜くこともできない。つまりもう攻撃できないはず。
新はわき腹に突き刺さった槍を無視して、もう一度棍棒を叩きつけた。さらによろける槍ゴブリン。
もう一度、そしてもう一度と、何度でも棍棒を叩きつける。槍ゴブリンはついに槍から手を離して膝をついた。さらに追加で数発、巨大棍棒をお見舞いすると、槍ゴブリンはサラサラと砂のように崩れて消えていった。
「大丈夫ですか、新! かなり血が……」
「分かんないけど、多分すぐに死んだりしないと思うよ」
脇腹にはまだ槍が刺さったままだ。そう言えば購買で万能包帯っていうのを買っておいたんだったっけ。試しに使ってみるか。
「治療したいから、この槍、引っ張って抜いてくれる?」
木綿花に手伝ってもらって槍を抜くと、傷口からドバドバ血があふれ出てきた。
うわ、これは急がないと危ない。
「たしかこれ、傷口に当てるだけでいいんだよな」
購買で教えられた通り、万能包帯を脇腹の傷に押し当ててみる。
「うわ、なんだこれ。勝手に巻き付いていくぞ?」
特に何かしたわけでもないのに、ブレザーどころかシャツの中にまで勝手に潜り込んで巻き付いていく。ボタンも開けてないのにどこから入り込んだのやら。
そして丸々一本が巻き付き終わると、かなり痛みが和らいできた。シャツをめくって傷口辺りをみると、出血も止まってるっぽい。
「まるで魔法みたいな包帯だな」
「……今のは?」
「ああ、万能包帯っていうみたい。購買で安かったから買ってみたんだ。すぐに治るわけじゃないけど、かなり良い感じだよ」
「へえ、それじゃあグループで買いそろえた方がいいかもね」
「それじゃあ、学校に固定グループ申請しましょうか。固定グループだと口座だって持てるし、資産管理が楽になりますよ」
資産管理……、うん、面倒くさそうだ。そういうことは木綿花に全部お任せしたい。
音羽と都久詩の二人も雑魚ゴブリン狩りを終えて駆けつけて来たようだ。ビー玉もしっかり拾い集めてきた模様。
「旦那様の戦い、すっごく恰好良かったよ! あんなに近くで避け続けるなんてびっくりだよ」
どうやら都久詩は雑魚狩りをしつつ、新の戦いを見学していたらしい。一体どんだけ余裕なんだよ。
「ああ、ありがとう。最後は一発もらっちゃったけどね」
なんとなくだけど、もしも都久詩なら一発も攻撃を受けることなく、とっとと近づいて首をはねてるような気がする。
「それじゃ宝箱だね! すっごく楽しみ」
見たところ罠などは無さそうだったので、そのまま都久詩に任せることにした。
「えっと、何これ? 鎧の一部、かな?」
「脛当てじゃないでしょうか」
――頑丈な脛当。キックの時の衝撃を抑制する。
「キックの時に便利そう。音羽が使うと良い感じかもね」
「それなら私が貰うわね」
あとは新の脇腹に刺さっていた槍だ。無骨な作りだけれど、それだけ頑丈そう。
「僕にはこの棍棒があるし、都久詩には刀があるよね。音羽か木綿花、どっちか使ってみる?」
「私はパス。敵と少し離れて戦えるから、木綿花が使った方がいいんじゃない?」
木綿花はちょっとどんくさい。音羽の言い分には一理あるけれど、刃のついた武器だと自分を突き刺しちゃったりしないだろうか。そこだけが心配だ。
「えっと、それじゃあ私が使ってみますね」
本人はちょっとやる気みたいなので、任せた方がいいかな。
ここまでの戦いと今のボス戦でみんなのレベルが上がり、新はレベル十六、音羽と木綿花はレベル十五、都久詩はレベル十四になっている。
ここまで、危なそうなこともあったけど、とっても順調に成長してるように思う。
ただちょっと気になることはある。授業では初心者レベル三ぐらいになったら第二階層という話だった。
やっぱり何かがちぐはぐだ。このまま放置しても問題ないのだろうか。
それとも何かが起こっているのだろうか。
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若草新 見習い《ノービス》十四→十六
装備: 簡易防具、巨大棍棒、聖者の瞳
鳴神音羽 初心者十三→十五
装備: 簡易防具、頑丈な篭手、頑丈な脛当、棍棒、ビキニアーマー(黄)
坂江木綿花 初心者十三→十五
装備: 簡易防具、無骨な槍、ビキニアーマー(白)
不知火都久詩 見習い剣士十→十四
装備: 簡易防具、無骨な刀、ビキニアーマー(水色)




