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「今日はこれで解散です。皆さん気を付けて帰って下さいね~」


ゆみ先生が解散の挨拶をしてホームルームが終わる。

帰り支度を始める人、仲良くなった近くの人に声を掛ける人や、誰かに話しかけられることに期待して待つ人...

いろんな人たちがいるが、入学式の日に比べるとみんな教室から出て行く脚が遅い。

学校にも慣れて来たのだろう。帰る前に少しでも周りの人と言葉を交わして、友達を作りたがっているようだ。


しかしそんな中でもブレずに、学校が終われば一目散に教室から出ていくタイプの人間がここに1人。

いや…

ギギギ…と椅子を押す音がすぐ後ろの席から聞こえる。


どうやら2人いるようだ。

村瀬も放課後の教室に残って友達を作りたがるようなタイプではないらしい。

俺と同じ...

でも俺に関していえば今日だけは違う。


「村瀬さん」


俺がそう名前を呼ぶと、教室から出て行こうとドアに向かっていた村瀬が足を止めた。

ゆっくりとこっちを振り向く。


「は、はい...」


小さく殆ど聞こえない声で返事をしてくる。

どうしてこんなに怯えられているのか分からない。

村瀬はもっと気の強い奴かと思っていた。

実際そうで、騙されているだけかもしれない。

それでも俺は、このままじゃ我慢できない。


「ちょっと話したい事が...」


そう伝えると、村瀬は目を合わせないようにしながらもコクリとうなづいてくれた。

こんなふうに素直に従ってくれるのも意外だ。


そういえば俺は、村瀬のことを全く知らない。

村瀬が【十色】かもしれないと気づいてから、嫌いだと思って、嫌われてると思って、面と向き合うのを避けていた。


村瀬が何で涙を溢すほど【十色】での事に触れられるのが嫌なのか分からない。

でもこのまま帰ったら俺は、人に嫌がらせをして置いて知らんぷりのめちゃくちゃ嫌な奴だ。

だから...

とりあえず謝らないと!!


「村瀬さん...」

「はい...」


村瀬は目を合わせてくれないが、迷惑そうな様子はない。

じっと俺の言葉を待っている。


「えっとですね...」

「はい...」


なんて話せば...

まずは一応、村瀬自身に彼女が【十色】であるかの確認を取るべきか?

でもそれが嫌味に思われたらさらに困らせる事に...


色々と考えていると、八木が興味深そうに俺の方を見てきているのがわかった。

兎にも角にも、周りに人がいる間はちょっと言い出しにくいな...

場所を変えようにもどこも思い浮かばない。

村瀬も急いで帰りたい訳でもなさそうだし、ちょっと待つか。


「ちょっと... 教室から人が減ってから話しましょうか...」


そんな変な要求にも、村瀬は黙って頷いてくれた。

彼女は自分の席まで戻って、席につき直した。

教室から人が減るまで近い距離感でずっと向かい合ってるのも気まずいので、俺も取り敢えず自分の席に座りなおす事にした。


「なんかあったんすか?」


村瀬には聞こえないように小さな声で村瀬が聞いてきた。


「ちょっとね」


八木は少し気に食わなそうな顔をした。

村瀬が居るからか、まだ教室から帰る気はなさそうだ。

変な話を聞かれたくなくてみんなが帰るのを待っているのに、真隣の奴に黙って待機されていても困る。


「まあ、詳しいことはまた明日教えてあげますよ」


仕方なく暗に先に帰ってくれ、という意味でそう伝えると、八木は嬉しそうに軽く笑った。

何か関係を深めるキッカケがないかとダラダラと帰り支度をしていた八木もこれで納得したのか立ち上がり、ドアに向かった。

八木が「じゃ、また明日」っと俺に言い、村瀬にはぺこりと頭を下げ、教室から出て行った。


それからすぐに周辺の席からは人が居なくなった。

でもまだ話せば聞こえてしまうぐらいの距離に人が残っている。

村瀬の方をチラリとみてみると、何やら深刻に悩んでいるようだった。

まだ待っていてくれそうなので、もう少し待っていることにする。


ぽつぽつと、教室から人が減っていく。

解散の挨拶をした後も教卓に残って、群がる生徒達と話をしていたゆみ先生が、早く帰るように生徒急かして教室から抜けていく。

教室は静かになり、そんな空気感を嫌って、残ってい人たちも加速度的にどんどんと教室から抜けていく。

対角線上のあたりの席で小さな声のボリュームで話をしていた女子2人が最後に抜けると、とうとう教室は俺と村瀬の2人だけになった。



◇◇◇



...そ、そろそろ話を始めるか。

2人しかいないしな...


「......。」

「.........。」


ちょっと気まずいな

こんな高校最序盤に、まさかネットゲームで煽り合っていた相手と教室に残らなければならないなんて...

一向に帰ろうとしない俺たちは、他の人から見たらさぞ不自然だっただろう、また少し悪い目立ち方をしてしまった。

でも仕方ない、どれもこれも健全な生活を送るためだ。


しかしなんて切り出そう。

最初に謝るか?

何に関して謝っているのか理解されなかったらどうしよう。

そもそも俺だって、何がどうなっているかはっきり分からない。


...しかし考えてみれば少なくとも俺はさっきこの子にかなり嫌な雰囲気で話しかけた。

まずはそれを謝ろう。

ごめんなさい、そう言うだけ...

この放課後、俺がやるべき全てのことはそれだけだ。

よし...!


「む、村瀬さ...」


俺がそう言いかけた時だった。

同時か、ちょっと早いタイミングで村瀬の方から逆に声をかけてきていた。


「あの...」


教室に呼び止めたのは俺なのに、向こうから話してくるとは思わなかった。


「...何ですか?」


ちょうど謝ろうとしたところだったが、そうやって相手から話しかけられると俺はそれに甘えて黙ってしまった。

もごもごと口ごもりながら、何かを続けて言おうとしている村瀬の言葉待つ。


「えっと... あの... 私...私...」


彼女は言葉に詰まりながら、顔を伏せた。


「私... 私...いつも...」


いつも...?

何を言おうとしているのか分からないがとにかくとても言いにくそう。

彼女の顔は気分が悪そうに青ざめて、何かを言おうとするほど彼女は苦しそうにした。


「いつも...」


彼女はもう一度そう繰り返した。

さらに顔を下げて、もうで目も顔も見えないほど深く俯いていた。

そのままさらにズーンと上体の位置も落としていく。

下を向きすぎてバランスが取れなくなったのか、机の角を手でつまんで転ばないようにバランスをとっていた。

何を言おうとしているのか分からないが、そんなに頭を下げる必要なんてないのに...

俺がそう思っていたところで、村瀬はもう一つだけ言葉を進めた。


「ゲームの時... ぼ、暴言...」


ゲームの時... 暴言...?

はっきりではないが、間違いなくそう言った。

まさか彼女の口からその言葉が出てくるとは思わなかった。

気まずそうにしながら、「いつも... ゲームの時、暴言...」という言葉。

彼女はもしかして、いつもの非行を俺に謝ろうとしてくれているのか?


...まじかよ。

やっぱり俺は村瀬を誤解していたのかもしれない。

暴言を吐いているのは確かに良くないが、だからと言って実際の性格まで悪いとは限らないのかもしれない。

少なくとも、彼女は今、明らかに自分から謝ってくれようとしているのだ。


...でもダメだ、俺が先に謝らないと!

村瀬はまだブツブツと言葉につかえている。

もう数秒間は頭を下げたまま黙っている。

今の隙に... 俺が先に謝るぞ!

俺は体を低くしている村瀬の方の事を、まっすぐと見つめた。


「村瀬さん...!そんなことで謝らなくていい!俺のほうこそ...! さっき...!」


しかし、その時俺は気付いた。


「あれ...?」


村瀬がさらに深く頭を落としていた。

机の角を掴んでどうにか支えられていたような姿勢が、さらに下へ落ちていく...


「え...?」


最初は顔を合わせるのが気まずいとか、謝罪のためとかで頭を下げているのだと思っていたが、これは流石に様子がおかしかった。

自分の意志で頭を下げていると言う感じでは全くない。

頭はそのまま止まることなく、さらにズン、ズンと心拍に合わせて、ゆっくり力が抜けていくように床のほうへ落ちていった。


「む、村瀬さん...?」


俺がそう声をかけた直後、彼女の口から「はぅ...」と、最後の一呼吸が抜けていく声が聞こえた。

そして村瀬はガン!と、教室の床に膝を落とした。


「え?え?ちょっと!!?」


次の瞬間、まるで背骨でも抜けてしまったかのように村瀬の体はふにゃりと倒れた。

当然、重力に従って彼女の頭が教室の床めがけて落ちていく。


「おおっと!?」


まずい...!

このままじゃ教室の床に頭をぶつけてしまう!

そう思い俺は考えるまもなくババっと前に出た。

すんでのところで何とか、彼女の脇を両手で掴んで受け止めた!


あ、危なかった...

ふぅ...

それで、えっと...


「え...?」


頭が混乱している。

な、何で倒れたんだ?

って言うか大変だ!女の子の体に勝手に触ってしまうなんて...!


...っていやいや違う!

そんなことはあんまり問題じゃない気がする!

まずは一旦落ち着いて...

あ、あれ?


「村瀬さん?」


そう呼びかけても返事はない。

彼女の頭はぶらぶらと、重力に全くあらがうことなく下の方へぐったりと垂れている。


ななな、なんだこれ。

ななな、なんかおかしい。

全く動かない、電池でも切れてしまったみたいだ!


「ああああのあのあの...その...」


村瀬さんが気を失った。

え、どうしよう!

本当にどうすれば良いんだ!


とりあえずいつまでも女の子の体を触っているわけにもいかない!

片手を伸ばしてバッグ机の横に倒しかけてある俺のバッグを掴む。

中身はスカスカなので簡単な枕にできる。

そのまま引っ張り、村瀬の頭の下へと滑り込ませ、床に寝かせる事で俺は一旦手を離すことに成功した。


「ふ、ふぅ...」


よし...

これで一安心...

ちょっと制服に床の埃がついてしまうだろうが仕方ない。

よかった...


......。

ってちがう!

こんなことしている場合じゃない!


「村瀬さん...?村瀬さん...!!」


全く返事がない。

動きもしない。

呼吸さえ... していなさそうだ。


もしや...

し、死んだ!?


「ハァ... ハァ...」


や、やばい...

頭が真っ白になる。

正常に判断が出来ない。


教室で2人きり。

相手の女の子が倒れて呼吸をしていない。

もしこのまま村瀬が死んだら、俺は殺人犯に...!


まずい...

に、逃げよう...!

誰かに見つかる前に...!!


......。

いや、落ち着け...

人間はそんな簡単には死なない筈だ。


でも、何もしなかったらそれこそ本当に死んでしまうかもしれない。

俺が助けないと...!


呼吸は本当に止まっているのか?心臓は?

いや、そんな事を確かめても俺にはどうすることもできない。

誰かわかる人に...


そうだ!

きゅ、救急車!

こう言う時は救急車だ!

...こう言う時は救急車だよな?

呼んだことないけど、呼んでもいいんだよな?

いや、迷ってる場合じゃない!


携帯はどこに置いた?

枕にしてあるバッグの中だ!


村瀬の頭が床に落ちないように優しくどかしながら、枕になっているバッグの奥へ無理やり手を突っ込んで携帯を取り出し、ポチっと電源ボタンを押す。


シーン


あえっ...電源が切れている!


「あわわわわ...!」


携帯... 村瀬の携帯はバッグの中か?

いや、女子のバッグに勝手に漁るなんて...

で、でも...


いや待てよ、そうだここは学校だ!

俺はバカだった、先生たちがいるじゃないか!

救急車がダメならやはり大人に...

先生... 先生をだれか...

すぐ近くの渡り廊下を渡ればすぐに先生のうじゃうじゃいる管理棟が...


いや、まてよ...

管理棟?

そうだここは学校だ。

もっと基本的な事があるじゃないか...!


いや、しかし...!!


◇◇◇

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