108.水を何とかしよう
「魔巌洞階層の水問題ね、どういう話なのかは理解できたよ!」
とりあえず相談を持ち掛けてみると、思っていたよりも簡単に問題点を理解してもらえた。
「直径が五メートルくらいの丸い筒みたいな洞窟なのね」
「それが十二時間で一回転かあ。面白いな、攻略しがいがありそうだよ」
新たち戦闘職の四人だけじゃなく、栽培師の穂が現場を見てくれているのもあって話が早い。
「それで、その水たまりはどれくらいの長さなの?」
「短くても百メートルはありそうですね、計っていませんけど二百から三百メートルぐらいはあるんじゃないかと」
新たち四人には目分量でも長さは分からなかったけど、そこは穂がしっかりフォローしてくれる。
じっさいに作戦を行う前には、有線の水中ドローンで探索してみればいい、という意見まで出てくる。やっぱり頼りになる先輩たちだ。
「まずは水の量を考えてみよう。洞窟の直径が五メートルだから、断面積は……っと二十平方メートルぐらいかな。それが最低百メートル続くんだから、水の量は二千立方メートルね」
「実際にはその二倍か三倍かってとこよね」
数字で言われても良く分からないが、何だか大したことは無さそうだ。
「いやいやいやいや、これかなり多いんだよ? 学校のプールが縦二十五メートルに横十メートル、深さは一メートルとして、二百五十立方メートルだよ? 学校プールが八つ分の水だよ?」
「どこにしまっておくかだよね。魔法の鎧袋にそのまま流し込めればいいんだけど……」
水たまりの水を別の低くなってる所に流し込む手もあるけれど、回転したら逆流してくるし、危険すぎるという話。言われなくてもその通りなので、そこは納得だ。
ちらっと土偶キーホルダーの方を見ると、両手でバッテンを作っている。魔法の鎧袋にそのまま流し込むのはダメな模様。
「大きな水槽に入れてから、魔法の鎧袋に入れる形になるのかな?」
両手で丸を作ってる。その手なら何とかなるってことか。
「洞窟が直径五メートルしかないから大きな水槽は持ち込めないよね。幅一メートルぐらいがいいとこかな。その代わりに十メートルの細長い水槽にするとして、水槽一個で十立方メートル……二百個必要だね!」
二百個の巨大水槽……ちょっと雲行きが怪しくなってきたぞ。
「ポンプをどうしようか。井戸のこともあって調べたんだけど、消防の強力ポンプだと一時間で七十立方メートルぐらいだよ」
「十二時間で一回転だと、六時間で上下逆になって水が溢れちゃう。三時間ぐらいで勝負をつけないと危ないぞ」
計算してみると、強力ポンプが十台必要になるらしい。
ギリギリ行けそうな気もするけれど、無理な気もする。なんとも言えない数字だ。
水たまりの長さが二倍になればポンプも二倍になるけれど、実際にはそうならない可能性が高いという。
パイプ洞窟の形にもよるけれど、水を半分も抜いてしまえば水底になることもそうそうないし、少し水に浸かるだけで行ける可能性が高いそうだ。
ポンプは大量に並べてなんとかするにしても、巨大水槽二百個のほうがなぁ。
「そうは行かないって。水槽の入れ替えもあるし、一人では扱いきれないよ? ポンプ一台に一人ついてないと無理かな」
人数の問題もあるのか……。
「なんていうのか……ギリギリ行けそうで、ギリギリ無理そうな感じだ」
「うん、そんな感じだよね!」
どう考えてもやっぱり、水を流す先がないことが最大の問題点。魔巌洞の壁に穴をあけて水を流し込めればいいんだけど、そんなことはできそうにないし。
「これは僕たちにはクリア不能かな」
「そうみたいね、残念だけど」
実は新は、そうなる可能性もあると思っていた。
魔巌洞は実際の脅威、誰かによってちゃんとクリアできるように作られたゲームというわけじゃない。
なんとなく難易度調整されているような感じは受けるけれど、それが正しいという確証はない。
進んでみると袋小路になっていて、ちゃんとした出口がない、なんてことがないとも限らない。突然敵が滅茶苦茶強くなることだってあり得る。
それに今回のように、進みたくても進めないような構造になっていることだってあるわけだ。
つまり、もしも難易度調整されているとしても、バグってクリア不能になっていることだってあるってことだ。
特に新たちが挑戦しているのは、学校の調査がある程度できている管理領域ではなく、誰かが探索したことがあるのか、それすら誰も知らない魑魅領域。訳が分からない状態になっていたとしても、何もおかしな話じゃない。
「ここで終わりなの? つまんないよ」
都久詩がブーブー不平を垂れるけど、そこはもうどうしようもない。
これは魔巌洞の問題というよりも、新たちの経済力の限界ってこと。もしくはスキルが足りないということかもしれない。
何らかの魔法の道具があれば一発解決するかもしれないけれど、今はそれがないのだから諦めるしか無いってことだ。
「でも、なんか手がありそうなんですけどね……」
ぼそっと口に出す木綿花。
確かに何か手がありそうな気はする。でもそれを形にできないもどかしさ。
戦闘組の四人だけでなく、クラフター組にも沈黙が流れる。
「えっと……手は、あるかな?」
それを破ったのはクラフター組、調理師の陽菜だった。




