111.探索、再開
バーべキューを楽しみ、そのあとそれぞれ個人の寮でゆっくりした新たちは、再び夜の魔巌洞前に集合していた。
明日から一週間、授業不参加の届け出も投函してある。
ここからは迫りくる水を魔巌洞の外に出て避ける、そして水が引いたら魔巌洞に戻る、その繰り返しになる。
実際の水を見ることはできない。ただ新の鑑定、聖者の瞳だけが頼りだ。これは簡単なようでいて、精神的には結構きつい。入ってみたら水の底、そして全滅なんて未来がどうしても頭をよぎる。
「そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ」
「気楽にいこうよ、ね?」
そう、ここまで来てウジウジしててもしょうがないよね。
「よし、行ってみようか」
新たち四人はしっかり覚悟を決めて入場門をくぐった。
真っ暗なパイプ状の洞窟、その岩壁はしっとりと湿っている。はるか後方には大きな水たまり、そして前方には……ただの上り坂、水たまりは見当たらない。
「よし、成功だ!」
四人のホッとしたため息の音が、大きく魔巌洞の中に響く。
「妖獣ワニーは……後ろの水たまりに固まっているみたいですね。倒しましょうか?」
「そうね、経験値は欲しいし、拠点づくりでお金だっているもんね」
拠点の素材はある程度、自給自足できている。でもすべてが揃っているわけでもない。
建物を建てるには金具だって必要になるし、井戸から水をくみ上げるにはポンプだって必要だ。電気を使うにはソーラーパネル、そしてバッテリーだって必要になってくる。
クラブ『たかはし』は新たち戦闘組四人と、三年生のクラフター組四人、全部で八名。それに新たちのクラスメイト、同じ一年生組の武士たち五人がオブザーバー参加しているので、合わせて十三人だ。
このうち一番稼げているのはもちろん新たちのグループと言うことになる。クラフター組もいろいろお金を稼ぐ方法を考えているみたいだけど、今のところは収入に繋がっていないのが現状だ。
「それじゃ、軽く掃除しちゃおうか」
「うん、行っちゃおう!」
後ろにあった水たまりまで戻ると、音羽と都久詩の投石祭が始まる。
ここからは、もう完全に手慣れたものだ。おびき寄せた妖獣ワニーを狩り、さらに釣り竿と石を使っておびき寄せる。
それほど時間がたたないうちに、水たまりの中の妖獣ワニーをほぼ全部狩りつくすことができた。水中トンネルの奥の方にいた奴まで含めて一網打尽だ。
水たまりが片付いたので、洞窟の中を先へと進み始める。数匹の妖獣ワニーの群れと何度も遭遇するけれど、まったく大したことはない。
時々足を滑られてヒヤッとさせられることはあるけれど、ほんとうにそれだけ。たちまち仲間の援護が飛んでくるので、危なげないとしか言いようがない。
そうしてどんどん進んでいくと、目の前に大きな水たまりが見えてきた。妖獣ワニーもわんさか湧いている状態だ。
「ここ、最初に引っかかった水たまりだ」
聖者の瞳によると、地図があるのはここまで。この先は未知の領域ってことになっている。
そうか、ここか。かなり回り道をしたけれど、ここからが本当の挑戦ってことだ。
「念入りにやりたくなるわね」
「全滅させちゃおう!」
音羽と都久詩はやる気満々。木綿花まで鼻をフンスと鳴らしている。
「それじゃ、行くわよ!」
音羽の掛け声とともに、二人の投石が始まる。そして数匹がこっちに引きつけられて……
「うわわっ! 全部来ちゃったよ!」
「なんでよっ! もしかしてリーダーに当たっちゃって、みんな一斉に怒りだしたとか?」
これは大変。ここまでは投石でおびき寄せられたのは、一度の数匹、多くても十匹弱ってところだった。それなのに水際にいる全部の妖獣ワニーが同時に動き出してしまったのだ。
それだけじゃない。水中からも続々と妖獣ワニーが上陸してくる。そして妖獣ワニー全部が一つの集団になって、地面を揺らすほどの勢いでこっちに突進してくる。
「僕と都久詩で!」
「分かった、任せる!」
簡単なやり取りだけを済ませると、新はサッと前に出て、都久詩の右に並ぶ。音羽は代わりに後退だ。
拳闘士の音羽は乱戦が得意じゃない。防御力よりも機動力な戦闘スタイルなので、足場がない状態になってまったく機動力が使えなくなると、一気に戦闘力が落ちてしまう。
正直な話、新だって乱戦は得意じゃない。何も考えずに巨大棍棒を振り回すだけしかできない。でもそれが戦術として一番生きてくるのが乱戦。それなら新が一番の適任だ。
「うおりゃぁっ!」
新は腹の底から叫び声を上げて、気合を入れた。同時に体の奥から力がどんどん湧き上がってくる。
この距離なら相手の突進は止まるはず。しかし後から後からどんどん押されるから、強烈な圧力自体は止まらない。
新はそんな妖獣ワニーの津波を迎え撃つべく、全力で巨大棍棒を振り上げた。




