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転生勇者が死ぬまで10000日  作者: 慶名 安
4章 入学試験編

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第4章ー7

 「あ゛っ?! なんだ、これ?」


 自分たちの頭上から落ちてきた巾着袋は、そのまま鈍い音を立てて地面に転がった。

 自分も賊たちも、何が起きたのかすぐには理解できない。


 ――落ちてきた?

 いや、違う。投げ入れられたのだ。


 袋はずっしりと膨らんでいる。

 これは……財布? それも、かなりの大金が入っているように見える。

 一体、誰のものだ?


 「金貨三十枚、銀貨五十枚、銅貨百五十枚。私の手持ちすべてだ」


 静かな声が、自分の背後から響いた。


 「それでどうか、身を引いてはくれないかな?」


 「あん?」


 声の主へ振り返る。

 そこに立っていたのは、長い青髪を後ろで束ねた男だった。年の頃は三十代ほど。落ち着いた目元に、整った顔立ち――いわゆる塩顔の美形。だが、それ以上に印象的なのは、その場の空気にまったく飲まれていない堂々とした佇まいだった。


 「なんだ、てめぇは?」


 賊の男が胡散臭そうに睨みつける。


 「しがない旅行客さ。まさか旅の途中で、こんな騒ぎに出くわすとは思わなかったがね」


 「こんなしけた村に旅行だぁ? けっ、物好きなボンボンかよ!」


 「まあ……そんなところかな」


 男は肩をすくめ、淡々と答える。

 よく見れば、着ているコートは上質な生地で仕立てられており、泥一つ付いていない。明らかにこの村では見かけない類の服装だ。


 ――貴族か。

 それも、都会育ちの。


 この村から最寄りの都市までは、馬車でも二日はかかる距離だ。

 そこまでわざわざ足を運ぶほどの旅好きなのか、それとも別の目的があるのか。


 「さて、話を戻そうか」


 青髪の男は、再び賊へ視線を向ける。


 「その金と引き換えに、この村の人々へ危害を加えず、大人しく立ち去ってはもらえないだろうか? これだけあれば、しばらくは不自由なく暮らせる額だと思うが」


 「……」


 金貨三十枚。

 銀貨五十枚。

 銅貨百五十枚。


 この世界で、銀貨一枚でも一日の食事に困らない。

 金貨ともなれば、一般家庭なら数か月は余裕で暮らせる。

 それが三十枚――一体どれほどの財産なのか、考えるまでもない。


 だが。


 「へっ……!」


 賊の男が、唾を吐くように笑った。


 「俺たちが、それだけの金で満足できると思ってんのかぁ?」


 「毎日浴びるほど酒を飲んでよぉ、女を抱いてよぉ、ヤベーブツにも手ぇ出して生きてんだ。こんなはした金で引き下がれるわけねぇだろ!」


 「この村にある金と女、全部かき集めても足りねぇんだよ!」


 狂った笑い声が、広場に響く。

 ヤベーブツ――おそらく薬物か、それに類する禁制品。

 そこまで手を染めているなら、この異常な興奮ぶりにも納得がいく。


 「ほお?」


 青髪の男は、意外そうに眉をわずかに上げた。

 だが、その表情には恐れではなく――興味が浮かんでいる。


 「なるほど……どうやら“当たり”だったようだね」


 「はっ?」


 賊だけでなく、自分までもが思わず声を漏らす。


 取引を拒否されてなお、この男は微笑んでいた。

 まるで、最初からこの答えを期待していたかのように。


 「悪いが――」


 青髪の男が、一歩前へ踏み出す。


 「今の話、もう少し詳しく聞かせてもらおうか」

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