39話 原初の世界
<ダンセ>
「さぁ、歩きましょう!」
ダンセさんが両手を広げると同時に、辺りの空間が変わった。
見渡すほどの白一面。
足元だけが現実に引き寄せられたように影が残っていた。
<ダンセ>
「美術館、博物館、資料館。すべては歩いて見るものでしょう?」
歩き出しながら、ダンセは楽しげに語る。
白の中を進むたび、空気がわずかに変わっているような。
何もないはずなのに、“何かがある”ような気配だけが濃くなっていく。
<ダンセ>
「歩みと共に歴史を巡る。この行為は資料を効率的に見せると同時に、これから得る情報を違和感なく理解させるための“導線”だと、ワタクシは思っております」
ダンセさんは振り返り、にやりと笑った。
<パレ・リブッカー>
「……しかし、何も無いな」
視界は白一色。
天井も壁も境界が曖昧で、距離感さえ掴めない。
<ダンセ>
「ええ、何もありません」
彼はあっさりと肯定した。
<ダンセ>
「この部屋は“始まり”を再現した場所。数々の学者、そして王の知見をもとに構築された“原初の世界”です」
足を進めるごとに空気がわずかに重くなってる。
音が吸われるように静まり返り、呼吸の音さえ妙に大きく感じる。
<ダンセ>
「魔術大戦の歴史は、この世界の歴史そのもの。大戦と共にこの世界は変革を繰り返してきました。破壊なくして新生は無し。どんな世界、異世界人の世界であろうと、この理は共通しております」
<パレ・リブッカー>
「……そうなのか?」
奴が僕にに顔を向け口に出だした。
<シリウス>
「……………そうかも」
転生前の世界。
漠然としか覚えていないけど、戦争が無かった時代なんてない。
<ダンセ>
「なので」
ダンセさんが指を鳴らす。
<ダンセ>
「この世界の始まりから語るのは、自明の理というわけです!」
その瞬間、目の前にひとつの“形”が浮かび上がった。
ぼんやりとした、球体。
<シリウス>
「これは……卵?」
<ダンセ>
「おお、お目が高い!“宇宙卵”という言葉を聞いたことはございませぬか?」
ダンセさんが嬉しそうに頷いた。
球体の表面を見ると、内側で何かがゆっくりと脈打っているのが見える。
<ダンセ>
「宇宙が始まる前、その姿は卵の形をしており、そこに“混沌”が満ちていた。そして、ある時――」
ダンセさんが手を振り下ろす。
<ダンセ>
「バァン!」
卵が弾けた。
光が一気に広がり、視界を埋め尽くさんと何かが出てきていた。
地面。空。緑。
真っ白だった部屋に急速に世界が構築されていく。
<ダンセ>
「卵が割れ、世界が開いたのです!」
<シリウス>
「……ビッグバンみたいな?」
<ダンセ>
「ええ!異世界人達の世界では約46億年前とされておりますが、このレヴィリオンではなんと”2000年前”!」
<パレ・リブッカー>
「……近いな」
<ダンセ>
「比較的新しい世界なのです!」
景色はゆっくりと安定して、先ほどの“生成途中の世界”はひとつの風景に落ち着いた。
木々が生き生きと生い茂る。まさにモリタミ達のいた世界――
<ダンセ>
「研究者によると、どれだけ調査しても2000年以上前の痕跡が見つからないのです。出土品もすべてそれ以降のもの」
へぇ~と自然と声が漏れた。
<ダンセ>
「まあ、ここだけの話。神の残骸からはそれ以前の痕跡も見つかっているのですが」
<パレ・リブッカー>
「ほう」
<ダンセ>
「しかしそれだけでは、当時の生活も、世界の姿も分からない。結局のところ、“何も分からない”のです」
彼が指を鳴らすと、景色が急速に中心に吸い込まれ、卵の姿に戻ってしまった。
<ダンセ>
「故に卵の中には既に神々の意志が生きており、それが弾けたことで形を成した。これが現在の有力な説となっております」
<シリウス>
「神々の意志……………」
モリタミの所で会ったあの巨大な自然の神はずっと昔から存在していたのだろうか。
<ダンセ>
「ここで面白い話がありましてな。お二方、進化論をご存知ですかな」
<パレ・リブッカー>
「ダーウィンだったか。人は猿から進化したという」
部屋はすっかり森に変わり、木々の間を小さな影が動いているのが見えた。四足で地を駆ける原始的な猿の姿。
<ダンセ>
「ええ、この世界でも同様の説がございます」
猿の群れが、枝から枝へと飛び移る。
だが次の瞬間、その一体が立ち上がった。
<シリウス>
「でも進化の期間が短すぎる?」
思わず口に出る。
動きが、明らかに不自然だった。
本来数万年、数百万年かけて起こるはずの変化が、一瞬で進んでいく。
<ダンセ>
「そうなのです!研究者の間でも、その点は大いに議論されております!」
猿の身体が歪み、骨格が変わる。
手が、道具を握る形へと変化していく。
<ダンセ>
「現在有力とされているのは、神の力に当てられた猿が、急速な進化を遂げたという説!」
彼が手を掲げると、空間に光が差し込んだ。
光を浴びた個体が、完全に“人”の形へと変わっている。
<ダンセ>
「――――魔族がそうであったように」
<シリウス>
「え、魔族ってそうなの?」
<パレ・リブッカー>
「ああ。魔族は、動物や植物、無機物が神の力に当てられ、意思を持ち進化した存在だと学校で習ったぞ」
言葉に合わせて、景色が変わる。
獣が、植物が、石がそれぞれが歪み、形を変え、“意思”を持つ存在へと変わっていく。
<ダンセ>
「しかし最近、さらに面白い説が出ておりましてな――世界が開いた時点で、既に人間が存在していた、というものです」
<シリウス>
「……は?」
思わず声が漏れた。
<パレ・リブッカー>
「たとえ神の力に当てられたとしても、文明の成立が速すぎる」
彼の言葉に合わせて、景色が再び動く。
集落。火。道具。
わずかな時間で、生活が形になっていく。
<ダンセ>
「世界が開いて、わずか10年後には集団生活の痕跡が確認されているこれが、最近の発掘で――」
彼がこちらを見る。期待に満ちた目。
<パレ・リブッカー>
「……魔術連盟にも行かなければならないんだ。手短に頼む」
<シリウス>
「え、そうなの?」
<ダンセ>
「こほん……中々抑えるのは難しいですな」
表情を整え、改めて向き直る。
すると、空間が一瞬にして暗転した。
<ダンセ>
「では改めて、魔術大戦の歴史を語らせて頂きましょう!」
次回は5/13になります!




