124.予選の様子
クラブ対抗戦、その予選が始まった。
最初の相手は朝霞春陽、穂乃香の姉妹が率いるクラブ『エメラルドの風』。二年生としては成績が普通の女子生徒が集うクラブだ。
もしかしたら本人たちは、自分たちは成績優秀だと勘違いしている可能性が高い。そんな優越感が表情の端々に現れて、見ているだけでイライラしてくる。
どうする? いたぶる?
いや、そこまで暇じゃない。サクッと片付けよう。
「試合開始!」
審判の掛け声と同時に前に出て、目の前の相手の腰辺りを目掛けて、右からミドルキックを叩きこむ。
ボグッ!
鈍い音を響かせて、相手がまるでマンガのように『くの字』になって吹き飛んだ。
人間の腰ってあんなに曲がらないよね……。
審判に強制退出させられて何事も無かったかのように終わったけれど、内蔵だって背骨だって、粉砕されてたんじゃなかろうか。
相手のグループの様子を見てみると、やられた本人は良く分かってなさそうだけど、見ていた仲間たちの顔が真っ青になっている。
「次! 出て来なさい」
審判から声がかかる。でも向こうからは誰も出てこない。
「あの、棄権したいんですけど……」
「馬鹿を言うな。戦う前に降参はできない、そういう規則だ」
クラブ対抗戦を取り仕切っているのは、学生たちが組織する決闘管理軍団、ぶっちゃけると脳筋たちが集まって、濃縮に濃縮を重ねたような組織だ。
もしかしたら本当の規則では降参できることになっている可能性はある、でも彼らはそんな軟弱なことを認めない。
戦う気がないなら、最初からクラブ対抗戦なんかに出場しなければいい。
彼らはそう信じているし、彼らにとってそれが正義なのだから、一般生徒がどれだけ抗議してもどうしようもなかった。
バゴッ! 次の女生徒が『くの字』になって飛んでいく。
「次!」
バゴッ! その次の女生徒も『くの字』になって飛んでいく。
四人目、穂乃香か春陽、どちらかが出てくると思っていたのに、出てきたのはやっぱりグループ仲間の五人の女生徒のうちの一人だった。
「なんで穂乃香が出てこないんだろう?」
「穂乃香は聖魔法士で、回復と結界が少々使えるだけですから。一対一の戦いには不向きだと思います」
ああ、そういうことね。
新たちでいれば木綿花のポジション、それをさらに集団戦寄りにした感じになるわけか。
そんな穂乃香の代わりに出てきた名前も知らない四人目の彼女だったわけだけど、音羽のキック一発でくの字どころか、数学の不等号みたいな鋭角に曲がってすっ飛んでいった。
最後の五人目にはもちろんリーダーの春陽が出てくる。
「みんな、ここは任せてくれ。逆に五人抜きして帰ってくるから」
「春陽、頼んだわよ!」
日の光を浴びた春陽の全身鎧が鈍く輝く。
彼女は本当に五人抜きをするつもりでいた。そもそも新たちとは少し前に一緒に探索したことがある。その時だって探索領域への慣れの問題はあったけれど、実力的にはこちらの方が上回っていたのだ。
その後、相手も経験を積んでいるだろうが、春陽だって同じように経験を積み上げている。どこにも負ける要素なんて無い。その信念があった。
相対する音羽には、そんな春陽の考えが手に取るように理解できた。一緒に探索したあの時は、確かにレベルだけで言えばほぼ同じくらいだったのだ。だけど技量は月とスッポン、雲泥の差があったわけで。
そして今ではレベルだって大きくかけ離れている。春陽には音羽に勝てる要素なんてどこにもないのである。
春陽はその現実を見たくないあまりに、心にフタをし続けているに違いない。
最後の一人、エースとして登場した春陽だったけれど、音羽の強烈な蹴りを受けて、まるで二つ折りになったみたいな姿で吹っ飛んでいった。
それは見せ場すらない、完全な敗北であった。
朝霞姉妹率いるクラブ『エメラルドの風』はこれで予選敗退決定。新たち『たかはし』は勝ち残りだ。
予選にはトーナメント表なんか存在しない。続々と現れる挑戦者をただひたすらなぎ倒していく、そんな勝ち抜き戦だったりする。
「予選はトーナメントじゃないっていうのは、こういう事だったのか……」
「これって運に左右されすぎじゃない?」
「然り。諸君は一年生のクラブ。ゆえに上級生たちがこぞって挑戦してくることになる。それをはね返してこそ上位クラブへの道が開かれるというものだ」
審判を引き受けてくれている決闘管理軍団の先輩、その言葉がやけに熱い。
よく見たら、別の決闘管理の先輩たちが「一年生に舐められたまま終わるな!」みたいな感じで上級生クラブを煽ってる……。
「次は俺たちが挑戦するぜ!」
「なに言ってんだ、コラッ! ちゃんと後ろに並びやがれっ!」
後ろって? よく見ると十団体ぐらいが並んでいるように見えるんだけど、これってクラブ対抗戦の予選だし、五回勝てば確実に本戦に出場できる……、つまり十回も戦う必要はどこにもない。それなのに並ばせてどうするんだろう。
煽りまくるのはいいけれど、この場を収めるつもりはあるのか。多分ないんじゃないかな。




