126.ぐだぐだ感
やっぱり彼らとは一度戦っている。恐らくだけどそれは間違いない。そして一度、倒しているのも間違いないようだ。
分からないことは審判さんに聞いてみることにしよう。
「あの、すみません。僕たち、予選であの人たちと戦ったと思うんですが、なんでまた戦うことになってるんでしょうか?」
「ちょっと待て、それはどういうことだ?」
審判さんも気づいてなかったらしい。
調べてみると簡単な話だった。新たちの対戦相手は、別の新設クラブのメンバーの代理として、予選に紛れ込んでいたのだ。
つまり彼らは、二つのクラブを掛け持ちしていたことになる。
「あの、それってルール違反で失格じゃないんですか?」
「普通ならそうなるな」
「普通なら? てことは、普通じゃない場合があるの?」
「うむ、君たちが彼らと戦うことを選ぶなら、特例で失格ではなくなるぞ」
それってつまり、ルール違反を許したうえ、さらに追加で、負けた相手にもう一度チャンスを与えるって話?
「予選で完勝してる相手とまたやるの? それってイジメじゃない?」
「だよねっ。弱すぎて、戦ってもつまんないよね~」
音羽と都久詩は再戦に否定的な模様。
新としても、戦って負けるとは思わないけど、かなり面倒くさいので戦いたくはない。
「それじゃ、戦わないってことで」
「戦わないならば、君たちは不戦勝と言うことになるが、それで良いかな?」
「ええ、不戦勝で構いませんよ」
「不戦勝だと次の試合に進めないが、それで構わないね?」
予選はいいかげんなので、不戦勝だと次に進めないなんてルールはない。
でも本戦は厳格だ。クラブ同士が申し合わせて相手に勝ちを譲ること、つまり八百長試合を撲滅するために、不戦勝での勝ち上がりが禁止されているのだ。
今回は八百長とはまったく関係ないけれど、不戦勝ということになるとその規則に抵触する。本戦の第一試合には勝利できるけれど、第二試合やそれ以降には出場できなくなるわけだ。
「はい、それで問題ないですよ」
「本当に大丈夫かね?」
「ええ、大丈夫です」
そもそも新たちの目標は、丙種クラブになること。そのためには本戦の第一試合で勝つだけでいいし、勝ち続ける必要はどこにもない。
武士からも、目立つことは避けた方がいいとアドバイスを貰っているからね。
「審判団としては、戦わずして勝つなど、まったくお勧めできないのだが……。五人抜きで圧勝したような相手との再戦はつまらん、この言い分はもっともだな」
よくよく話を聞いてみると、戦わずに勝つなんてありえないということで、普通だと不戦勝なんて許されることではないそうだ。
不戦勝になりそうになると、いろいろ理由をつけられて、結局は戦わなければならなくなる。そういうものなんだとか。
なんだかもう滅茶苦茶な話だけど、こんな学校だしね。
少し時間はかかったものの、新たちのクラブ『たかはし』の不戦勝は無事に認められ、勝利と共に第二回戦への進出権を失った。
「この後、見てても空しくなりそうだし、拠点に戻らない?」
「それもそうですね」
もしもこの後、よわよわのクラブばかりが出てくるようなら、もう少し続ければ良かったかなぁと後悔することになるだろう。
だけど、今回大切だったのは『目立たない』こと、それが一番のポイントだったのだ。
そう考えると、観客がいっぱいに入ったメイン会場の第一闘技場ではなく、ほぼ観客のいない第二闘技場で、試合なしの不戦勝に終わったことは、完全勝利、大成功と言えるんじゃないだろうか。
強くて残忍なクラブとぶつかって、再起不能にされる可能性だって高かったからね。
もちろん新たちが拠点に立ち去った後も、クラブ対抗戦はそのまま続いていく。
第一回戦は丙種と丁種の入れ替え戦。それが終わって第二回戦は丙種クラブ同士の戦いになる。もちろん試合が進めば進むほど、好勝負が増えていく。
「クラブ『圧殺党』、対戦相手『たかはし』の進出権停止により不戦勝だ」
そして第二回戦の次はもちろん第三回戦だ。ここまで来ると、丙種同士の戦いと言うよりも、上位クラブ、乙種への挑戦権を賭けた戦いという意味合いが強くなってくる。
部員の実力的にもかなりの上位層が集まって、激しく見ごたえがある戦いも多くなる。
「クラブ『我牙岩禍』、対戦相手『圧殺党』の進出権停止により不戦勝だ」
これで第二闘技場での予定試合は全て終了となった。
第二闘技場で開かれるのは第三回戦まで、この後の戦いは全てメイン会場である第一闘技場での開催になるのだ。
この少ない観客の中であっても、きっと何人かは気づいている。不戦勝による進出権停止、このルールが一体なにを意味するのか、そして何を生み出してしまったのかを。
第一闘技場にいるほとんどの生徒たちはまだ何も知らない。




