115.救出劇
仲間たちがすぐに対応してくれたので、それなりに余裕をもって卵の処理を行うことができた。
新が割った卵は二つ。巨大棍棒で叩き割ったので、中の人まで怪我をした……かもしれない。あんまり手加減をする余裕がなかったので仕方ないと思う。
「お~い、大丈夫?」
……。
返事が返って来ない。
中の人はかなりぐったりしていたけれど、どうやら意識はある様子。なんとかギリギリ間に合ったってとこ。
「こっちも生きてるっぽいよ!」
都久詩が斬った卵はちょっとひどかった。中の人の制服やら髪の毛やらが一緒に切れてしまって、かなり悲惨なことになっていた。
でも生きてたなら良しってことにしよう。
穂乃香ももちろん無事だった。音羽が割った卵の中にいたみたいだ。音羽の場合は表面だけダメージを受ける武技を使ったらしく、中には全く影響を与えなかったらしい。
ちなみに春陽は魂が抜け出てしまっていて、ここでも何の役にも立たなかった。理解できなくはないけど、戦ってる時は邪魔しまくっていたんで、ちょっとは役に立って欲しかったところだ。
穂乃香たち救出されたメンバーは、ちゃんと生きてはいるものの、かなり憔悴していて自分では立ち上がる事すら出来ない模様。今はまだ会話すら難しい。
介護しようと近寄ると、彼女たちの周囲にホタルのような光が飛び回り始めた。これは死んで崩れる前兆じゃない。魔巌洞の転送の光だ。
「そうか、彼女たちだけ時間切れになったんだ」
本当ならばとうの昔に時間切れになっていたはず。それが卵魔法に邪魔されたせいで、今になってから転送されることになったと思われる。
「外、誰もいませんけど、大丈夫でしょうか?」
「分かんない。考えても仕方ないでしょ。僕らにはどうしようもないし」
新たちにはまだ時間が残っている。だから外に出たくても出られない。
まさかこういう展開になるとは予想してなかったんだよね。知っていたら何が何でも絶対に春陽を置いてきただろうに。
こうなってしまった以上、じたばたしても仕方ない。現実をそのまま受け入れるまでだ。
ボスは倒した。宝箱は無かった。ドロップアイテムは壊れて消えてしまった。手に入ったのはボスのビー玉一つだけ。あまりにも美味しくない戦い。
その上、助けたはずの女生徒たちが、野外に放置されることになるなんて。
突然始まった救出劇は、なんとも間抜けな結果に終わった。
穂乃香たちが外に出てから、かなりの時間が過ぎたような気がする。でも実際には十分もたっていないはず。新たちにも魔巌洞から退出する時間がやってきた。
退場門から出てみると、そこには六人の女生徒たちが転がっていた。もちろん穂乃香たちだ。
「ああ、やっぱり動けないままかぁ」
「魔巌洞から出たから怪我は治ってるだろうけど、体力は回復しないもんね」
暴漢に襲われてなくて良かったね。人の少ない夜間だったのがある意味良かったって感じ。
「いろいろ言いたいことはありますけど、今夜はやめておきましょうか。彼女たちを保健室に運んでお休みにしましょう」
「ほら、春陽、泣いてないで、あなたも働きなさいっ」
音羽に軽く尻を蹴っ飛ばされて、春陽もようやく動き出す。
運ぶにしても、こっちは五人、倒れてるのは六人。一人づつ運んでたら一人余っちゃうじゃないの。
新は女子生徒を両肩に一人づつ担ぎ上げる。かなり適当な扱いだけど、往復なんてやってられない。魔巌洞から出たてってことは、怪我してないってことだしね。
ちょっとぐらい手荒に扱っても大丈夫でしょ。
保健室にたどり着き、肩に背負った二人を投げおろそうと思った時、ずっと俯いたまま黙り込んでいた春陽が一言だけ、ぼそっと口にした。
「……助けてくれて、ありがとう」
もう、しょうがないなあ。今夜のことは全部、貸しにしといてあげるかな。
その深夜。
救出作戦なんてやってたし、寝坊するかもしれないと心配していたけれど、ちゃんと時間通りに目が覚めた。
「新も寝坊しなかったみたいね」
「なんとかギリギリってとこ。目覚まし無いとヤバかった」
魔巌洞に行ってみると、女子三人はもう揃っていた。ただし都久詩は半分寝ぼけているようで、眠そうな目をこすっている。
「軽くラジオ体操でもしてから入らない?」
魔巌洞の敵はどうなっているのか予想がつかない。まったく敵がいないこともあるし、入った途端に乱戦になることだってある。
いつも通りに体が動かなければ、それがそのまま命に関わることだってあるのだ。
「ほら、都久詩も」
「むう~、眠いよぅ……」
寝ぼけて嫌がる都久詩を急き立てながら、こわばった体をほぐしていく。
ラジオ体操第一、ついでに第二までやっちゃおう。
「ちゃんと起きた?」
「うん、目が覚めたよ!」
魔巌洞に入る。特に急襲されることも乱戦になることもなく、ただ妖獣を狩って、元は水たまりだったところを越えていくだけ。
そして新しい水たまりにたどり着いたなら、大量に湧いた妖獣を片付けて終わりだ。
「みんな、お疲れ様。次は一時間目の頃になるね」
「その次はお昼ご飯のあとぐらい?」
「多分ですけど、そのぐらいになりそうですね」
戦いと言うよりも、一定時間おきに集まれるかどうかを競うバトル。
一歩一歩確実に進んでいる。
だけどやっぱり一気に進めないのがもどかしいね。




