35話 造られた者達
第二層アーキー 連盟軍駐屯地 出撃ゲート前
――連盟軍 102番隊 副隊長 ヨーシュ――
目の前の女性は、ほんわかした雰囲気からは考えられない凄い肩書きを持っていた。
<シリウス>
「ヨーシュさんここは」
<ヨーシュ>
「ここは第二層。アーキーは工業層で金属や魔石の純度を高めたり、加工したり、部品や魔導具の生産、廃品のリサイクル……いろんな事をしているわ」
外へ目を向けた瞬間、思わず息を呑んだ。
――パイプ、パイプ、パイプ。
地面を覆い尽くす無数の配管。
それらは絡み合い、重なり、まるで巨大な生き物の血管のように地平線まで伸びている。
ところどころに煙突が突き出し、白や黒の煙が空へと昇っていく。
<ヨーシュ>
「ここ来るの初めて?」
<シリウス>
「うん……」
圧倒されて、それ以上の言葉が出てこない。
<ヨーシュ>
「なら私の正体もびっくりするでしょう!この私、ヨーシュはここアーキーの工場長さんなのです!拍手!」
思わず拍手してしまった。彼女は満足そうにうんうんとうなづいていた。
<……>
「正確にはルンクックの生産工場長だろうに」
<ヨーシュ>
「そうとも言います!子供の前だからカッコつけたかったのよ〜」
部屋に入ってきた男は、空気を一瞬で引き締めた。
その存在感は言葉にせずとも伝わってくる。全身を甲冑で覆った大柄な男。
僕でも分かる。奴よりもはるかに強い重圧を感じる。
<ヨーシュ>
「おかえりなさい、ケインさん」
<ヨーシュ>
「ただいま、ヨーシュ」
朗らかな声がこだまする。
まるで実家のようなやり取りに、空気がふっと和らいた。
――連盟軍102番隊隊長――
――Sランク魔術師 ルリブル・ケイン――
<パレ・リブッカー>
「お久しぶりです ケイン殿 」
<ケイン>
「パレ・リブッカーか、久しいな 」
<パレ・リブッカー>
「この前お会いした時は彼女はいませんでしたよね 」
<ケイン>
「そうなんだ。彼女は元々ルーンショット社の社員だったんだが、我らが王がヘッドハンティングしてね。今私の副隊長を兼任してやってもらっている訳だ 」
<パレ・リブッカー>
「そうなんですか」
<ケイン>
「というより私が彼女のお目付け役になったという感じなんだが」
<シリウス>
「お目付け役 ?」
<ケイン>
「彼女はゴーレムなんだよ」
唖然。全く分からなかった。
よく見ると手足の関節が球体になっていて外に飛び出していた。
だが、本人はどこか楽しそうに笑っていた。
<ヨーシュ>
「そうなのよ〜いつ止まるかわからないからってケインさんは見てくれてるんだけど。別に大丈夫なのに〜」
<ケイン>
「そんな事ないよ。君の創造主との約束は守る」
彼の声には、迷いがなかった。
<ケイン>
「彼女を見守り続ける私の使命なんだ」
<ヨーシュ>
「心配しなくても私は元気なんだから 」
ふと思った。
他の人達とは違う存在なのに、彼女はあんなにも優しく微笑んでいる。
みんなと同じように。
<シリウス>
「……ヨーシュさん、変な事を聞いても良いですか? 」
<ヨーシュ>
「なんでも聞いて良いわよ〜 」
<シリウス>
「……ヨーシュさんは自分の事をゴーレムだと思っていますか? 」
<ケイン>
「君、失礼じゃないかね 」
強い語気で僕をたしなめるケインさんをヨーシュさんは諫めた。
<ヨーシュ>
「良いのよケインさん。確かに私は人間の可動域を超えた動きができるわ、腕だってこんなによく曲がるし。そういう意味ではゴーレムだって思う事もある」
そう言うと、彼女の首が360度回転し、肘関節と指が人体では決して曲がらない方向にグニャグニャ動きまくっていた。
<ヨーシュ>
「 私は造られた存在だけど、私が目覚めた時には創造主は既に亡くなってて。、主人もいないゴーレムっている意味あるのかなって私の動いている意味って何なんだろうって思った事もあったわ。でもね、どうでも良くなったの。自分が創造物とか、何のために生きてるとか」
<シリウス>
「それはどうして……?」
<ヨーシュ>
「だって今私はこんなにも楽しいんだもの!自分のやりたい事を探したり、やりたい事見つからなくて何にもしなくてダラダラしたり。止まっていたとしても自分だけの時間が積み重なって今の自分がいる。生きる意味なんて問題じゃないの、だって生きてる過程が一番面白いんだから」
<シリウス>
「生きてる過程……」
<ヨーシュ>
「だから私はルーンショット社に入ったの。 社長さんはびっくりしてたけど今はこうしてケインさんと、みんなと働いたり好きなパン作りをしたりして楽しいの 。それも含めて私って面白いなって。 だからあんまり気にしてないんだと思うの。自分がゴーレムだって事に」
今のままで十分だと、彼女は笑った。
きっと不安だったんだと思う。昨日色んな人に会って、記憶をなくした自分に向き合うのが怖くなった。他のみんなはちゃんと自分の内面と向き合ってるのに、僕だけずっと見て見ぬふりをしてきたのかもしれないんじゃないかって。
――だって私はこんなにも楽しいんだもの――
その一言が、やけに強く胸に残る。
生きる意味ではなく、生きている“過程”。
その言葉が、頭の中で何度も反響する。
<シリウス>
「ありがとうございます。ヨーシュさんは凄いですね。僕も頑張らないと」
彼の視線が、ほんの一瞬だけ柔らかくなった。
昨日からずっと感じていた違和感。自分が何者なのか分からないという不安。それに、初めて輪郭が与えられた気がした。
<ヨーシュ>
「いえいえ!あ、そうだ。せっかくだし工場見学してく?」
――
<ケイン>
「着いたぞ」
巨大な工場。
規則的に並ぶ装置と、絶え間なく動く機械群。
<パレ・リブッカー>
「ここがルンクックの工場か」
<ヨーシュ>
「ルンクックは作るの大変なんだよ。術式組んだり、物も大型、小型いろいろあってね。大体一個作るのに3年くらいかかるかな?」
その言葉の重さに、思わず目を見張る。
<シリウス>
「ルンクックってなんですか?」
<ケイン>
「全自動食糧製造機ルンクック。好きな食糧を好きなだけ生産する装置だ。魔力さえあればあらゆる食糧を生産できる」
<ヨーシュ>
「料理バージョンもあるのよ〜それにタダなんです!」
<シリウス>
「え、タダ?食べ物全てが!」
あまりにも都合が良すぎて、逆に現実味がない。
<シリウス>
「じゃあ市場って要らないんじゃ……」
<ケイン>
「そう思うだろう?」
ケインさんがわずかに笑った。
<ヨーシュ>
「それがね、意外とそうでもないんだ〜人口に対してまだルンクックの数がまだまだ足りないのよ」
<パレ・リブッカー>
「出来てまだ100年経ってなかった気がするな 」
<ケイン>
「ああ。それにルンクックよりも畑で作ったり、海で魚を獲ったりした方が効率的にはまだ良いらしい」
<ヨーシュ>
「自分で料理したいって人がいたり、 この人じゃないと出せない味とかあって、 意外と需要あるのよ食物も、料理も」
人の手で作る価値。誰かにしか出せない味。効率だけでは測れない何かが確かに存在しているのかもしれない。
――
ワープ装置の前。
別れの時間が近づいていた。
<ケイン>
「三層のワープ装置の所に軍の車を回しておいた。ここからメイン道路の所までは結構距離がある。どうせワープ装置を使うなら三層まで行った方がいい。ここから装置を三回経由すれば三層に出られる筈だ 」
<パレ・リブッカー>
「車まで手配してもらったのにお見送りまでなんてすみません」
<ヨーシュ>
「いいのよいいの、やりたかった事なんだし」
ヨーシュさんは最後まで変わらず明るかった。
<ヨーシュ>
「シリウス君も元気でね、応援しているわよ」
<シリウス>
「はい!」
その言葉が胸の奥で心地よく響いた。
次回は4/15になります!
☆いっしょに!なになに~☆
ルンクック
全自動食料製造機。魔力を糧とし、あらゆる食材と料理を製造できる。
レヴィリオン世界では各都市に1つは必ず設置されている。
基本使用料は無料だが、魔力を持っている人間に関しては少量の魔力を提供しないと使用できない。
製造システム自体は80年前に完成していたが、増産出来るようになったのはここ20年程。供給が追いついておらず、まだ農水産物には効率は劣る。




