131.ワニールの軍勢
ワニのような人間、ワニールが四方八方から、そして上から一斉に襲い掛かってくる。
ワニールはしっかりと鎧を着こんでいるため、防御力はかなり高い。鎧だけじゃなく、ウロコの皮膚もかなり硬いため、しっかりと腰を入れて攻撃しないと、ダメージが与えられない。
そして手に持っているのは槍。魚を突く銛のような見た目をした武器だ。それなりにリーチが長く、切っ先も鋭い。数匹が横並びになってその槍を突き付けてくると、まったく踏み込むことができなくなる。かなりやりにくい敵だ。
四方からだけなら、こちらも陣を組んで対抗できる。だけどワニールは上からも割り込んでくるのだ。
新たちは簡単に布陣を崩され、各自がバラバラに一対多の戦いへと持ち込まれていく。
そんなワニールの槍ぶすまを、都久詩はあまり気にしていない。剣豪である彼女にとっては、床を這いまわっていた妖獣ワニーよりも、こうして武器を持って対陣してくるワニールの方がはるかに扱いやすいのだ。
ワニールの槍に囲まれているというのに、さっと槍の間合いに入るとそのまま槍を切り落とし、軽く急所を薙いでいく。
「グルルッ!」
一瞬にして数匹が血祭に上げられて、ワニールたちもあまり大きく踏み込めない。それどころか少し逃げ腰になっている。
しかし都久詩を前にして、それは完全な悪手。
都久詩はそんな引き気味のワニールの間合いにズカズカと踏み込むと、そのまま叩き斬っていく。踏み込んで来ない敵など、恐れることは何もない。逃げながらの槍では、彼女を止める事なんて出来っこない。
その程度では、彼女は止められないのだ。
それこそが彼女の奥義。
ワニールたちは何もできず、都久詩の刀のきらめきを見ることもないままに、ただ斬り捨てられていく。
都久詩だけじゃない。音羽もまた、ワニールの攻撃を物ともしていなかった。
ビュッ! ビュビュッ!
音羽の背後から三本の槍が襲い掛かる。死角からのタイミングを合わせた攻撃!
これはそう簡単には躱せない。攻撃を仕掛けたワニールたちの顔が醜く歪む。仕留めた、そう確信したのだ。
でもそんなものは、浅はかな魔物の勘違いに過ぎなかった。
音羽は軽くステップを踏むだけで、必殺と思われた背後からの攻撃をことごとく躱す。それだけじゃない、槍の一本を後ろ手に掴むと、突き出してくる勢いのままに前方へと押し出した。
ズサッ!
その槍は、前方から迫っていたワニールの一匹の胸に深々と刺さる。さらにはその反動で後ろに跳び上がる。そして宙返りしながら、槍を突き出してたワニールの首の後ろに鋭い蹴りを叩きこんだ。
拳闘士の音羽は武器を手にしていない。しかしその攻撃は鎧を素通りし、体の奥の奥を破壊するという恐ろしい威力を秘めた奥義のうちの一つ。
武技を磨き、奥義を身に着けた都久詩、そして音羽。
二人とは違って木綿花はまだ武技を完全には習得していない。もちろん奥義に目覚めてもいない。そもそも木綿花の職業は巫子。純粋な戦闘職ではないのだ。
そんな木綿花だったけれど、少しづつその職業に目覚め始めていた。神の言葉を聞き、神に願いを届けるその能力に。
「破魔の力を希います!」
願いを心に思い浮かべれば、必要な言葉が頭の中に自然に浮かび上がってくる。
そしてそれが、仲間の力を大きく引き上げ強化し、魔物の力を奪って弱体化する神の力へと繋がっていくのだ。
上から襲い掛かってくるワニールのせいでグループは分断されかけていたけれど、木綿花のすぐ側には、まだ陽菜と亜紗、二人のクラフターが残っていた。
そして強化の力が木綿花本人だけじゃなく、すぐ近くにいた陽菜と亜紗にも自動的に分け与えられていく。
「なんだか力が湧いてきたよ!」
「体が軽くなった気がするわね」
陽菜の包丁が襲い掛かってくるワニールの腕を切り裂き、亜紗の棍棒がその巨体を吹き飛ばす。
それは彼女たちの自力からは想像もつかないほどのパワー。敵が弱体化した上に、さらに自分たちは強化されている。その二重の効果が生み出した驚くほどの効果だ。
もちろん木綿花も二人に負けてはいない。運動が苦手な彼女とは思えないほど、華麗に槍を避け、払い、そして確実に相手の急所を突いて出る。
ワニールは後から後から押し寄せてくる。しかし彼女たちの連携を崩すことすらできず、屠られていくだけだ。
「みんな凄いな……」
新は思わず呟いた。
聖者の瞳を駆使しまくれば、視線を動かすまでもなく周囲の様子が確認できる。視えてきた状況は、もう圧倒的と言えた。
〈いつまで油を売っておるつもりなのじゃ? そろそろ働かぬか〉
いや、そう思っているんだけどね。さっきからなんだか、どんどん力が抜けていくみたいで……。
軽くため息をついてから、もう一度気合を入れなおす。
新一人だけピンチ、そんな状況が続く。




