116.勘違いというか
新や武士たちと同じ一年辰組の男子生徒、青雲志郎は、今日も朝から授業を休んで魔巌洞攻略に精を出していた。
一年生のこの時期で、志郎はすでに第三階層まで到達し、そこでしっかりとレベル六まで上げていた。仲間の女子たちの育成も順調で、この週末には彼女たちもレベル三になっている。
一人授業を休んで先行して、週末に仲間のレベルを上げる。完全に作戦勝ち、知能の勝利だ。そう自画自賛していたとしても不思議じゃない。
授業を全休している分、女子たちとのコミュニケーションが不足して、ラブラブ度はあんまり上がっていない気がしないでもない。でもそんなのは些細なこと。志郎さえ強くなれば、おのずとラブラブ度は上がってくるはず。
なんといってもここは真神原塾社。命がけの魔巌洞探索を基本とする弱肉強食の世界なのだから。
早朝の魔巌洞攻略を終わり、朝食休憩を取ってからもう一度魔巌洞に戻る。その時、志郎の眼に見たくもない人物の姿が映った。
若草新。
そして彼に従う音羽と木綿花、そしてもう一人の女子生徒。
音羽、そして木綿花は、本当だったら志郎のものになるはずだった女子生徒だ。それをあの新が無理やり、それも詐欺のような卑怯な方法で奪い取り、まるで我が物のように扱っているのだ。
「姑息な野郎め」
志郎の強さはおそらくすでに新を追い抜いているだろう。しかし焦りは禁物。確実に勝てる、それも圧倒的な力でねじ伏せられるだけの力を身につける。今はそれが一番大切だ。
鬼畜の新の後に続いて、可憐な音羽と木綿花、さらにもう一人の女子生徒が魔巌洞の入場門の中に消えていく。
志郎は頭が沸騰しそうになるほどの怒りを覚えながら、一つ大切なことに気づいた。
待てよ、今は授業時間のはずだ。なぜあいつが魔巌洞にいる?
そのことである。
それはすなわち、あの鬼畜野郎もまた、授業を休んでレベルを上げることを選んだということ。
このままでいいのか? いや、絶対に良くない。
「くそっ、階層を上げるか」
さらにレベル上げの効率を上げ、あの鬼畜野郎を引き離すには、それしかない。
志郎は覚悟を決めるようにその眼鏡をクイッと上げて、入場門へと進んでいった。
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「授業を休んで自分たちだけで魔巌洞なんて、初めてよね。何だか新鮮だわ」
「このままずっと、授業休みでもいいよね!」
音羽と都久詩が朝っぱらから能天気なことを言っている。
正確に言えば特別講習、あの時には正規の授業を休んで魔巌洞へと挑んでいた。でもあれはあれ。学校側からの指定による特別な授業だったわけで、今みたいに自分たちだけで決めたことじゃなかった。
今、新たちが挑んでいるのは魑魅領域の第四階層。回転するパイプのような構造で、巨大な水たまりが動き回るという特殊領域だ。
パイプの中を前後に動き回る水を避けるためには、どうしても魔巌洞攻略の時間を調整する必要がある。そしてそのためには授業を休まなければならないのだ。
「それじゃ行くぞ。準備はいいよね?」
「もちろんだよ!」
魔巌洞への入場門をくぐる。その先は真っ暗闇の第四階層、直径五メートルほどの円形洞窟だ。
「敵は?」
「後ろから四匹、妖獣ワニーよ」
すぐに音羽が走り出し、都久詩が素早くそれに続く。
今となっては妖獣ワニーが四匹程度なら、まず問題になることはない。だけど気を抜かないように、周囲への警戒も怠らないように。異変があったらすぐに飛び出せるように、その心構えだけは忘れてはいけない。
舐めてかかると何が起こるか分からないからね。戦闘力なら申し分ないはずの朝霞姉妹が、序盤も序盤の第零階層で遭難した事故だってあったばかりなのだ。
しっかり警戒する中、何事もなかったように妖獣ワニーは砂になって魔巌洞の中に消えていく。
「楽勝だね!」
「いや、待って」
確かに楽勝だった。でもなぜか違和感が消えない。
なんだろうこれ。以前にもあったような気がする、でも思い出せない。
都久詩か? いや、違う。彼女じゃない。
ふと木綿花の方に振り返る。そこには強い違和感。
「そこだっ!」
新は思いっきり手を伸ばして、その違和感の元をわしづかみにした
「きゃあぁっ! 何するんですかっ! もう、いきなり女の子の胸元に手を突っ込むなんて!」
「そうよ、いきなり乱暴はダメよ。触りたいなら、言ってくれればいくらでもって言ってあるでしょ?」
そんな音羽にも違和感が強い。
「そこにもっ!」
今度は左腕を音羽に向かって思いっきり伸ばした。
「何するのよ、変態っ!」
音羽はその手を軽く払いのける。
「新、突然どうしちゃったのよ」
いや、ちょっと待って、そうじゃないんだ!




