112.救援要請
吹き飛ばされる巨体。飛び散る血しぶき。
その戦いはとても激しく、凄惨を極めた。
しかし終わってみればあっけない。地面にはきらきら光るビー玉が大量に転がっているだけ。飛び散った血潮も何もかも、何の跡形もなかった。
相手が魔物や妖獣とはいえ、その生きた証も何もかもが一切、魔巌洞では無に帰してしまうのだ。
「だ、大丈夫、だった?」
「ええ、私はなんとか」
「あの勢いに飲み込まれかけましたから」
「危なかったよね」
新の鎧もズタズタだったが、新だけじゃない、みんなの姿もボロボロだった。
制服のプリーツスカートやブレザーはボロ布のようになっているし、太ももやふくらはぎに巻かれた万能包帯からは赤黒く変色した血がにじみ出している。音羽なんか、右側の足鎧が半分噛み千切られて、ぶら下がっているぐらいだ。
「もしかしたら今までで一番のピンチだったかもしれないですね」
「私もそう思ったわ」
本当に危ない、それどころか、これは終わった、と思わされた瞬間が何度もあったからね。一匹一匹だとそれほどではないけれど、群れをなして襲ってくる敵は本当に恐ろしい。
ましてや、その相手には一撃必殺の決め手がある場合には特に。
新たちはそこら中に散らばったビー玉をしっかりと拾い集めると、魔巌洞の外へと転送される。ちょうど時間だ。
退場門の周りにはさすがに人がいない。ただ夜空の星が周囲を冷たく見下ろしているだけだ。
今日の探索はさすがにこれでおしまい。次の探索は六時間後の深夜、今から軽く仮眠をとった後になる。
「ボク、ちゃんと起きられるかなぁ……」
「都久詩、マクラ持って私たちの部屋に来る?」
「うん、そうする!」
深夜となると、起きられるかどうか心配だ。
新も一緒に……と言うわけにはいかないし。頑張って根性で起きるしかないよね。
今夜はさすがに疲れた。とっとと寮に戻って寝よう。
そう思った時、退場門がぼんやりと輝いた。
誰かが出てくる。それもグループじゃない、一人だけ。
自分たち以外にも、こんな夜遅くまで頑張っている人がいるんだな。心の中でお疲れ様と声をかけ、この場を立ち去ろうとしたところ、出てきた人と目が合った。
「あれ? 春陽? こんな時間まで一人で頑張ってるの?」
出てきたのは二年生の女子、朝霞姉妹の双子の姉の春陽だ。
妹の穂乃香とはいつもいっしょなのかと思っていたけど、どうやらそうでもないらしい。いつもの仲間も側にいないし。それになんだか顔色が悪い?
「どうしたの? なにかあったの?」
彼女は門から出るなり膝をつく。やっぱり何かあったか。
「あ、新! お願い、助けて。妹を、穂乃香を、仲間たちを助けて!」
どうやら時間に余裕はない。でも肝心の春陽が何を言っているのか、支離滅裂すぎて理解が難しい。
「いいからちょっと水飲んで落ち着いて!」
「そんなのどうでもいいから早く! 早く助けて!」
手渡そうとしたペットボトルを叩き落として、春陽が暴れる。ちょっと手のつけようがない。
落ち着いてもらわないとどういう状況なのか見えないし、状況が分からずに動くと最悪の場合は二重遭難だ。
ああ、もう! こんなことしてる時間は無いのに!
新は地面に転がったペットボトルを拾うと、その中身を春陽の頭からぶっかけた。
「いいから冷静になれ、この阿呆っ! 妹を殺したいのか!」
「ちょ、ちょっとやりすぎよ!」
わんわん泣き出した春陽をかばうようにして音羽が文句を言ってくる。
確かにやりすぎだったと思うけど!
それから数分後、やっと泣き止んで落ち着きを取り戻した春陽が、ポツリポツリと状況を語りだした。
彼女たちのグループは、新たちと同じく魑魅領域、その第零階層に挑戦していた。もちろん目的はビキニアーマー。それをグループ全員分集める事だった。
短い道中の天井から降って来るゴブリン軍団は、面倒ではあったけれどレベル差で押し切ることができた。そしてボス戦、そこで問題が起こったらしい。
まず仲間たちの数人がボスに捉えられた。そしてそれを助けようとして他の仲間と、そして穂乃香も捕まってしまった。
春陽は一人、何とかボス部屋から逃げ出せたけれど、仲間たちを助ける手を思いつかず、そのまま時間切れになってしまったそうだ。
なるほど……さっぱり状況が分からん。
「捕まったってどういう状況ですか? 檻みたいなもの? それとも魔法の結界みたいな?」
「卵……みたいなものの中に捕らえられた……と思う」
「タマゴ? 魔法みたいなもの?」
「分からないのよ! 気づいたら仲間たちが卵になってて! それで!」
また興奮しそうになった春陽を音羽と木綿花が二人掛かりで抑える。
この魔巌洞のボスって、本人よりも魔法の武器で強さが決まってるけれど。
魔法のタマゴでこっちを捕まえてくるゴブリンだって?
それって、新たちの力で何とか出来るの?




