110.拠点の正しい使い方
さて、次に魔巌洞に突入するまであと五時間。一体何をして過ごそうか。
「拠点整備のお手伝いでもする?」
「う~ん、今日はもう、これ以上進める予定は無いかな」
新たちの手伝いの申し出は、木工師の由樹に丁寧にお断りされてしまった。確かにもうじき暗くなってくるし、作業を続けるのは難しくなってくる。
「できるのは周りの柵ぐらいかな? 周りの木を切って作っちゃおうかと思ってるよ」
「えええ! 切っちゃっていいの?」
「だって切らないとどうしようもないでしょ。日陰になっちゃうし、切らないと穂に怒られるわよ?」
畑の日当たりの問題で、どうせある程度は切ってしまわないといけないのだとか。
「あの、学校の許可とか、貰わなくても平気なの?」
「大丈夫、大丈夫。あっちの森もそっちの森も全部、拠点の中だから」
おいおい、この学校、一体どんだけ広い土地を余らせてるんだよ。しかもそれを一部の生徒に丸投げとか。管理って言葉、どこ行った……。
夕焼けに染まり始めた広い土地をもう一度見まわしてみる。
本当に広い。だだっ広い。
これだけの広さがあれば、何だって作れそうだ。
「合体ロボみたいな秘密要塞も作れるかな?」
「秘密基地と言えば、地上よりも地下よ、地下!」
「地下には謎の研究所があるんですよね」
「あはは、そう、なんだって自由よ。全部自分で作らないと駄目だけどね!」
何だって自由、自分たちだけの拠点。なんと浪漫あふれる話だろう。
「はいは~い、ここでゲストの到着だよ!」
裁縫師の亜紗が、クラスメイトの武士グループの五人と一緒にやってきた。見当たらないと思っていたら、彼らを呼びに行っていたらしい。
「ここ全部、『たかはし』の基地になるのか、すげーな、おいっ!」
「お城を建てて、みんなで生活したいですね」
「もちろん、お姫さまのコスプレだよね」
お城! 出来ないことはないな。ただし庭園の代わりに畑になっちゃうけど!
「お城、いいよね。姫路城もいいけど、熊本城も捨てがたいよね!」
「え? お城ってそっち?」
「ベルサイユ宮殿とか、そっち系だと思ったよ」
「うんうん、私もそう思った」
「えええ! お城って言えば石垣じゃないの! みんな変よ!」
何か一人だけ、日本の城マニアがいるのが発覚した瞬間である。
わいわいガヤガヤと、尖塔と天守閣、石壁と石垣、どっちがいいか論争を繰り広げる。ぶっちゃけどうでもいい話なんだけど、なぜかとっても楽しい。
ちなみに新は銃座つきの塔が地面から生えてくるギミックを押してみた。ちなみに武士は、天守閣の下にキャタピラをつけて、走り回れるようにしたいらしい。
動力はどうするんだろう。もしかしてお城の中で、みんなで自転車みたいに漕ぐんだろうか。
たわいない話を楽しんでいると、美味しそうな匂いが辺りから漂ってくる。
「みんな~、そろそろお肉が焼けるわよ~!」
調理師の陽菜の声だ。いつの間にかバーベキューの用意をしていた模様。
食堂から分けて貰って来たのか、魔巌洞でのバーベキューの時と違って、野菜なんかもしっかり揃っている。
「今日のメインはワニー肉だよ~! お替りもいっぱいあるから、遠慮しないで食べてね!」
「「おお~~~っ!」」
見た目でいえば、少し白っぽいお肉だ。おそらくクマーか、ブターだろう、普通の赤っぽいお肉は少な目になっている。
「赤身はもう少し熟成してからの方が美味しいからね。拠点に熟成室も作る予定だから、その時のお楽しみにしてね」
魔法の鎧袋の中にしまっていると鮮度も保たれるんだろう。どこの部位なのか分からないけど、モツもそこそこお皿に並んでいる。
山盛りのお肉がどんどん焼かれ、香ばしい匂いと煙だけを残してみんなのお腹の中に消えていく。
「ずるいぞ、新。俺たちに内緒でお前らだけで、こんな美味しい思いしてたなんて」
「そんなこと言われても特別講習だったんだし、魔巌洞の中だったんだから、呼ぼうにも呼べなかっただろ?」
「そこを何とかするのが親友じゃないか」
「そうよ、ずるいっ! ずるいよ!」
もう理屈がめちゃくちゃだ。
その上、武士グループの女子まで参加してくる。
大量のお皿に山盛りだったお肉も野菜も、みるみるうちに消えていき、あっという間にバーベキューは終わってしまった。
この学校、真神原塾社は体力が命。女子だからって小食なんてことは一切ありえない。命がけで全力を尽くして戦う毎日、そこには男も女もない。
「ふう~、食った、食った」
「こんなにおいしい物をお腹いっぱい食べるのって、この学校に来て初めてだよね」
「毎日がこうだといいよね~」
妖獣のお肉は美味しい。でもそれだけじゃない、調理師の陽菜の腕が優れているのだ。その上、こうやって仲間と一緒にわいわい騒ぎながら、大空の下でパーティをしているのだから、美味しくないはずがない。
「みんなもうお腹いっぱい? デザートがあるんだけど、今日はやめとく?」
陽菜が引っ張り出してきたのは、かなり大きめなクーラーボックスが複数。その中から出てきたのは、ドンブリみたいな大きな器に入った特製プリン。
「うわ~! プリンだ!」
「食べる、食べる!」
まるでイナゴのようにプリンに群がる仲間たち。
お腹いっぱいって言ってたのに、一体どこに入っていくんだろう。と思いつつ、新も一緒になってプリンをパクパク食べている。
「陽菜、それあとでクラフター組だけで内緒で食べようって言ってたじゃないの!」
「まあまあ、いいじゃない。それはまた作るから」
なんだかとんでもない悪だくみが聞こえてきた気がするけど、今は別にいいかな。
プリン美味しいし!




