119.正式なクラブへ
新たちの毎日は、少しづつ落ち着きを見せ始めていた。
魔巌洞の攻略も、やっぱり少しづつだけど確実に、滞りなく進んでいる。クラブの拠点建設はまだまだだけど、それでも日々、ただの荒れ地だった場所が形を整えつつある。
思えば入学初日からいきなり、魔巌洞十人以上の行方不明者が出たり、訳の分からない魑魅領域なんてところに迷い込んだり。上級生から因縁をつけられて決闘騒ぎになったり、特別講習に送り込まれたり。
この学校、真神原塾社に慣れるのにはとっても役に立ったけど、せわしなさすぎたんだよ。それも、とんでもなく。
「みんな、聞いて~! 『たかはし』がクラブとして正式に学校に受理されたよ~!」
杭打ち作業の手を止めて、陽菜の声がした方に顔を向ける。彼女は一枚の紙きれをヒラヒラ振りながら、こちらに向かって駆けてきた。
「この場所も正式に『たかはし』の拠点になったよ!」
「やったね!」
「そうか、もう五月だもんね」
「やっとクラブ解禁かぁ」
みんなもそれぞれの作業の手を止めて、陽菜の所に集まってくる。その手にした紙には、確かに『許可』と書かれた大きな赤いハンコが押してある。
クラブ名称: たかはし
部長: 若草新(一年辰組)
副部長: 天坂陽菜(三年未組)、坂江木綿花(一年辰組)
「えええ? 僕が部長なの? いつの間にそんなことが!」
「なに? 今頃になってソコなの?」
そんなことを話し合った覚えはなかったんだけど、みんなの中ではそういうことになっていたらしい。
そう言えば、どうせ意見しても通らないからと思って、全部任せてたような。そんな覚えがあるような、無いような。
なんにしろ、これで『たかはし』も正式クラブになったってわけだ。うん、おめでたいね。
「というわけで、クラブ対抗戦のメンバーを五人、決めなきゃいけないんだけど!」
え? クラブ対抗戦? それってなに?
そんな話、今まで聞いたことないんだけど?
「もう、新って、なにも話を聞いてなかったでしょ!」
「あ、はい……、ごめんなさい」
「それじゃ、もしかしたらクラブ解禁日のことも知らなかったのかな?」
「……恥ずかしながら」
新はちっとも覚えていなかったけれど、新一年生は五月の解禁日までクラブに参加できないルールがあるらしい。その解禁日が今日だった模様。
それで、その解禁日とクラブ対抗戦って、何の関係があるんだろうか。
「これから一年生たちがクラブを作ることになるでしょ? だから新しいクラブがいっぱい生まれてくるのよ」
「なるほど。でも何で戦う必要が……」
「学校の予算には限りがあるじゃないの。戦って上位に入ったクラブだけ予算を貰えるってこと。それを決めるのがクラブ対抗戦だよ!」
「あの……もしかしてこの拠点も……」
「うん、そうだね。戦って負けたら、他のクラブのモノになるかもね! だから対抗戦で頑張らないとね」
な、なんと! 奪われてしまうこともあるなんて!
これは何としても死守しなければなるまい!
クラブのランクはその強さによって、甲、乙、丙、丁の四つに分かれている。別に難しく考えなくてもいい。上位ランクのクラブは強くて、下に行くほど弱いってだけのこと。
新設されたクラブは全部一番下、丁種にランクされている。この丙種の中で予選をして、勝ち上がったクラブが丙種と戦う。さらに勝ち上がれたら乙種、甲種と戦う。そうやってランキングを駆けあがるのだ。
「武士、お前の言いたいことは分かった。つまり、全部勝てばいいってことだね!」
「新、お前はアホか!」
え? 何か違ってた?
「俺が言ってるのは、どのあたりのランクを狙うかってこった」
「そりゃ一番上じゃないの?」
戦う以上、普通なら狙うのは一番上、優勝だよね?
「もうちょっと真面目に考えろよ。下手にランクが上に上がりすぎたら、他のクラブから嫉妬されたり、狙われたりするだろうが」
ああ、そういう政治的な奴ね。それなら理解できなくはない。
「そっち系を気にするんなら、中堅の一番下か、下位の一番上あたりを狙うのがいいかもね」
「おお、新のくせに理解が早いじゃないか。最低でも新設は抜け出ないと駄目だぞ」
一応、学校からは全てのクラブが認可される。だけどすべてのクラブが平等ってワケじゃない。クラブ予算だってランクによって全然違うし、クラブ同士で力づくでの奪い合いも、かなり頻繁に発生するらしい。
そしてこの学校は、自治というよりもただの放任なんだけど、生徒同士の揉め事にはほぼ口出ししてこない。争いごとは全て暴力で、つまり生徒同士の決闘で解決していくことになるのだ。
簡単に言うと、クラブのランクが低すぎれば舐められるし、高すぎれば嫌がらせやチョッカイをかけられる。
何にしても、クラブ対抗戦で『あいつらはヤバい』と見せつける必要があるってこと。
「だからって、やりすぎるんじゃないぞ?」
「何言ってるんだよ、武士。僕みたいな温厚な人間が、やりすぎたりするわけないじゃないか」
やりすぎどころかその反対、途中でやる気を失って手を抜きすぎるんじゃないか。自分ではそっちの方が心配なくらいだよ……。




