133.やられたら、やり返す
怪我を負って倒れていた由樹と穂の二人に、急いで応急手当を施すと、そのまま保健室へと運びこんだ。
当直の先生によると、怪我はかなり酷いものの、二人とも命には別条ないらしい。それを聞いてホっとすると同時に、心の奥底から激しい怒りが湧いてくる。
だけどここは保健室、怒りに任せて暴れるわけにもいかない。
「二人には、私と亜紗が付くことにするよ」
「うん、ここは私たちに任せて欲しいかな」
「いや、そんなわけには……」
「いいから、いいから」
「こっちは二人で問題ない、かな」
保健室から放り出されてしまった。
新だけじゃない。音羽も木綿花も、そして都久詩も。戦闘組の四人はよっぽど危険な顔、いつ暴れ出してもおかしくないような表情をしていたに違いない。
「誰に襲われたんだろう?」
「絶対に許せませんよね、正義の鉄槌を食らわせないと」
「当然よ!」
襲われた由樹と穂には、まだ何も話を聞けていない。一体何があったのか、普通なら何も分からない。
だけど新には聖者の瞳があった。
鑑定能力を使えば、仲間の身に何が起こったかなんて、ある程度までなら簡単に分かるのだ。
――『たかはし』の拠点を守っていたところ、乙種クラブ『筋肉ダイナマイツ』によって襲われ大怪我を負った。笑いながら拠点を破壊したのも『筋肉ダイナマイツ』。
そもそも『筋肉ダイナマイツ』なんてクラブは知らないし、メンバーとも面識なんてない。まったく知らない相手になぜ襲われにゃならんのか。強い怒りがこみあげてきて、どうしても抑えきれない。
さらに詳しく鑑定していくと、犯人たちの顔と名前、学年とクラスなどが明確になっていく。
もちろんこれは個人の鑑定能力に過ぎない。証拠画像が出てくるわけじゃないし、それを元に被害届を出したり、裁判を起こしたりなんてできるわけじゃない。
だけど証拠があったところで、この学校ではなんの意味もない。この学校では正当な裁判なんてものは存在しないのだ。証拠があろうがなかろうが、自分で反撃するか、それとも泣き寝入りするか、どちらかしか道はない。
「ここってほんとに日本なのかな。法律も何も無さすぎだし、バイオレンスすぎるよね」
「そう? 学校の中なんて、所詮こんなものじゃない?」
この学校に入る前、中学校の時のことを思い出してみる。
こんなもんだったかな?
そう言われたらそんな気もする。いや、もっと酷かったんじゃなかったか。
今一つ記憶がはっきりしない。
中学校の頃って、よく考えてみればまだ数か月前の話だ。こんなに記憶がはっきりしないのは、どう考えても不自然のはず。
しかしその時、新だけでなく、音羽も木綿花も、もちろん都久詩も、誰もそれを不自然だと思うことはなかった。
そしてその判断は、異常なまでに暴力側に大きく傾いている。
力こそパワー、パワーこそ正義。それがこの学校、真神原塾社の理念なのだから。
新たちも入学から短期間のうちに、その理念にどっぷりと浸かっているのだ。
問題はただ一つだけ。
彼らと同じく卑怯な闇討ちを選ぶか、それとも正々堂々と決闘を挑むか。
ただそれだけ。
そして新たちにとって、そんなことはもう決まりきっていた。
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その翌日。
本来であればクラブ対抗戦の三位決定戦と決勝が行われる予定だった日。
第一闘技場では、四人の一年生と、十五人の上級生による一対一の決闘が行われることになった。
もちろん新たち、『たかはし』の四人と、『筋肉ダイナマイツ』のメンバーたちによる対戦だ。
とは言っても、この決闘はクラブ対抗戦ではなく、個人対個人の戦いだ。賭けられているのは、『たかはし』拠点を襲撃したかどうか、その一点のみ。十五人の被疑者たちと一対一で戦って、新たちが勝てばその者は犯人と決まるのだ。
真神原塾社は暴力に支配されているものの、私闘や闇討ち、殺し合いは禁止されている。気に入らないことがあれば、管理された決闘で白黒つける、それがこの学校のルール。
裁判のようなものではなく、決闘で全てを決める。それもまた、真神原塾社のやり方だった。
新の鑑定によれば、『筋肉ダイナマイツ』の全メンバーが『たかはし』拠点襲撃に参加していたわけじゃないことが分かっている。五年生の部長と副部長は全く関係していないし、それ以外にも参加していないメンバーは複数いた。
そこで決闘管理軍団と相談の上で、個人対個人の決闘を複数回行う形式になったわけだ。
新側は二次職レベル二十以上と、一年生としてはかなりの高レベルではあるものの、相手は乙種クラブの最上位。今回の決闘に出てくる上位三人は、二次職のレベル五十六、六十、六十五と、新たちを圧倒している。
普通に考えたら勝ち目はない。だからって黙ってやられっぱなしになるわけにはいかない。暴力吹き荒れるこの学校では、『戦いを挑むこと』、それ自体が重要なのだ。
クラフター組の四人は今も保健室にいる。この第一闘技場には来ていない。
だけどそのことが反対に、新たちの闘志に火をつける。そして火をつけるだけでなく、油まで注いていた。




