100.クラブハウス
食事が終わり、攻略のための簡単な打ち合わせを行っていると、クラフター組の陽菜がチョコマカと人込みを掻き分けてやって来た。
「クラブハウスの候補地を決めたいんだけど、一緒に見学に行かない?」
「クラブハウスって部室だよね? 候補地ってどういうこと?」
「候補地は候補地だよ!」
う~む、理解できん……。
『たかはし』って名前で新しくクラブを作るってことにしていたけれど、もう申請が通ったんだろうか。部室としてどこかの空き部屋に入るとか、空き教室を借りるとか、そういうことなのかな?
「それがね、時期が悪くって部室の空きは無いんだって。だからどうせなら、部室というか、クラブハウスを自分たちで作っちゃおうかって話になって」
部室を……作る? 何言ってんの、この人は。
クラフターらしいと言えばクラフターらしいけど、その発想は無かった。そりゃ仲間の中に木工師の由樹がいるし、特別講習のお陰で材木もたくさん在庫してるけど。
「もしかして、畑を作る場所もあるの?」
「もちろんだよ!」
陽菜の言葉に、栽培師の穂のスイッチが入ったのがはっきりと見えた。これはもう止まらないな。
新たち四人の戦闘職だって、そのクラブハウスとやらに興味がないわけじゃない。いや、ある。それもかなり。
陽菜に案内されて向かったのは、教室棟から外れ、寮からも外れ、外縁の森からも外れて、この学校、真神原塾社の端っこも端っこ。
「こんなところまで学校の敷地が続いてたんだ……」
そこには普通の高校の運動場なら何枚分になるだろうか、広い空き地が広がっていた。いや、広がっているというと少し語弊がある。草むらどころか低木までも生い茂り、まるで藪のようになっていて、まともに全体を見通すことすらできない。
「この中のどこを使って良いんですか?」
「全部、かな?」
「全部って、ここ全部?」
「そうだよ!」
亜紗と由樹がどこかから這い出してきた。どうやら藪の中で何かの作業をしていたらしい。体中が枯れ枝まみれだ。
「全部? 新設クラブなのに、偉く優遇されてない?」
音羽の疑問ももっともだし、新の疑問もそれに尽きる。でも実際のところは、優遇されているわけでもなさそうだ。
「この学校って土地だけは余りまくってるみたいなのよね」
「そうそう、だから結構自由に使えるんだって!」
この狭い日本でそんな美味しい話があって良いのだろうか。なんか騙されてない? 大丈夫?
「何か施設を作る時は出ていかないといけないそうだよ。でもそれまでは自由に使って良いんだって」
「ここは端っこも端っこだから、施設を作るにしても最後になりそうだし。何かを建てる計画は今のところ無さそうね」
ずっと占有し続けられるわけでもないのか。だとすると、美味しすぎる話でも無いのかな。
「それで相談っていうのは?」
「あのね、私たちはここが一番いいと思うんだけど、新たちはどう思うかな、と思って」
ここの利点は圧倒的に広いこと。問題点は魔巌洞からも教室からも、そして寮や食堂からも遠いことだ。ただし遠いという意味では、どの候補地もそれほど変わりはないらしい。
「クラフターの先輩たちに決めて貰ってもいいんじゃない?」
「そうですね、私たちは集まれればどこでも問題ありませんし」
音羽や木綿花だけでなく、都久詩もウンウン頷いている。
「僕たちはどこでもいいですよ。それに畑を作るには、広い方がいいだろうし」
戦闘職からしてみれば、みんなが集まる場所があればそれでいいし、広さだって周囲にちょっと体を動かせる場所があれば事足りるし。
正直、部室が無いと寂しいだろうけど、無いなら無いで時間を決めて食堂に集まればいいだけだしね。
「えへへ、そう言って貰えると思ってたよ!」
「それじゃあここに決めて、早く作業を始めちゃおうかな」
まずは草刈りと整地、それからクラブハウス建設に畑づくりと忙しくなる模様。
「手伝い、要りますよね?」
「う~ん、まだなくてもいいかな。それよりも例の魔法の鎧袋を貸して欲しいよ」
ほとんどスキルでちゃっちゃと片づけられるので、力仕事の出番はそんなにないという。それに彼女たちだって充分レベルは高いし、ひ弱な女子ということもない。
あの魔法の鎧袋、無いと不便ではあるけれど、しばらく預けるくらいなら問題ないかな。
キーホルダーの先にぶら下がっている土偶を見ると、親指を立てている。うん、問題はないな。
「でね、魔巌洞で不便になるだろうし、代わりのモノを用意してあるんだ」
裁縫師の亜紗が取り出したのは革製のウエストポーチ風の入れ物が四つ。
「例の袋ほどじゃないけど、魔法の袋になっているから結構な容量が入るよ」
「えええ? 魔法の袋って手作りできたんですか!」
亜紗によれば、妖獣の胃袋と夢の雫をうまく組み合わせれば、魔法の袋を作成できることが判明したそうだ。あの特別講習の時に何か作ってるなぁと思ってたけど、それがこの袋らしい。
「ちゃんと全員分作ってあるからね!」
鎧袋と同じく全身鎧に武器をいくつか、そのぐらいは問題なく入るという。それなら土偶を置いて行っても問題はなさそう。
クラブハウスの拠点づくり、何だか秘密基地みたいで心惹かれるものがあるけれど、新たちは戦闘職。しっかり戦えるようになることが、クラブのため、そして仲間のためになるのだ。
魔法の鎧袋を手渡すと、亜紗の瞳がキラキラ輝いた。
あ、研究のためとか言ってバラバラにするのはやめてね!




