101.円形洞窟の謎
拠点候補地の整地と畑づくりに乗り出した栽培師の穂をその場に置いて、新たち四人はもう一度魔巌洞に戻ることになった。
「あっちの方が面白そうなんデスケド」
「まあまあ、そんなこと言わないで。こっちはこっちでやれることをやろうよ」
新だって音羽と同じ気持ちだ。まだ一年生なのに、もう三年生前期のノルマを達成してしまっているわけで、心の余裕はかなりある。
ずっと戦闘ばかりの毎日だし、拠点づくりにはワクワクするような浪漫があるしね。
でもクラフター組は三年生、あまり余裕があるわけでもない。もう少し先に進んで彼女たちに心の余裕を持ってもらう、それもまた新たち戦闘職の役割だ。
気を取り直し、気合を入れなおして魔巌洞の入場門をくぐる。制限時間は三十分のまま。
管理領域だと敵が少ないし、場所取りの必要性が高いので、制限時間を長めにとることが多いらしい。外に出ている間にせっかくの場所が横取りされちゃうことがあるからね。
だけど新たちが挑戦しているのは魑魅領域。管理領域とは違ってほとんど誰もいないから、場所取りの必要がないし、敵だってわんさか湧いてくる。危険度を考えると制限時間を延ばす必要性が無いのだ。
魔巌洞に入ったけれど、特に何も変わりはない。周囲は真っ暗なまま。その直径五メートルほどの円形洞窟の壁を、ヘッドランプの明かりが照らしている。
だけどほんの少しだけ違いがあった。
「あれ? 出る時につけた印がないぞ?」
「ほんとだ! おかしいね?」
白のスプレー缶で壁につけたはずの印が見当たらない。これは出た時と違う場所に入った、ということ?
「待って、そこについてるわよ?」
「え? どこに?」
音羽が示した場所は、壁というよりも床に近い場所。確かに新がつけた印と同じものがそこにある。
印の位置が変わっている? なんで?
「ここって時間で回転してるんじゃないでしょうか」
え? どういうこと? 一瞬そう思ったけれど、ちょっと考えて木綿花が何を言っているのかに気づいた。
この洞窟の断面はほとんど円形だ。ちょっとづつ回転してても気づきにくい、というか普通は気づかない。
でも新たちはお昼休憩を取って、そのあと拠点の候補地を見学していたわけで、魔巌洞を出てからかなりの時間がたっている。だから印の位置が変わって見えたわけか。
そうか、そうかも知れないぞ。
回転しているかどうか、それをイメージしながら聖者の瞳で洞窟全体を鑑定し直してみようか。
――第四階層の太い円筒形の洞窟。全体が低速で回転している。
やっぱりそうだ。
「鑑定し直してみたけど、ゆっくり回転してるみたいだ」
「そういうことだったのね」
「あの行き止まりも、回転したら通れるようになるね!」
円筒形の洞窟が回転している、言ってみれば太いホースの中にいるようなイメージだ。
あの行き止まりは下り坂になっていて、そこに水がいっぱい溜まっていた。この洞窟が半分回転したら、あそこは反対に上り坂になって、溜まっていた水は無くなるに違いない。
「でもそれって、上り坂の所が水たまりに変わるってことよね? 危なくない?」
「えええ! ……それもそうですね」
上り坂の頂上って、百八十度逆になったら谷底になってしまう。そこに水が溜まるわけだから、避けておかないと即死になってしまうわけだ。曲がり角も同じ理屈で危険極まりない。
今日は日曜日のお昼。今なら時間をあまり置かずに入り直せるからいいけれど、明日授業が終わってから入り直すときにはどうなっているか予想がつかない。
「つまり、大切なのは回転速度だね」
一定速度で回っているのか、それともランダムに回っているのか。それが分からないと安心して再突入なんてできやしないぞ。
もしも魔巌洞に入り直した時、その場所が沼の底になっていたらお陀仏だ。
どっちにしてもだ。上り坂の頂上や曲がり角で外に出るのは危険ということ。これだけは間違いなさそうだ。
回転階層の注意点や、その問題点の打ち合わせを終えて、新たちはまた入口へと引き返し始めた。この回転量だと、おそらくあの水たまりはまだ健在だろう。先に横道や隠し扉の探索を行った方がいい。
「また妖獣ワニーですね、四匹います」
この回転円形洞窟、出てくるのは妖獣ワニーばかりらしい。
「あいつら、斬りにくいからキライ!」
「それなら私が交代してもいいかしら?」
妖獣ワニーは地面にへばりつくような体形。都久詩の刀だとどうしても戦いにくくなる。そこで音羽が交代に名乗り出た。
「大丈夫かな? 相手は齧りつくのが上手いけど」
「そこは頑張ってみるわ」
この階層に来てから、音羽はほとんど戦いに参加していない。拳闘士の間合いは近い上に、相手は人の手足に噛みつくのが得意。どちらかというと分が悪い相手だ。
それでもここで戦うことに決めたのは、このあたりで戦って慣れておかないと危険、そういう判断に違いない。
妖獣ワニーは向こうから襲い掛かってくることはなく、こちらが近づくのを待ち構えている。
もうお互い、相手がそこにいることを認識している。不意打ちはない。こちらから間合いを詰めていくだけだ。
「さあて、行くわよ! 覚悟しなさい!」
音羽が敵に向かって走り始めた。
え? まだかなり距離があるんだけど! 動き出すの速すぎない?




