102.急襲
音羽が妖獣ワニーに向かって走りだしたのにつられて、新も前に出る。
彼女は勢いをつけて大口を開けて待っている妖獣の中に飛び込むつもりなのだろうか、全く無茶なことをするものだ。そう思った矢先、音羽は壁に向かうように方向を変えた。
何してんの!
思わず足を止めて声を上げそうになった新だったけれど、音羽はそのままの勢いで丸まった壁を登っていく。
この洞窟の形は丸い筒のようなもの。言ってみればスケートボードの競技場みたいな形だ。勢いさえつければ、走って壁に登ることだってできてしまう。
壁を垂直に登ったあたりで音羽はくるりと振り向き、妖獣ワニーに向かって全力で駆け下りる。
妖獣ワニーたちは音羽の方に向きを変えようと動き出したけれど、彼女の方がはるかに速い。駆け下りるスピードを乗せた渾身のローキックが、そのまま最後部の妖獣ワニーの腹部に炸裂する。
バゴンッ!
鈍い音を響かせながら、蹴りを食らった妖獣ワニーの体が吹き飛んだ。
残りの妖獣たちが音羽の方に振り向き終わったところで、ぐずぐずしていた新がやっと追いついた。新の目の前には妖獣ワニー、それも三匹全部がこちらに腹を見せている。
絶好のチャンス!
走り寄る勢いのまま、巨大棍棒を大きく振り上げると、妖獣ワニーに向けて力いっぱい振り下ろす。グシャッという手ごたえが両手に伝わってくる。
これで妖獣はあと二匹。
急降下で妖獣を一撃で倒した音羽は、顔を向けようとする残りの妖獣たちとすれ違うようにして横に回り込み、そのまま一匹の腹に向けてローキックを二発ぶち込んだ。
そのキックの威力で吹き飛ばされた妖獣が、もう一匹の妖獣とぶつかって止まる。もう一匹は吹き飛んできた妖獣のせいで、自由に頭の向きが変えられない。
またもやチャンス!
新の巨大棍棒が唸りを上げて、最後に残った妖獣ワニーに襲い掛かった。
哀れ、速攻で息の根を止められた四匹の妖獣ワニーは、ただ砂のように崩れ落ち、魔巌洞のチリになるしかなかった。
「楽勝だったわね!」
「いきなり壁を登りだしたからびっくりしたよ」
別に文句があるわけじゃないけれど、先に教えて欲しかった。
「それにしても、よく思いつきましたね。私もびっくりしましたよ」
「あいつら、前から攻撃したら危ないでしょ? このパイプみたいな地形を使えば簡単に横に回り込めると思って。上手くいって良かったわ」
新と同じく、木綿花もかなり驚いた模様。壁を走るなんて、忍者マンガかなにかかよ。
都久詩が目をキラキラさせている。これ、絶対後で同じことをやる気だね。
妖獣ワニーのビー玉を拾い集めてから、魔巌洞の探索を再開する。もちろん聖者の瞳で鑑定しまくりだ。回転の状況、それに隠し扉、このあたりをはっきりさせておかないと。
「隠し扉ですけど、横についているとは限らないですよね」
「うん、その通りだ」
回転しているパイプの中にいるってことは、隠し扉の場所も回転に合わせて移動するってことだ。しっかり念入りに探しながら進んで行かないと。
次の妖獣ワニーの群れでは、思った通り都久詩が音羽と交代して壁走りを披露し、その次の群れでは都久詩と音羽が二人揃って壁走りを楽しみ始めた。もちろん新はお払い箱、後衛に下がっている。
「木綿花は壁走り、やってみないの?」
「私ではとても……。新なら出来るんじゃないですか?」
「鎧が邪魔過ぎてちょっときついかな」
木綿花はあまり運動が得意じゃない。新は木綿花ほどではないけれど、たとえ鎧がなかったとしても、音羽や都久詩のように体を自由に操るというわけにはいかない。
練習すればできるようになるだろうけどね、たぶん。
時間切れになる少し前、やっとこの階層の入り口近くにたどりついた。そこには木造の古い民家風の建物が建っている。たしかこの建物の中に螺旋階段があって、そこから上の階層につながっているはずだ。
「この民家って、回転した時にどうなるんでしょう」
「言われてみると変ね。壁とか天井にへばりついてても良さそうなものなのに」
慌てて鑑定してみると、この建物、実はちょっとだけ地面から浮いていた。
「この民家、上からぶら下がってるみたいだ」
「紐みたいなものは見えませんけど……」
中の螺旋階段も途中から見えなくなってるんだよね。意味は分からん。でも魔巌洞なんてそんなもの、そう思うしかない。




