137.最強の一角
『筋肉ダイナマイツ』の部長と闘技場の真ん中で対峙する。
全身鎧に身を包み、両手には巨大棍棒が握られている。どうやら新と同じく、棍棒を力任せに振り回す戦闘スタイルの模様。
でも大きな違いがある。部長の方が一回り以上背が高く、横幅に至っては倍ほどもある。
つまり、デカい。
腕や足も丸太のような太さ。その姿はまさに、筋肉ダイナマイツそのものだ。
「あの予選の時に決着をつけていれば、こんなことにはならなかっただろうにな」
「へ? なんのこと?」
なぜか知らないけど、筋肉部長が新に、まるで知り合いかのように話しかけてくる。こんな筋肉ダルマのオッサンと出会った記憶はないんだけど?
「彼らは予選の時に乱入しようとして、失格になったクラブですね」
「えええ? そうだったの?」
木綿花に教えてもらったけど、そんなクラブがあったかどうかすら記憶にない。
もう一度思い出してみる。
やっぱり記憶にない。
「そんなことあったっけ? まったく記憶にないんだけど……」
素直にホントのことを言っちゃったのがマズかったらしい。
「我ら『筋肉ダイナマイツ』など、まったく覚える価値も無い……そう言いたいわけか……。超コロすっ!」
筋肉部長が鬼の形相に変わってしまった。
「両者離れて。それでは、始めっ!」
立会人さんの合図で戦いが始まる。
新はパワーファイター、筋肉部長もパワーファイター。駆け引きよりもパワーで相手を圧倒し、叩き潰すタイプだ。
「うおりゃぁっ! 死ねっ! 死ねっ!」
筋肉部長の棍棒が闘技場の地面を激しく叩く。
その強烈なインパクトでクレーターが生まれる。同時に地面が大きく波打ち、上手くバランスを取らなければ普通に立っている事すら難しい。
もちろんそんな打撃をわざわざ食らってやる必要はない。威力はとんでもなく強烈だけど、攻撃自体は単調で大振りなのだ。避けるのはそんなに難しい事じゃない。
巨大棍棒の振り下ろしを右に躱しつつ、こちらも逆に踏み込んで、右斜め上から棍棒を振り下ろす……
いや駄目だ、相手の対応の方がわずかに早い。このまま踏み込むと相手の横薙ぎを避けきれない。
新は踏み込むのを咄嗟に諦めて、もう一歩大きく後ろに下がる。
同じパワータイプとはいえ、筋肉部長の方が体が大きくリーチも長い。そして職業は三次職である大戦士。上級見習いなんてヘンテコな職業の新よりも、パワーだって上の模様だ。
もう一発、大上段から巨大棍棒が襲い掛かってくる。先ほどと同じように右に避け、逆に踏み込む。
今度は相手と同時。新が振り下ろした棍棒と、相手が振り回した棍棒とが激しくぶつかり合って火花を散らす。
「むうっ!」
踏み込んだ分だけ新の攻撃の方が強かった。しかし体重で負けている分だけ、新の方が大きく後ろに吹き飛ばされる。
どうも自然な流れに乗れていない、新はそのことを実感していた。
大切なのは地面が揺れるタイミング。
これは直感だけど、ほんの少しのタイミングのずれが、流れるように動けるか、それとも体勢を崩すことなるのか、そこに繋がっている。
恐らくそれは微妙な地面の揺れと連動しているのだ。揺れる地面、その盛り上がる時に同時に足を上げれば加速するし、逆ならば減速する。
つまり、世界と同化する――
言葉にすると激しく胡散臭いし、ただのオカルトにしか聞こえない。
もちろん新には、そんなことできちゃいない。でも時々、なんとなく上手くハマったような、ほんのりそんな感じがすることがあったりする。
ただの気のせい? いや、かなりの部分が気のせいだけど、ほんのちょっぴり真実が混ざっている、かもしれない。そんな雰囲気。
それが自然の流れ、そのもの。
そして上手く乗れてない感覚っていうのは、相手に押され気味って意味でもある。
筋肉部長が巨大棍棒を振り下ろすたびに、地面に大穴が開き、地面が大きく揺れる。
「おい、どうした? 口だけか?」
右、次は左、そして左、右、右。
相手の巨大棍棒を避けては隙を見て踏み込み、隙が無いとみては大きく間合いを開ける。
今の新は気合で大きく強化されているし、同じく気合で強化された木綿花から、巫子の祈りで強化されている。
木綿花の祈りで新の気合はさらに強化され、木綿花の力もさらに強化される。それはさらに木綿花の力を強化することに繋がり、新の力を強化することに繋がっていくのだ。
そんな共振状態の新と、互角かそれ以上のパワーで戦う筋肉部長は、やはりこの学校の最強の一角だと言える。
「糞チビ、そろそろ本気で行くぜっ!」
筋肉部長がその巨大棍棒に、一段と力を籠めて振り下ろす。




