109.何とかする方法は……
プール八個分以上の水をなんとかする?
一体どうやって?
「ねえ、陽菜。もしかしてだけど、沸かせば蒸発して消える、なんて言い出すんじゃないわよね?」
「さすがにそんなことは言わないよ」
「小麦粉を入れて練って固めるとか」
「あ、それいいかも! でも違うよ」
そもそもそんな大量な小麦粉は用意できないし、それに食べ物を粗末にしちゃいけないよね。
「全部飲み干しちゃえば!」
「もう、違うよ! 真面目な話だよ!」
飲めと言われたらどうしようかと身構えてしまったけど、違うようで安心した。
でもそれなら、どうすればいいんだろうか。
「簡単だよ、寝かしておけばいいんだよ」
「寝かす?」
寝かすって何? 寝る子は育つって話?
お肉が食べごろになるまで置いておくとか、そっち系?
やっぱり飲むの? 飲み干すの?
「魔巌洞にずっと入り続けてたら、水がどんどん迫って来て動けなくなったんだよね。それってずっと入り続けてたからじゃないかな」
「えっと、どういうことなのかあまり理解できないというか……」
「ちょうどいい感じになるまで、外で待ってればいいと思うんだ」
陽菜の話は単純だった。
洞窟の回転速度は分かっている。それなら目の前の水が無くなるタイミングが分かるはず。その時を狙って魔巌洞に入れば先に進める。
また目の前を水で塞がれたら、外に出て水が無くなるまで待つ。そうすればまた先に進める。
「ずっと側についてなくても、ちょうどいい具合になるまで寝かせて置けばオッケーだよ!」
ああ、寝かせるってそういうことか!
「それって大丈夫なの? 先には何があるか分からないし、大丈夫と思ってても外に出ているうちに水が多すぎて水没しちゃうかもしれないわ」
「恐らくだけどそうはならないよ。もしもそれだけの大量の水があるなら、もうすでに水没してるから」
陽菜のアイデアに音羽がツッコミを入れるが、木工師の由樹がその不安を吹き飛ばすように解説してくれる。
今初めて回転し始めたなら分からないけれど、もうすでに何周も回転している。溢れるほどに水があるのなら、もうそれは一度流れ出ては戻っている、そうなっているはず、と言うのだ。
もうちょっと簡単に言うと、もしも水没するだけの水があるなら、そもそもそこまで進めてないってことになるらしい。
「もちろん確実じゃないけどね。でも大丈夫の確率の方がはるかに高いと思うよ」
そりゃ確実に安全なんて言えないよね。突然床に穴が開いて水が大量に噴出してくるかもしれないし。魔巌洞なんて理屈じゃない。なんでもアリなのだ。
「理屈は分かったけど、実践するのは難しそうかな」
「そうでもないと思うよ。だって新には鑑定があって、地形が三次元的に読み取れるんでしょ?」
「うん、それはできるよ」
三次元迷路を目の前に表示させてみたことだってある。そこは間違いない。
「それなら、一時間後にどうなるか、とか、今どうなってるか、とかも鑑定できるはずだよ」
つまりそれって、鑑定結果を思い浮かべながら、それを鑑定するという話?
そんなことができるものなんだろうか?
……で、やってみたらできた。できてしまった。
この聖者の瞳ってやつは、どうも使う人間、というか新の知恵や知識に大きく依存するように思える。
どちらにしても方針は見えた。次に魔巌洞に入るべきは五時間後。それまでは『寝かせて』おくしかないってこと。
「これだと魔巌洞探索の時間が不安定になるわね」
「学校の授業を時々抜けださないと進めないと思いますよ」
それは間違いない。今日はこの後、夕食後に一度魔巌洞に入ることになる。
明日は月曜日。もちろん普通に授業が始まるし、好きな時間に魔巌洞に入れるわけじゃない。
だからと言って放課後だけにしておくと、二十四時間おきにしか入れないわけで、それだといつも地形が同じってことになってしまう。
「学校だけど、一週間お休みにしようか」
「うん、ボクもそれに賛成!」
この学校、真神原塾社は魔巌洞攻略のための学校だけあって、魔巌洞のためならば、事前に届け出をしておけば公欠になる制度があるのだ。これを使わない手はない。
本来ならば魔巌洞に入る日時だけを届け出すればいいんだけど、今回の場合はそれがいつなのか、実際に魔巌洞に行って進んでみないと分からない。ならば一週間丸々休みにした方がいい。
「ねえ、都久詩。賛成はいいけど、魔巌洞に入らない時は授業に出るのよ?」
「えええ~! ずっとお休みにしようよ!」
入場と退場の門で、いつ魔巌洞の中に入っていたかは管理されてるからね。そこまでうるさくはないようだけど、ずっと外で遊んでると何をされるか知れたものじゃない。
特別講習の時みたいに、絶対に変な落とし穴があるというか、この学校は何かやらかしてくるはず。
そういう意味では、真神原塾社はかなり『信頼』できると思うよ。
悪い意味でね。




