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居眠り

うーん...


「...い...!...〜の2人!」


うう... 何だ...?

やめてくれ、今は寝ているところ...


「...い! おーい...!」


ああもう...!うるさい!

誰だ!こんな真夜中に!

ムニャムニャ...

うぐっ!窓からの太陽光が...!


太陽光が...?


「おい!!!」

「は、はい!!」

「最初の授業から居眠りとは、いい度胸だ」

「あ... す、すみません!」


真夜中じゃない。

全然授業中だった。


や、やってしまった!

春休みの間にメチャクチャになった生活リズム、土日である程度直そうとは試みたがダメだった。

入学式の日に比べたらましだが今日も今日とて寝不足気味。

古典の後も、2限3限と退屈なオリエンテーションが続き眠くなっていたのがここにきて出てしまった...


「お前ら... マークしたからな!」


ま、マーク!?

お、終わった...

数学のめんどくさそうな先生に目を付けられた。


「は、はい...」


しかし先生の顔を良く見ると、ニヤニヤと笑っている。

どうやら半分ぐらいは冗談のようだ。


「名前なんていうんだ?」


な、名前?

みんな静かに授業を聞いている中で、この席からわざわざ教卓まで届くような大きな声で?

だいぶ嫌だ...

でも仕方ない。


「吉田です...」

「吉田な?」

「はい...」


先生が睨むようにじっと俺の目を見つめる。

しかしふっとその目を少し俺の後ろの方へずらすと、続けて聞いてきた。


「...それで後ろは?」


先生は続いてそう聞いた。

う、後ろ?

どういう意味だ?


「え...?」

「お前じゃない、後ろの君は?」


き、キミ?

寝ぼけた頭でどういう意味か咀嚼できずにいると、独りでに後ろの席の方から声が聞こえてきた。


「村瀬です...」


ボソッと一言、女の子の声。

村瀬?なんで彼女が名前を言うんだ...?


「寝るのは家で寝なさい、授業はちゃんと聞くように」

「はい」「はい...」


あ、あれ。

もしかして村瀬も寝てたのか。


「...それで3年次に入ると、数Ⅲって奴があります、これは〜」


先生は調子を戻すと、また授業に戻った。


ふっと一息つく。

俺だけではなく村瀬の奴も居眠りか。

敵とはいえ、同時に居眠りしてくれたおかげで先生のフォーカスがばらけた気がする。

それはまあおいといて。

そういえば村瀬は入学式の時も居眠りしてたな。

やっぱり何処か抜けてるやつだ。


いや、コイツが寝不足な理由ってもしかして...



◇◇◇



「はいじゃあ次の授業からは教科書の内容に入っていくんでね、教科書忘れるなよー」


そう言葉を残して、数学の先生が教室から出て行く。


よし、やっと授業が終わった。

それでは... ネットストーカーの時間だ!


バッグからスマートフォンを取り出す。

画面を点けてブラウザを開く。

そして後ろの奴に絶対に覗かれないように体で隠しながらゲームの統計サイトを開く。


統計サイトでは相手のIDさえ分かれば、他のプレイヤーのデータを勝手に見る事が出来る。

ありとあらゆるデータを見る事ができるが、俺が今気になっているのは...


プレイヤーIDの検索ボックスに入力... 【十色】。

そして確認する、最後にゲームをプレイした時間...


8時間前...

今はお昼の13時になるところだ。

だから9時間前は、朝の5時?

どうやら【十色】は朝の4時までランクをしていたようだ。


俺には村瀬が居眠りしてしまう程寝不足である理由に心当たりがあった。

それがこれ、俺のように遅くまでゲームしていた可能性...

何処からこの高校に通っているのか知らないが、朝の5時までゲームをやっていたら寝れても精々2時間ほど。

もし村瀬 十色が本当に【十色】なら、そりゃ授業中の居眠りもするというものだろう。


俺ですら入学式の日の二の舞にはならないように、昨日は3時には寝たのだ。

結局居眠りしてしまったけど。

...まあそんな事はどうでもいい!


よし!この切り口から村瀬を攻撃してみるか。

何で寝不足なのか自然な形で追求できれば、彼女が【十色】であるしっぽでも見せるかもしれない。


でも俺から話しかけるわけにはいかないし...


◇◇◇


「この後、なんかあるんでしたっけ?」


隣で教科書をバッグにしまっているところだった八木に、聞いてみる。


「この後ホームルームあるらしいっすね」


親切にそう教えてくれる八木。

ありがとう。

だがしかし、そんな事は勿論知っている。

まずは会話のきっかけを作りたかっただけ。

ここからなるべく自然に授業中の居眠りの話題に持っていき...

あわよくばそのまま八木を村瀬にけしかける!


「それが終わったら今日は解散でしたっけ?」

「そうっすね」


八木は分かりやすい単純な返答をしてくれるから助かる。

こいつの性質を利用すれば簡単に会話を誘導できるはず。

何よりこいつは出来るだけ村瀬と話たがってる!

なんて都合のいい男だ。


「いやぁ、早く帰って寝たいですよ」


俺は苦笑いしながらそう言って見せた。


「そういえば吉田さん、さっき、授業中寝てたっすね」


八木がいじるようにそう突っ込んできた。

フハハハ!思いどうり!


「アハハ...ちょっと最近夜更かし気味で」

「へぇ、そりゃまた何でですか?」

「えっとですね...」


俺は八木の方へ体を向けた。

ついでに視界の端で村瀬の様子を伺う。

眠そうな顔でぼーっと席に座っている。


「LoLってゲームが好きで、遅くまでやっちゃうんですよね」


何でもないかのようにさりげなくそう一言。

さあ村瀬、お前の大好きなLoLの話題だぜ。


視界の端で村瀬が体をビクっとさせたのが分かった。

どうやらちゃんと効いているようだ。

やはりこの女は...


「へぇ... ろ、ロル?」


俺が何を考えているかなんてもちろん知らない八木が構わずそう聞いて来る。


「そうです、LoL」

「なんすかそのゲーム、面白いんすか?」

「まあ何ていうか、難しいゲームですね」


村瀬の方をチラッと見てみると気まずそうに下のほうへ目を泳がせていた。

LoLの話を絶対に振られたくなさそうだ。

しかしそのぐらいじゃあまだ確信はできないな。

俺は八木をこいつにけしかけることに決めた。

さあいけ!八木!村瀬との話題をくれてやる。代わりにあいつの本性を暴いてやってくれ!


「村瀬さんもやっているんですよね」


ふふっと冷たく笑いながら俺は後ろの席のほうへ何気なく会話のパスを回した。

じゃあな、楽しくおしゃべりしてくれ。


「そうなんですか?!」


思い通り、八木が食いついた。

俺なんか知らない様子で村瀬の方へ体を向け、村瀬の反応を待った。

村瀬がギクッと、蛇にでも睨まれたかのように肩を窄める。


「あっ... えっ...」


彼女は口から言葉にならない言葉をこぼしながら狼狽えた。

どうだどうだ!

おいおい、随分な慌てようじゃないか!


八木も加勢している今、無理に話を無視することもできないだろう。

いいぞ、そのまま畳みかけろ!


「村瀬さんも知ってるんすか、ろるっていうゲーム」


チャンスとばかりに八木が食い気味に話しかける。


「は、はい...」


ふふふふ...

いいぞ、いけ!八木!


「ろるってどういうゲームなんすか?」

「え、えっと... あの...」


村瀬はありえないぐらいおどおどとしている。

どうした!これがあの暴言の悪魔の姿か!

ゲーム上で散々俺に怒鳴り散らかしてきたあの【十色】が、現実でこんな滑稽な姿をさらしていると思うと気分がいいぜ!

フハハハハ!


...いや落ち着け、まだこいつが【十色】だと決まったわけではない。

陽キャが苦手なだけかも。

村瀬はなんだかわからないがまともに口を開くこともできていない。

今のうちに、俺がとどめを刺してやろう。


「LoLがどういうゲームかって...?」

「え?は、はい」

「そりゃあもう、難しいゲームですよ」

「へぇ~」

「でも代わりに面白くてね、それはもう朝までやってしまうぐらい」

「え...?それってどういう...」

「いやもう、朝の5時とかね」


朝の5時までLoLをやっていた容疑者の方へ俺はニヤリと冷たい笑みを送った。


「あっ...」


村瀬は何とか八木の質問に受け答え用と必死に上げていた顔を気まずそうにしながら、下に向けた。

俺はその時確信した。

やっぱり村瀬 十色、この女は【十色】だ!

そう確信できるぐらい、村瀬はあからさまに俺の言葉に反応していた。

動揺しすぎてハァ... ハァ...と息が荒くなっているのがかすかに聞こえる。

随分苦しそうだなぁ?


ふふふ、俺の勝ちだ【十色】!!

やったぞ!今までネット上で受けた雪辱を晴らした!

こいつに迷惑かけられたみんな見てるか!

この俯いた無様に顔を隠してるのがあの【十色】だぞ!


しかしまあこれほど簡単にへこたれるとはな。

あれだけの毒吐きなので、もう少し骨がありそうな物だが。

何だか弱すぎると言うか...

ちょっとかわいそうか?正直そんな大した事してないと思うけど。

ま、高校生活は長いんだ、一旦威嚇だけしておいて、村瀬に反省の気持ちが少しでもあるなら俺としては許してやらない事もないが...


「村瀬さん...?」


八木が不意に村瀬の名前をよんだ。

何だか随分心配そうな声だ。


「大丈夫っすか?」


続けてそう声がけする。

一体どうしたっていうんだ。

ちょっとくらい様子がおかしくても放っておけって。

全く、この女がどれだけの悪逆を働いたかも知らずに。

そう思いながらも、また村瀬の方へ目を向けてみる。


村瀬はガックリと、もう鼻の頭も見えないほど顔を落としていた。

少しじゃない、明らかに様子がおかしかった。


...あれ、何だこれ。

ちょっとゲーム上での事をいじったぐらいでそんなに...


「え、えっとぉ...」


こいつの暴言の量を考えれば自分がやり過ぎたとは思わないけど、すごく辛そうなので一応俺も恐る恐る声をかけてみる。

しかしその時、ポツリと彼女の机の上に涙が一つ落ちた。


「は...?」


な、泣いてる?あれ?大丈夫なのか?

LoLの話題を始めたあたりからずっと様子はおかしいが、これは明らかに過剰な反応だ。


な、なんで...?

大丈夫ですか?と聞きたいが、自分で攻撃した以上声もかけにくい。

どうすればいいか分からずに困っていたら、村瀬が口を開いた。

震えた声で一言だけ...


「ごめん... なさい...」


え...?

ごめん... なさい?

こいつ突然何を謝ってんだ?

まさか、暴言のこと?


八木が首を傾げ、説明を求めるかのように俺の方を見てきた。

取り敢えずすっとぼけて、さあ?という感じで俺も頭を傾けて返す。

実際本当に分かっていなかった。

そんなに暴言を吐いていることをいじられるのが嫌だとは思えない。


...別に俺はちょっと困らせる事が出来ればよかった。

ちょっとしたプロレスのような物。

大袈裟に考えはしていたが、実際には相手はちょっと申し訳ない気分にさせて、軽ーく謝ってもらってそれで終わり。

そのぐらいのつもりだった。

ゲームで会うライバル同士で前後の席になったんだから、そのぐらい許容してくれるだろうと思っていた。


なのに泣き出す?

なんでそんなに辛そうにするんだよ。


村瀬にもう一度目を向けてみる。

もう外界との繋がりを全て拒絶するかのように顔を伏せている。


おい!嫌味の一つでも返してみろよ!

お前はあの【十色】なんだろ!

ネットではヤクザみたいに暴れて、現実ではちょっと虐められただけで泣き出すのか!


これじゃあまるで...

俺が意地悪な奴みたいじゃん...


「はーい!皆さん静かにしてくださーい」


ゆみ先生が教室に入って来た。

抱えていた沢山のプリントを教卓に置くと、帰りのホームルームが始まる。

ゆみ先生の優しげなオーラを受け取って、クラスのみんなが嬉しそうにする。

そんな中俺はずっと悶々としていた。

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