表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生勇者が死ぬまで10000日  作者: 慶名 安
4章 入学試験編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

94/752

第4章ー8

 先ほどまで微笑んでいた塩顔の男は、突如として右手を目の前の賊へ向けた。


 「創造せよ。悪事を働く不届き者を制する捕具を」


 「は?」


 賊が間抜けな声を漏らした瞬間。


 「――【拘束リストゥレイン】」


 短い詠唱と共に、空間がわずかに震えた。

 次の瞬間、賊の身体を鉄製の鎖が絡め取るように出現し、四肢をがっちりと縛り上げた。


 「う゛っ?!」


 「んなっ!?」


 「がっ!?」


 連鎖するように、他の賊たちの身体にも同じ拘束具が生まれる。

 逃げる暇も、抵抗する隙も与えられない。


 「きゃあっ!?」


 「ッ!?」


 人質にされていた女性たちは、何が起きたのか分からず、ただ目を見開いていた。


 ほんの数秒。

 それだけで、十数人の賊は完全に制圧されていた。


 ――圧倒的。

 自分が剣を抜く暇すらなかった。


 「よし。これで制圧は完了かな」


 淡々とした声。

 拘束された賊の一人が、歯噛みするように呻く。


 「ク、クソォ……」


 男はそのまま、捕らわれていた女性たちの元へ歩み寄る。


 「大丈夫ですか?」


 「え……?」


 優しく差し出された手。

 女性は戸惑いながらも、その手を取って立ち上がる。


 「あ、ありがとうございます……」


 混乱と安堵が入り混じった表情。無理もない。


 女性たちを安全な距離まで下がらせた後、拘束された賊の一人が叫ぶ。


 「な、なにもんだ、てめぇ……!」


 男は静かに視線を向ける。


 「先ほど、“ヤベーブツに手を出している”と言っていたね。それは違法魔法薬物のことかな?」


 「……まさか、騎士団か?」


 「騎士団に知り合いがいてね。旅のついでに、怪しい連中を見かけたら対処してほしいと頼まれていただけさ」


 その言葉で、ようやく理解する。

 この男は偶然居合わせた旅行者ではない。

 ――最初から、賊を追ってここへ来ていたのだ。


 「騎士団にはすでに連絡してある。駐在所の者なら、明日には到着するだろう。悪いが、それまで大人しくしていてもらうよ」


 「ちっ……クソが……」


 賊は悪態をつくが、鎖はびくともしない。


 手際が良すぎる。

 事前に情報を掴み、準備し、そして確実に仕留める。

 ――プロだ。


 「さて」


 男は振り返り、自分の方へ視線を向けた。


 「君も怪我はないかい?」


 「……えっ?」


 不意に声をかけられ、少し間が抜けた返事になる。


 「は、はい。大丈夫です」


 「そうか。それなら良かった」


 胸の奥に、ようやく溜まっていた息を吐き出す。

 この人が現れなければ、自分は確実に殴られ、さらに人質の女性たちも危険に晒されていた。


 「……あ、あの」


 「ん?」


 「助けてくれて、ありがとうございます」


 素直な感謝。

 男は少しだけ目を細め、穏やかに笑った。


 「いや。君が勇気を出して声を上げなければ、状況はもっと悪化していたかもしれない。むしろ、私の方こそもっと早く動くべきだった。怖い思いをさせてしまって、すまない」


 「い、いえ……俺は何も……」


 フォローされればされるほど、自分の浅はかさが胸に刺さる。

 英雄気取りの行動が、結果として人質を危険に晒した。

 反省すべきは自分の方だ。


 それでも――この人に助けられた事実は変わらない。


 「……あの。お名前を伺ってもいいですか?」


 「ん?」


 一度は勇者に憧れた身だ。

 ならば今度こそ、恩人の名をきちんと覚えておきたい。


 男は静かに微笑み、手を差し出す。


 「私はリーフ。リーフ・エンドレッドだ」


 差し出された手は、驚くほど温かかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ