34話 第二層
時は戻り———
王都 第一層 連盟軍第三駐屯地 AM,5:00
出立
AM6:00 ウェズカーク第1645倉庫
全然眠れなかった。
体が女で心は男というのはミスガイのケースを経ても慣れないし、街を巡って、事務所に行って色んな事を言われて......それに僕の記憶......
<パレ・リブッカー>
「ほら、待ち望んだ市場だぞ」
背後から投げかけられた声は、やけに軽い。
<パレ・リブッカー>
「お前の活動範囲も最大まで伸ばした。もっと楽しんだらどうだ」
<シリウス>
「うぅ……」
気の抜けた声が漏れる。
体がだるい。特に背中。神経が固まって、無理やり引き伸ばされているみたいだ。
少し動くだけで、ピキピキと、どこから鳴っているのか分からない音が体の奥から響く。
「見に行かないのなら先に行くぞ。少し巻かないと間に合わん」
<シリウス>
「はい、分かりましたよぉ……」
重たい体を引きずるようにして、僕は歩き出した。
案内された先を見て、思わず足が止まる。
<シリウス>
「市場というよりこれは……倉庫?」
天井は高く、壁は無機質な金属。無数のコンテナと搬送機構が並び、どこまでも奥へと続いている。
<パレ・リブッカー>
「そうだ。ここでは約5億品ほどの品物が取引されている。ここに来ている連中は、直接品物を見定めたいって奴らだな。ほとんどは遠隔通信でセリをやってる」
規模の話をされても、正直実感は湧かない。
ただ、その空間の圧力だけは肌で理解できた。
<パレ・リブッカー>
「ん、どうした?」
<シリウス>
「いや、なんでもない」
考えようとしても、“男だ”という情報が頭の中でやけに強く残ってしまう。
それ以外の何かに意識を向けようとしても、うまくいかない。
それから僕たちは、様々なものを見て回った。
天井に届きそうなほど巨大な深海魚。
光を反射して鈍く輝く竜の鱗。
目が痛くなるほど煌びやかな宝飾品。
見たこともない色と形をした果物。
魔導書、触媒用の生物、無造作に並べられた肉の量り売り。
どれも現実感が薄くて、夢の中を歩いているみたいだった。
あまりに夢中になりすぎて自分が捕虜であることを忘れていた。
<パレ・リブッカー>
「おい、あんまり遠くに行くな!遠くに行くと拘束が――」
ガッ。
突然、首を後ろから引っ張られたような感覚。
勢いのまま体が前に投げ出され、床に叩きつけられる。
バタッ。
硬い床の冷たさが、遅れて膝と手のひらに伝わってくる。
さっきまで騒がしかったはずの周囲が、一瞬で凍りついたように静まり返る。
<女性>
「大丈夫ですか!?」
<男性>
「怪我とかしてない!? あ、膝擦りむいてる……」
<女性>
「治癒魔術できる人います?」
<おじさん>
「俺できるよ、ちょっと待ってね。免許証出すから」
差し出されたカードが、光を帯びて杖へと変形する。
<おじさん>
「はい、ヒーリング」
柔らかな光が膝を包み、じんわりと痛みが引いていく。
<おじさん>
「これで問題ないね。立てる?」
<シリウス>
「あ、ありがとうございます……」
周囲の人たちの視線が一斉に集まっている。
その優しさが、逆に少しだけ怖い。
<男性>
「保護者の人いっているかな?」
<パレ・リブッカー>
「いたか。みなさんありがとうございます」
<おじさん>
「いえいえ、当然のことです」
<女性>
「見つかってよかったね!」
<シリウス>
「はい……ありがとうございました〜!」
人混みから離れたあと、奴が淡々と言う。
<パレ・リブッカー>
「活動範囲は最大で私から500メートルまでだ。それを過ぎると強制的にロックが発動する」
さっきの“引っ張られた感覚”が脳裏に蘇る。
<パレ・リブッカー>
「はしゃぎすぎて走って遠くに行っては行けないぞ。今みたいになるから」
<シリウス>
「はーい……みんな魔術ができるのか……」
ふと漏れた疑問に、奴は頷く。
<パレ・リブッカー>
「そうだ。異世界人達の中には魔力を持たない者もいるが、この世界の人間は基本的にはEランク以上の魔術師だ」
教官が言っていた話が、頭の奥で繋がった。
――この世に生まれた時に各自の魔術免許証が発行される。勉強に励み、試験を受け、合格すれば級が上がる――
当たり前のように語られるその仕組みが、不思議と遠く現実味のないように感じた。
<パレ・リブッカー>
「こっちだ」
案内されたのは、光の届かない細い通路だった。
壁はひんやりとしていて、空気もどこか湿っている。
その奥に、人が二人入れるほどの筒状の装置がある。
<シリウス>
「これは?」
<パレ・リブッカー>
「まあ入ってみれば分かる。行くぞ」
<シリウス>
「え、ええ〜……」
半ば押し込まれるように中へ入る。
――次の瞬間。
<シリウス>
「わっ!」
視界が一瞬で切り替わる。
<シリウス>
「ここは?」
<......>
「きゃっ! あら〜びっくり〜お客さん?」
明るい声と同時に、焼きたてのパンの香りがふわりと漂ってきた。
<パレ・リブッカー>
「緊急でも無いのに済まない、使わせてもらった」
<......>
「いいのいいの。ワープ装置は軍のみんなのものなんだから。それにしても見ない顔ね」
彼女の視線が、まっすぐこちらに向く。
観察されている、というよりは、興味を持たれているような視線だった。
<パレ・リブッカー>
「はじめまして、私は番隊隊長のパレリブッカーだ。こいつは私の甥のシリウス」
<......>
「あらあら〜観光?良いわね〜」
軽やかな声とは裏腹に、どこか全てを見透かしているような余裕がある。
<......>
「でもパレさん、あんまり職権濫用しちゃいけないのよ〜」
<パレ・リブッカー>
「すみません」
<......>
「ごめんね!誤って欲しい訳じゃ無いんだけど。あ、2人ともパン食べる?」
差し出されたパンは、ほんのり温かく、香ばしい匂いがした。
<シリウス>
「ありがとうございます……貴方は?」
<ヨーシュ>
「私はヨーシュ。102番隊の副隊長さん兼、第二層アーキーの工場長さんです!」
――連盟軍 102番隊 副隊長 ヨーシュ――
次回は4/8になります!
☆いっしょに!なになに~☆
ワープ装置
コフィン型の空間跳躍装置。
別次元を経由する事でレヴィリオン世界で瞬間的な空間移動を可能にした。
軍用として製作され、支部間の移動に使われている。王都各所に無数に設置されており、いつでも防衛が可能な体制となっている。
一般用もあるが、飛行機や新幹線より値段が高い。




