十色!
あれ、私何してたんだっけ。
今日の授業が終わって、それから...
そうだ、吉田君。
あの子に呼び止められたんだ。
よくゲームで会うダサい名前のアイツに...
それで、その後...
思い出せないな。
はぁ...
何でこんな事になっちゃったんだろ。
まさかアイツが同じ学校に居るなんて...
私はどうしたらいいのかな。
◇◇◇
私は昔からちょっと変わっていた。
昔からとは言っても子供の頃はもうちょっと違かった筈。
今よりは活発で、友達もたくさんいたはずだ。
でも私は人の表情に敏感だった。
人がちょっとでも嫌な顔をすると、すぐに気づいてしまう。
純粋だった私も、そうやって人の暗い顔を見て勝手に傷ついているうちに、人付き合いを避けるようになった。
ゲームはそんな私の余った活気を消費するのにちょうどよかった。
ゲームをやっている自分はそんなに好きな訳じゃないけど、それでも熱中した。
誰とも直接かかわらないで済むからかもしれない。
プレイ中はいつもすごく集中していた。
勝つためにモニターを食い入るように見つめて...
敵の攻撃を躱して...
こっちの攻撃を当てて...!!
代わりに私は何かミスが起こった瞬間、すぐに怒ってしまう。
私は暴言を吐く。
一旦試合は上手くいかないと分かると、その場の感情に任せてチャットした。
自分のせいなのに人のせいにしたり。本当はよくわかってない事を分かったふりしたり。
毎試合のように暴言を吐いていた。
勿論それは悪いことだって知っていたけれど、実感がなかった。
だってゲーム上では誰かの顔が曇っても、何も見えないから。
画面の向こうに誰かが座ってるって、私の言葉で傷ついている人がいるって、知っていたはずなのに。
実際のところ何もわかっていなかった。
これはきっと自分勝手に振る舞って来たツケだ。
私は反省したい。
まずは吉田君に謝らないと...
◇◇◇
「あれ...」
目が覚めた。
真っ白な知らない天井。
「あったかい...」
やけにフワフワとした、清潔で柔らかいベッドの上に私は寝ていた。
体がポカポカと心地いい。
スーッと息を吸って吐くと、さっきまで私を苦しめていたひどい寝不足が消えていることに気づいた。
ここがどこなのか気になる。私は布団を持ち上げ、上体を起こした。
「ここは...」
周りを見てみる。
私が乗っているのに加えて、すぐ横にもう一つだけ無人の白いベッドがある。
部屋は広く、中途半端な位置に机と椅子がワンセット、壁の端には硬そうなソファと後は色々な薬品が入った棚が並んでいる...
知らない部屋だけど、どこなのかすぐに分かった。
「保健室...?」
タッタッタッタッタッ!
その時、廊下の方から誰かが走る足音が聞こえて来た。
「う、うぇ...」
だ、誰だろう... ちょっと怖い
状況が飲み込めない。
しかしどうすることもできないので私はただじっとして、ドアの方を見つめた。
ドン!と保健室のスライド式のドアがつき飛ばされるように開け放たれた。
驚いている間に、男の子が一人、とぼとぼ下を向きながら入って来た。
顔からは血の気が引いていて、色々と走り回っていたのかひどく息が切れていた。
「ハァ... ハァ...」
彼は保健室に入ってくると、すぐに私がいるこっちの方を見た。
そうして私が起き上がっているのを見ると、びっくりした。
しかしなんだよといった感じで頭を押さえると、すごく安心した表情で息を整えながら膝に手をついて止まった。
「村瀬... さん... 起きた... のか...」
彼はそれだけいって黙った。
「吉田君...?」
彼の名前を呼んでみる。
「はい...。ハァ、ハァ...」
吉田君は声を出すのも精一杯の様子だ。
疲れ果てた様子の彼には申し訳ないけど、私はどうしても気になったので続けて聞いた。
「ねぇ、どうしたの?何で私は...」
吉田君は少し困った顔で答えた。
「...覚えてないの?」
「え...?」
息も整って来たのかしっかり立ち上がると彼は言った。
「村瀬さん、さっき教室で急に倒れて、息とかしてなさそうで... だから...」
彼は少し気まずそうな顔をした。
それ以上は何も喋らなかった。
そっか、私倒れたんだ...
確かにそう言われれば納得する。
朝から今日の体調は最悪だった。
夜1時間しか寝ていなかったからかもしれない。
やたらと気が弱っていて、何をしようと思っても体や頭がうまく動かなかった。
「まあ今、先生呼んできたから、少し見てもらって...。ああでも保健室の先生じゃないから、専門的な事は... いや、まあいいか...」
吉田君は独り言のようにそう言うと、黙って歩いて端っこにあるソファに座った。
「......。」
静かだ。
普段は絶対に聞こえない、時計の針がカチカチっと動く音が今は聞こえる。
こっそり吉田君の事を見てみると、疲れ果てた様子でうつむいていた。
でも不思議な事に、それだけの心労を受けた直後でも彼はかわいい表情をしていた。
彼のIDを聞いてからずっと気まずかったけど、今は近くにいてもなぜだかそんなに居心地が悪くない。
「ねぇ...」
「...何?」
私は何となく間を勿体ないと思って、一つだけあった疑問を何気なく聞いてみることにした。
「...ねぇ、どうやって私のこと保健室まで運んだの...?」
壁にある時計を見ると、まだ放課してから30分ほど。
私がいつ倒れたのか知らないけど、そんな長い時間倒れていたわけではないはず。
でもいつのまにか教室から保健室に来ているので、よほど急いで運ばれたのだろうけど...
私がそのことを聞くと、吉田君はちょっと気まずそうにして、顔を背けた。
「いや、た、担架で...」
「た、担架?」
「そうだよ...!通りがかった先生と、2人で...!」
担架...
なるほど...
でもどこかちょっとおかしい気がする。
えっと...
「村瀬さん...!?大丈夫!?」
その時、開けられたままだったドアから、先生が一人入って来た。
わたしたちの担任になった、ゆみ先生だ。
私は取り敢えず目を合わせて、コクコクうなづいて見せた。
「だ、大丈夫です...」
「本当...?倒れてたんじゃないの?」
ゆみ先生は確認するように私吉田君の方に目をやった。
「ついさっき起きたみたいです」
吉田君はやれやれと言った具合で答えた。
「そう、よかった...」
それからしばらく、私はゆみ先生に大丈夫なのかと色々確認された。
先生は私のために救急車を呼ぼうか迷っていたけど、確かに一度倒れはしたものの、大丈夫だと思ったので断った。
それでもゆみ先生はすごく心配そうにしてたけど、昨日の夜1時間しか寝ていなかった事を伝えるとある程度理解してくれた。
◇◇◇




