107.水問題
時間切れを待って魔巌洞に入り直す。ほとんど全滅させたはずなのに、水たまりの水際にはまたしても妖獣ワニーの大群。
まあ経験値のためにも、ビー玉のためにも、いっぱい狩った方がいいので、美味しくいただくことにする。
そうやって魔巌洞への出入りを繰り返し、妖獣ワニーを狩り続けているうちに何だか違和感がするのに気がついた。はっきりしないけど、何だか変な感じ。
なんだろう?
「これ、だんだん後ろに下がってませんか?」
「言われてみると……そうね」
木綿花に言われて違和感の正体にやっと気が付いた。
水たまりの水がどんどんこっちに近づいている!
考えてみれば当然だった。
回転すれば上下が入れ替わるから、水が低い方に流れて水たまりは無くなる。ここまでは当然の話。でも水は無くなるわけじゃない。低くなった方に流れるんだから、半分は向こう側に行ったとしても、もう半分はこっちにやってくる。
それだけじゃない。もしもこのパイプ洞窟がドリルみたいな螺旋状になってたら、半分どころか全部がこっちにやってきても不思議じゃない。
「これ、どんどん進めなくなるんじゃない?」
「えええ! そんなの困るよ!」
ホント困る。冗談じゃない。
この水、マジどうすりゃいいんだよ。
水抜き、真面目に考えないと駄目かな?
この水たまりの水を抜くとしたらどうすればいいんだろう。新たちだけだと何から手をつけていいのか想像もつかない。
バケツで汲みだして、その後どこに入れる? 魔法の鎧袋に入れるには、何か入れ物に入れてからじゃないと無理だし……バケツだと何個必要なんだろう?
「クラフター組の先輩に相談しましょうよ」
「うん、それがいいよ!」
別に頼り切るつもりは無いんだけど……でもここは相談するしかないよね。どんな手があるのか、何を用意すればいいのか、そういったことを思いつくには新たち戦闘職だけじゃあまりに厳しすぎる。
時間まで妖獣ワニーを狩り続け、四人は今日の魔巌洞探索を打ち切ることに決めた。
魔巌洞の第四階層、そこは上下左右に曲がりくねった極太パイプの中のようなもの。しかもそのパイプ、十二時間かけてゆっくり一回転している上に、所々に水が溜まっている。
こんなものは力づくでは先に進めない。ようやくそれに気づいたわけ。
「クラフター組の先輩たち、まだ作業してるかな?」
「もう夕方近いですからね。無駄足かも知れませんが行ってみましょうか」
学校の端っこも端っこ、そんなハズレの場所に新しく作るクラブの部室というか拠点候補地がある。藪と草むらにまみれたその場所で、クラフター組の三年生四人が準備作業をしているはずだ。
魔巌洞から出た新たちがその場所に足を運んでみると、藪も草むらも完全に消えてなくなっていて、広くて茶色い平らな大地が一面に広がっていた。
その遠くの方、端っこの端っこに小さな小屋が一つ、ポツンと建てられている。
「あの藪が……これ?」
「まだあれから半日もたってないんですけど」
この候補地に案内されたのはお昼休みのことだ。もうすぐ夕方になる時間だけど、それにしたって早すぎる。
「あ、みんな戻って来たんだ。お疲れ~!」
どうすればいいのかと混乱していると、小さな小屋の方から手を振る姿が見えた。肩に材木を担いでいる所を見ると、木工師の由樹のようだ。
たたずんでいてもしょうがないので、小屋に近づいてみる。クラフター組の他の三人はテーブルと椅子を出して、小屋の前でくつろいでいるところだった。
「一気に作業が進んだっぽいわね」
「うん、ここまではね。穂の整地スキルで一気だったよ」
藪は使い道があるとかで伐採したけれど、生い茂っていた雑草はそのまままとめて栽培師のスキルで耕してしまったらしい。ほとんど畑にするんだから、それで問題ないそうだ。
「ちゃんとした土づくりには、ちょっと時間をかけないと駄目なんですよ」
今のままだと何を植えても良くは育たないのだとか。これから妖獣の内臓や骨を使って肥料を作り、良い畑にしていく必要があるのだ。次に必要になるのは井戸かため池、おそらくだけど少し掘れば水が出る予想なのだとか。
「えええ! 水って水道を引くんじゃないの?」
「あはは、こんなところまで水道管は伸びてないですよ? 自分で用意しないと!」
「井戸が掘れたら次はポンプだね。ポンプを動かすのに電気も必要かな」
まさかインフラまで手作りが必要だとは思ってなかった。
水道もそうだけど、電気だってない。ガスももちろんない。
それでもソーラーパネルを広げれば発電はできるし、穴を掘れば井戸になる。プロパンガスのボンベを持ち込むことだってできるから、たいがいのことは何とでもなるらしい。なんとも逞しい人たちだ。
クラフター組の先輩たち。
うん、この人たちなら、あの階層の水問題をきっと何とかしてくれるに違いないぞ。




