129.湖の下
今いる場所は湖に取り囲まれた小さな島。ここからどうやって次の場所に移動するか、それが問題だ。
例えば今いるこの島。この島が動き出して次の島にいけるとか、そういうギミックが……。
鑑定してみたところ、島は動かない模様。その代わりに別の物が見つかった。
「こんなとこに隠し扉が!」
そう、島の中央に地下へと続く隠し扉が見つかったのだ。
時間が過ぎたら水が引いて湖に道ができるギミックとか、空中に見えない道があるとか、いろいろ想像して鑑定してたんだけど、答えはもっと単純だった。
隠し扉の周囲の土を払いのけ、取っ手を引っ張って開けてみる。
でも扉はギシギシ音を立てるだけで、固まっていてなかなか開かない。
「ちょっと待って!」
陽菜が腰のポーチからサラダ油を取り出した。そして隠し扉の蝶番のところに振りかける。
「これで動くんじゃないかな?」
もう一度、隠し扉の取っ手を思いっきり引っ張ってみる。
ギギギギ~~ッ
今度は上手くいった。隠し扉はさび付いた音を響かせながら、ゆっくりとその口を開けた。
扉の中から現れたのは下に降りるハシゴ、そしてその先には地下道らしきものが見える。
「もちろん行くよね?」
「当然!」
新たちは順番にハシゴを下り、地下道へと足を進める。
地下の通路は細く暗かったのは最初だけ、少し進むとかなりの広さがある場所に躍り出た。天井、そして壁全体がゆらゆらと揺らめきながら、うっすらと光っている。
「ここって、湖の底じゃないかしら」
「って、天井とか壁に見えるけど、実は水ってこと?」
そう言われてみると、周りは水の中に見えないことはない。
そこまで湖の透明度が高くなくて見えにくいけれど、水草みたいなものが周囲で揺れているようにも見える。
ガラスみたいな透明な壁があるんだろうか。壁際まで近づいて手で触れてみる。
ずぼっ!
「これ、壁じゃない! 水だ! 水がそのまま壁になってる!」
「何を意味の分からないこと言ってるのよ」
音羽も新の近くまでやってきて手を伸ばす。
ずぼっ!
「な、なにこれ! 水面が壁になってる!」
手を突っ込めば壁が揺れ、手を抜けばまた壁が揺れる。試しに両手で掬って手を洗ってみたら、問題なくできた。余った水は壁に戻ることはなく、自然に足元へと零れ落ちる。
「なんだか人魚姫になったみたいだね」
「コスプレ衣装を作りたくなっちゃうわ」
陽菜と亜紗が楽しそうにキャッキャとはしゃいでいる。
その気持ちは分かる。だけど、なんとなくだけど、これって多分そんな良いものじゃない気がするんだ……。
だってこれって、考えてみたら、右も左も上も全部が水際ってことだろ?
ということは、つまり……。
バッシャァッ!
突然のように天井から、大きな水音をたてながら巨大なカタマリが降って来た。
それは大きな口を開けて、天から降り注いでくる妖獣、ワニーだ!
狙われたのは陽菜、驚きのあまり全く反応できていない。新は咄嗟に彼女の襟元を掴むと、思いっきり自分の方に向けて引っ張った。
「きゃあっ!」
小柄な陽菜の体が引っ張られた拍子で吹っ飛ぶ。新の体もその反動を受けて、前につんのめった。
陽菜と場所を入れ替わった新、その真上から降って来たのが巨大な妖獣ワニーだ。
大口を開けているのは見えた。でも体勢が崩れていて避けられない、反撃もできない、腰からナイフを抜くだけで精いっぱい。
新はそのまま突っ立ったまま、頭から妖獣ワニーに丸飲みにされてしまった。上半身は完全に妖獣の口の中に隠れてしまっている。間違いなく絶体絶命。
だけど妖獣はその強力なアゴを閉じることは無かった。というよりも、あまりにすっぽり嵌ってしまったので閉じられないっぽい?
モガモガもがく新に、尻尾をフリフリしながらモゴモゴ噛もうとする妖獣ワニー。
傍目から見たら遊んでいるように見えるかもしれないけど、新も妖獣も命がけ、両者は今まさに必死の戦いを繰り広げているのだ。
遊んでるようにしか見えないけど!
都久詩が妖獣ワニーを切ろうと刀を構える。でもこの場合、どこから切るのが正解なのか。
下手に傷つけると、その反動でガリッと噛まれて新が危ない。妖獣ワニーを即死させるのは簡単だ。でもその勢いでアゴの筋肉が収縮してしまってはいけない。アゴの力を殺すようにしながら倒さないといけないのだ。
「うわわ、大変だ!」
そんな新を見て、動き出したのは陽菜だった。腰のポーチから愛用の包丁をさっと取り出すと、妖獣ワニーの下顎の付け根あたりを撫でる。
「んっと、この辺りかな? よいしょっ!」
スパッと包丁を入れて、中の肉を切る。まずは右側、そして反対側に回って左側も。
「これでもうアゴ肉は大丈夫だよ!」
陽菜は調理師、しかもついこの間、妖獣ワニーを何匹も解体して、そのお肉でバーベキューを振る舞ったばかり。どこの肉がどこについていて、どの骨がどうなっているかなんて、食材として完全に頭に入っている。
もちろんアゴの骨と筋肉の構造だって完全に理解しているのだ。もちろん味も。
大切な筋肉を切って噛みつけなくさえしてしまえば、妖獣ワニーなんて怖くも何ともない。新を助けるには、ただそのまま引っこ抜けばいいだけだった。
「ふいいい、助かったぁ!」
妖獣ワニーによる上からの攻撃。
もちろん新たちもその攻撃に慣れていなかったけれど、どうやら妖獣ワニーの側も慣れていなかった模様だ。
ある意味、お互い事故。
でもそれでも結果として、生き残る者、そして死んでいく者とに分かれるのだ。




