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麗しき冒険者達 ~ 箱入り王女ですが、仲間との強い絆と連携の力を駆使して冒険の旅に出発します。 ~  作者: 野良パンダ


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第二話 大きな溝

 その日の夕方の時間、モニカは父フリードがいる書斎部屋のドアを二回叩く。

 ドアの向こう側からフリードの声が聞こえ、ドアノブを回して部屋に入った。


「失礼します」

「おお、モニカか。何の用だ?」


 いつもと変わらぬ優しい微笑みで娘を迎えると二人は部屋中央にあるソファに座り、テーブルを挟んで向かい合った。モニカは何か言いたげな表情をしており、フリードは白い顎髭をポリポリと掻いていた。

 モニカは一呼吸置き、背筋を伸ばして言った。


「お父様、ちょっとお聞きしたい事がありまして」

「ウム、なんだ?」

「あの……その……」


 中々口には出せなかった。今日の朝食で聞こえた『ベルベット』という単語。いや、名前なのか。

 父親とはどういう関係なのかハッキリさせたかった。

 下手をすれば父親と仲が悪くなるかもしれないが、心の中のモヤモヤをどうしても払拭させたかった。


「今日の朝食の時に父上、独り言を仰ってましたよね?」

「えっ! あっ、ちょっと寝起きでボーッとしててな。見苦しい所を見せてしまったな」


 フリードは頬を赤らめ、愛想笑いをし、後頭部の髪を掻きむしっていた。

 モニカは身を乗り出すような構えでフリードの目を見ていた。


「ベルベットって誰ですか?」


 その一言でフリードは固まってしまった。まるで時間が止まったかのように。

 モニカはどうしても知りたい事があった。

 それは母親の存在である。

 この一八年間、母親の顔どころか名前すらも教えてくれなかった。その事を父親に問いかけるがいつもはぐらかしてしまうのだ。

(今日という今日は何としても真相を掴んでやるわ!)

 フリードはモニカから目線を外し、申し訳無い表情で右側のこめかみ部分を掻きながら言った。


「ああ、ベルベットの事か。……ベルベットは私の幼馴染みなんだ」

「幼馴染みぃ?」


 娘から疑いの眼差しを受けたフリードは苦笑いを浮かべていた。


「ああ、そうだ。私の大好物の紅茶があるだろう? その原料の茶葉はベルベットが教えてくれたんだ。栽培方法やら森の何処に生えているのか細かく教えてくれてな。そのお陰で今飲んでいる紅茶と出会えたんだ」


 モニカはなんだそりゃと思い、ため息が出てしまった。


「はぁ……。で、そのベルベットさんは?」

「ベルベットは他国から来た商人と結婚して遠い国へ行ってしまったよ。あいつには今でも感謝の念を忘れない」


 そう言われてしまっては何も言えなかった。これ以上聞いても埒が明かないと判断し、ただ受け入れるしかなかった。

 モニカはソファの背もたれに身を預けると、全身の力が抜けていくように感じた。

 そんな娘の様子を見ていたフリードは、励ますかのように声を上げた。


「いやはや、心配掛けてすまないなモニカ! 最近、何かと忙しくてな。そうだ! 今度、城の皆でピクニックに行かないか。たまには外に出掛けてストレス解消も悪くない。どうだ?」


 フリードの問いかけにモニカはかぶりを振り、脱力した片方の手のひらをフリードに見せた。


「──遠慮しときます」


                ◇


 翌日のお昼過ぎ、モニカは城下町の外れにある図書館で本を読んでいた。自室にある本はあらかた読破していた為、隙間時間を見つけては図書館の本を片っ端から読み漁っていた。

 図書館の広さは想像以上で、本棚の長さは一〇〇メートル近くあり、ジャンル別に区分けしてある。

 縦の列は五段もあり、上段の本を取るにはスライド式の梯子を使わないと手が届かない。

 膨大な数の本が並べてある図書館は、モニカにとって正に《宝の山》であった。

 その中から興味がある本を選び、近くにあるテーブル席に座って読書をする。

 タイトルは『ログフェスト大陸の都市伝説を追え』という著名な作家が書いた本である。

 この本には八大陸で噂されている様々な都市伝説が記されていた。

 街中で夜に幽霊が出る噂や秘境に眠る財宝、人間が怪物に変貌して襲ってくるなど幅広いジャンルで読み応えがあった。

 中でもモニカがお気に入りなのは、秘境探検ものである。

 その秘境が何処にあるのかは──あくまでも都市伝説なので──記載されていないが、モンスターとの戦いや行く手を阻むトラップなどが待ち構えているなど、幾多の危機を乗り越えた先には財宝を手に出来るという旨が物語形式で書かれていた。

 ページをめくる度にモニカも本の中にいるような感覚になり胸が高鳴っていた。

 モニカは幼い頃から『いつかは自分も冒険者になって大陸中を駆け巡りたい』、という夢を密かに抱いていた。

 だが、読んでいる途中で家族の顔が頭の中で浮かび、現実に戻されてしまう。

 モニカは頭を左右に振り、両手で自分の頬を思いっきり叩いた。

(いけない、いけない。私は何考えてるの? 冒険者なんて夢のまた夢よ)

 そう、これはあくまで架空の物語。本気で信じてしまってはいけないと自分に言い聞かせながら本を読み進めた。──物語のラストを読むまでは。

 その財宝は〈黄金のネモフィラ〉という万能薬草でどんな病でも一瞬で治せる代物だという。

(フッ、まさかそんな物がある訳──あれ?)

 ラストの部分にはこう書かれている。


『黄金のネモフィラを手に入れたその日の帰り道、辺りはすっかり夕暮れ時を迎え、森を出た瞬間、香ばしい匂いが風に乗って鼻先を通り過ぎていった。この辺りに生えている薬草はお湯に混ぜて飲むと身体に良いとされている。いや、いっそのこと紅茶にして飲んだらどれほど美味いのだろうか?』


 モニカは勢いよく本を閉じて元の棚に戻し、逃げるかの様に図書館を出て行った。


                 ◇


 ゼレスティン王城に続く長い石畳をモニカは一心不乱に歩き続けていた。

 しばらく歩いた後、メインストリートの端にあるベンチに座り、ひとまず自分の心を落ち着かせる。

(いやいや、そんなの偶然に決まっているじゃない。あの本は()()()()都市伝説にまつわる本なんだから真に受けちゃ駄目よ。──いや、ひょっとすると)

 好奇心とそれを抑止する心の葛藤が、十八歳の女の子の中で激しく戦っていた。

 モニカは両手で顔を隠し、目を閉じる。

 自分はこの領地を守らなきゃいけない使命がある──ゼレスティン領に住んでいる全ての民を守る使命が。だから、冒険者になる事は絶対に無い、と自分に言い聞かせた。

 外はすっかり日が暮れ、人気も少ない通りのベンチで座っているモニカは改めて決意を固めた。


「悩んでいる暇があったら、魔術とか剣術とかの勉強をした方が身になるわ。さあ、帰って勉強するかな」


 モニカはベンチから立ち上がり、両腕を空に突き上げながら思いっきり背伸びをした。

 すると、石畳の向こう側から誰かが走って来るのを目撃した。

 モニカは何事かと不審に思い、覗き込む様に見つめていると、その姿はマルグリットであった。


「モニカお嬢様!」


 ハァハァと息を切らしながらモニカの所までやって来たマルグリットを見て、モニカは心配そうに声を掛けた。


「マルグリット! どうしたのそんなに慌てて?」

「ハァハァ……。アリア様が、熱を出して倒れました」


 その言葉を聞いた瞬間、身体の芯から冷たくなるような感覚に襲われてしまった。

 モニカは蒼白な顔を浮かべ、マルグリットに尋ねた。


「いつ?」

「ついさっきです。今日は咳が出なかったので大丈夫だと思ったのですが……」

「今すぐ城に戻るわよ!」

「おっ、お嬢様。ハァハァ……先に行ってて下さい。私もすぐ後を追いますので」

「分かったわ!」


 モニカは駆け足で王城に向かった。頭の中はアリアの事で一杯になっていた。


                   ◇


 アリアが寝ている寝室で、フリード国王はソワソワしながら部屋の中をうろつき回り、秘書アルフレッドは部屋の隅っこで椅子に座り、本を膝に乗せたまま俯いていた。

 二人は一言も交わさず、フリードの鈍い足音だけが微かに聞こえているだけだった。

 そんな時、扉の向こう側から足音が聞こえて二人は扉の方に視線を向ける。

 ドアは勢いよく開き、汗だくになったモニカが入って来た。


「お父様! アリアは、アリアは大丈夫ですか!?」


 フリードはモニカの元に駆け寄った。


「モニカ! 何処に行ってたんだ、心配したんだぞ」

「すみません。図書館で勉強してたものでして」


 それを聞いて安心したのか、アリアが寝ているベッドの側にある椅子に腰掛けた。


「そうか……勉強熱心だな」

「ありがとうございます。それよりも、アリアの具合は?」


 フリードは悲しげな表情でアリアを見やった。額には汗を流し、苦しそうな息遣いで寝ている娘の手を握りながら説明してくれた。


「さっき医者に診て貰ったんだが、こんな短期間で体調を崩すのは初めて見るケースだと」


 モニカは眉をひそめた。


「初めて見るケース? てことは治る保証は何処にも無いの?」


 フリードはモニカに目を走らせた。


「医者が言うんだ、他に手の施しようがない。悔しいが私達は何も出来ない。このまま自然と回復に向かうよう祈るしかないんだ」


 モニカは顔を下に向け、唇を噛み締めながら身体を震わせていた。


「何も出来ない? 妹が苦しんでいるのに? そんなのおかしいよ……」


 声を震わして自分の気持ちを吐露している娘を見て、父は慰めようと思い、娘の肩に触れようとする。

 だが、直前で手を払い飛ばされてしまった。


「触らないでよ!」

「モニカ……」


 やり場のない怒りがモニカの全身を包み込み、もう誰にも止められなかった。


「あたしはもうこんな生活はうんざり! 毎日毎日勉強や剣術の稽古ばかりで何一つ変化も無い! 大好きな家族を助ける事も出来ない! おまけに母親の顔も名前すらも教えてくれない! なんで? なんでなの? なんで私がこんなに我慢しなきゃならないの?」


 目から涙が溢れ出し、両手で髪の毛を掻きむしっているモニカを必死で止めているフリード。

 アルフレッドは、部屋の隅で本を抱えながら目の前の修羅場に立ちすくんでいた。


「モニカ! 落ち着きなさい!」

「この状況でどう落ち着けっていうのよ!」


   パァァン!…………


 突如部屋に響く乾いた音。

 フリードはモニカの頬を思いっきり叩いてしまった。

 頬を赤く腫らしたモニカはその場でしゃがみ込んでしまい、フリードは心を鬼にして娘を叱りつけた。


「モニカ! いい加減にしないか! 我慢しているのはお前だけじゃない! 私やアリアも、それに国の皆も。……私だって何とかしたいさ。でもな、今はどうする事も出来ない。分かってくれ……」


 フリードの拳は震えていた。一国の主である自分がこんな情けない事を口に出しているのに失望していた。更には娘のモニカに手を上げてしまう有様だ。

 フリードは胸に込み上げてくる物を抑えて片膝を付き、モニカに手を差し伸べる。


「すまないモニカ。つい手が出てしまった。立てるか──!?」


 モニカは父から差し出された手を再び払い飛ばし、部屋を飛び出してしまった。

 二回も拒絶された手をさすっているフリードは目線を下に落とし、虚ろな表情を浮かべていた。

 遅れてマルグリットが部屋に入り、フリードに謝罪した。


「遅れてすみません。さっきお嬢様とすれ違ったのですが……どうかなさりましたか?」

「マルグリット……何でもない。今日はもう遅いから私は寝る事にするよ」


 そう言って部屋から出て行くフリードの背中はどこか悲しげに見えていた。

 マルグリットは部屋の隅にいた秘書のアルフレッドに声を掛ける。


「アルフレッド殿、二人に何かあったんですか?」

「えっ……あの、いや……」


 秘書の顔は蒼白で、付けていた眼鏡は大量の汗により鼻先までズレていた。

 マルグリットは渋い表情で腕を組みながらしばらく考え込んでいた。


                   ◇


 その日の夜。

 マルグリットはモニカの寝室のドアをノックしたが返事は返って来なかった。


「マルグリットです。入りますよ……」


 恐る恐るドアを開けると部屋は真っ暗で、壁に設置してあるブラケットライト──中には特殊な魔石が施してある──が点いていなかった。

 何も見えず、近くにあるブラケットライトに手をかざすと、狭い範囲ではあるがゆっくりと部屋が明るくなっていく。

 闇の中から浮かび上がって来たのは、破れたドレスや衣類などが床に散乱しており、見るも無惨な状況になっていた。

 マルグリットは目の前に落ちてあったドレスを拾い上げる。無造作に引きちぎったのであろうか、繊維や綿がむき出しになってしまい、持ち替えようと服を裏返しにした時に裾の一部分がポロッと落ちてしまった。


(──だいぶ暴れましたね)


 マルグリットは服を見つめながらモニカの行動を把握した時、部屋の奥にあるベッドから声が聞こえた。


「誰なの?」

「お嬢様? 私です、マルグリットです」


 マルグリットは早足でベッドに向かう。


「お嬢様、──アルフレッド殿から話を聞きました。まあ、何と言ったらいいのか、お嬢様の事が心配で……その……」


 掛ける言葉が見つからずに後頭部を掻いているマルグリットを見てモニカは優しく微笑んだ。


「フフッ、心配してくれてありがとう」


 そう言って笑顔を見せるが、モニカの泣き腫らした顔はマルグリットの心を痛めつけていた。

 お嬢様の泣き顔を直視出来ないと視線を切るが、モニカはマルグリットの顔を手で挟み込んで強引に目を合わせた。


「なんで目をそらしたの? 私の事を心配しに来たんじゃないの?」


 その声は低く、呟くような声でマルグリットに囁きかける。


「どうなの? 何とか言いなさいよ」


 微笑から真顔に切り替えて忠実な侍女の瞳を見つめるが、マルグリット本人は目が泳いでいた。

 内心穏やかでないマルグリットの様子を見てモニカは言った。


「あなたはどっちの味方なの?」

「え?」

「アルフレッドから聞いたんでしょ? 私とお父様がケンカした事。マルグリットなら私の気持ち分かってくれるよね?」


 言葉とは裏腹にゼレスティン王国第一王女の瞳は、薄暗い部屋の影響なのか黒く淀んでいた。

 いつものモニカなら茶色の瞳をキラキラと輝かせ、周りの人達に癒やしを与える笑顔が特徴のお嬢様なのだが、目の前にいる人物は普段の印象とかけ離れてしまったもう一人のお嬢様がそこにいた。

 今までの不満が溜まりに溜まって爆発してしまったのだろう。

 マルグリットは今でも泣き出しそうになっていた──何故もっと早く気付いてやれなかったのか、王城に仕えて早五年、こんなに近くでお慕いしているにも関わらず、王女の心の変化でさえ読み取れない自分は護衛として失格だと。

 先程の質問に対しての答えは返って来ず、歯を食いしばり、目を強く瞑っているマルグリットを見ていたモニカは、呆れた表情でマルグリットの頬から両手を下ろした。


「ハァ……。もういいわ。用が無いのなら出てってよ。目障りだわ」

「えっ! いや、お嬢様──!?」


 マルグリットの眉間に鋭く光った短剣の刃が襲いかかり、ギリギリの所で止まった。

 モニカは鋭い目つきでマルグリットに敵意を向けていた。


「私の話聞いてなかったの? さっさと出て行きなさい。これは命令よ」

「……かしこまりました」


 マルグリットは数歩下がり、一礼をして部屋を出て行った。

 ドアを閉めた瞬間、二人の間で目に見えない大きな溝が形成されていた。

どうも野良パンダです。なろうの事を色々と調べまして、最初の投稿を一気に三話まとめて出した方が良いとの情報が入りましたので、第二、第三話を連続で投稿します。

第四話以降は週に一回(土曜日)投稿いたします。

応援よろしくお願いします。

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